106 / 112
第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
106.……んで、どうしよう?
しおりを挟む☆☆☆☆前回まで
ベルクが投げてくれた隷従の鏝を受け取りに走ったレオ。
時間的にも距離的にもギリギリなのに、レオと鏝の間にはリンガーとスカムが立ちはだかっていた。
レオは、二人に偽装攻撃を仕掛けて、動きが止まったところをすり抜けようとする。
しかし、何故かスカムにはレオの企みが“視えて”いて――。
それを聞いたリンガーは、息子であるスカムをも犠牲にしてレオの動きを止めにかかる。
『大きく動けば鏝が地面に落ちて壊れてしまう』
レオは、この窮地を二人の足下を【掘削】して掘り下げ、自分はその上を駆け抜けるように跳び越えて切り抜けた。
そして、無事に鏝を受け取ることに成功する。
☆☆☆
☆☆
☆
取った!!
最後は転がるように鏝に飛び掛かって、なんとか受け取ることができた。
ゴロンと一回転して着地した俺は、リンガーとスカムが穴ぼこに尻もちをついてるのを確認して――。
ようやく手元の鏝に目を落とす。
何の変哲もない木の持ち手。
そこから金属の棒が伸びていて、途中で項垂れるように直角に近く折れ曲がっていて、その先には同じ金属製の円っぽい鏝先――本体がくっついている。
大きさは膝小僧くらい。
ひっくり返して印面を見れば、ほとんど全面を占めるように、ひと目でヘビだって分かる“頭部だけ”が刻まれていた。
正面を向いて口を閉じて舌先が出てるヘビの顔。
それも一筆書きっぽい浮き彫りだ。
俺も“帝国”で経験したけど、身体に捺された後、焼き入れられたその痕は不思議なことにとぐろを巻くヘビになっていた。
現にモモンガ娘の背を首に向かって這っているヘビも、ニョロニョロと全身が伸びている……。
ヘビの姿のことは置いといて、今は印面の顔だ。
ヘビには両眼があるけど、そこにはスキル結晶が埋め込まれていた。
モモンガ娘を抱えてて片手が塞がってるから、持ち手を握る手を緩めてスルスルっと落として印面を直に持って……指で結晶に触れる。
片目の結晶はコアスキル【服従〈2〉】。もう片目のは……。
「【呪縛〈3〉】?」
これもコアスキルだけど、〈3〉っつう高レベル!?
さらに!
口から出ている、二股に分かれた舌の上にもスキル結晶が。
「ひ、【憑依〈2〉】?」
こりゃあ、レアスキルだぞ!
そんで、一筆書きのように浮き彫りになってる“線”が、回路のように三つのスキル結晶を一本の線で繋いでいる。
その線は、印面から棒、そして持ち手の底――剣で言う柄頭の部分――まで続いていて、そこには魔石が嵌め込まれていた。
“帝国”では本当に熱せられた鏝で焼き入れられたけど……。
これは魔石の魔力で“焼き入れ”と同じ効果を出す、そして三つもスキル結晶を使った魔道具だ。
印を捺した相手に『ヘビを取り憑かせて【服従】を縛り付ける』……って感じか。
なんとなく、俺が“帝国”で捺されたヤツより縛りが強そうだ。
「ん?」
……これ、魔石はもちろん魔物――ヘビ系の魔物の魔石なんだけど……。
込められてる魔力は人間の魔力だ!
しかも、混じり気のない、一人の魔力。
――そうか! これは多分、リンガー・ロウブローの魔力。
『魔石の魔力でヘビを取り憑かせて、その魔力の持ち主に【服従】するように縛り付ける』
なんつう趣味の悪い魔道具だよ……この鏝。
「う、うぐぅ!」
おっと、鏝に気を取られてる場合じゃなかった。
モモンガ娘が限界そうだ。
この鏝を――。
「…………」
鏝さえ見つければ、壊さずに受け取れば、何とかなるって思って動いたけど……どうすればいいんだ?
モモンガ娘は獣人。
獣人にはスキルが無い。ということは、体内にスキル結晶も無い。
だから、そもそも【スキル譲渡】とか【スキル吸収】でスキルのやり取りができない。
鏝のスキル結晶を俺が取り込んで、【服従】スキルをモモンガ娘に譲渡して、服従の相手を俺に“上書き”して別の命令をすることもできな……。
「――そうかっ! 上書きか!!」
俺は【魔力纏い】状態になり、全身の表面に魔力を張り巡らせる。
そして――。
鏝の魔石に触って、魔石にも魔力を流し込む。
魔力を入れ替えるんだ!
――くっ! はいっているのが他人の魔力な上に、それが黒々と満ちていたから抵抗が強い。
けど、街道での獣人傭兵達との戦いで、【魔力纏い】の扱いにも慣れたし、“人間”のコアスキルの【魔力操作】も引っ張られて成長したんだ。
俺は集中力を高めて、魔石に俺の魔力を押し込み、その分のリンガーの魔力を押し出していく。
「おっ?! こう、か? よし、こうだな。いいぞ」
コツを掴んだら、スルスルと魔力が入れ換わっていく。
「耐えろよ、モモンガ。もうすぐ、何とかしてやれる(と思う)からな!」
「ふぎゅぅ~、も、もうダメかも……」
リンガーの魔力が全部押し出されて、魔石には俺の魔力が満ちた。
【酸素魔素好循環〈3〉】でも回復が間に合わなくて俺の魔臓が空になりかけてクラクラするくらい、そして、元々の量よりも多く魔石が保つ限界まで入れた。
そうしないと、上書きできなさそうだったから。
そして!
俺の魔力が満ちた鏝を振り上げて――。
モモンガ娘の白い毛の奥で、首に辿り着いて牙が見えるくらい大口を開けているヘビの、その頭に――。
振り下ろす!!
おまけで、俺の【魔力纏い】の魔力も付けてやる!!
バシンッ!!
「――ふぎゃあっ!」
鏝が勢いよくモモンガ娘の首に触れると、鏝の魔石が炭色に光を放ち始めた。
パァアア……シュルシュルシュル。
その光が俺の魔力とも混じり合って、鏝を走る線を走り、あっという間に印面に到達。
そして、印面が一際激しく放った光が漏れ見えた。
「――ッ!!」
直後、鏝の魔石が色を失って透明になり――。
バリンッと砕け散った。
俺は鏝を放り投げ、モモンガ娘の首の毛を掻き毟るように退けて、ヘビを確認だ。
口を開けて、今にも噛みつかんとしていたヘビは……とぐろを巻いて澄ましている。
「…………。モモンガ娘、お前に命令する」
モモンガは俺の腕に寄り掛かってグッタリしている。
けど……彼女の丸みのある耳が、俺の言葉にピクリと動いた。
「自由に生きろ」
20
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
村から追放された少年は女神様の夢を見る
月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる