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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
103.敵が出揃う(←そんなに強くない)
しおりを挟む【水上跳躍〈3〉】で噴水の泉から飛び出した俺は、その跳躍の高さに自分でもびっくりしつつも、着地場所を見極めようと下を見遣る。
瓦礫の転がる地面には、サーベンの他に護衛を引き連れたリンガー・ロウブローもいて、全員が口をポカンと開けて俺を見上げていた。
下に降りたら、即戦闘突入だな。
けど、今まで体内収納に仕舞っていた剣を取り出そうとしたところで、俺は目が飛び出そうなくらいギョッとする。
「――はあっ? なんじゃこりゃっ!?」
剣を出そうとした右手――だけじゃなく、モモンガ娘を抱えている左手も……その指と指の間に、変な膜みたいなのが張ってやがる。
……水掻きじゃねえかっ!!
ついでに、なんか肌がヌメヌメしてる気がするし……。
リビングデッドにこんなの無かったじゃねえかっ! なんで俺に出るんだよ?!
助かったことは助かったけど……糞スキルだったか!
けど、飛びきったかな? ってところで跳躍スキルが切れたみたいで、その水掻きやヌメりは引っ込んでいった。
できれば見なかったことにしたかったけど、それは出来そうもないんで棚上げして、今は降りてからのことに頭を回す。
「と、とにかく戦いに備えるぞ……」
相手はサーベンと、ちょっと離れた位置にリンガーと軽鎧姿の三人の護衛。
リンガーにはあの豚息子のスカムと同じ【損傷転嫁】ってスキルがあるって、ベルクの爺さんが言ってたな……。
あのバカ豚息子が、確か……二回、俺からの攻撃を護衛に身代わりさせてた。
リンガーは護衛を三人連れてるから、奴を狙ったとしても少なくとも三回は身代わりさせられるって見た方が良いな。
それに、護衛は身代わりになる順番が分からねえし、実力のほども分からねえ。
いきなり大人数とやるよりは、力は警戒すべきだろうけどサーベンひとりと戦った方が良さそうだ。
俺は、降り際に瓦礫を蹴って方向転換。
おでこに血管を浮かせて、鼻息荒く総髪を揺らすサーベンに斬りかかる。
「ふんっ!」
――ガン!!
「なっ?!」
けど俺の剣は、フレーニ婆さんのように拳闘士の構えをとったサーベンの左握り拳の甲で弾かれてしまった。
良く見ればサーベンの野郎、両手に指なし手袋をしていて、それぞれの甲部分には鉄が仕込まれている。
それでも手対剣なのに、サーベンのガードが上手かったのと、有り得ないくらいの力で俺の剣の方が派手に弾かれちまった……。
さらに、剣ごと右腕を跳ね上げられちまって、しかも左腕はモモンガ娘を抱えててガラ空きになった俺の顔面めがけて拳が繰り出された。
「ふぅんっ!!」
「――くっ」
辛うじて避けたけど、その拳圧でこめかみ辺りがジンジンする。
予定外の位置に着地した俺は、ひとまずサーベンやリンガーらのいない方向へ飛び退く。
リンガー達は、瓦礫を避けるのに苦労しながらこっちに向かっている途中。
そして、サーベンは……拳闘の構えをとって俺を睨みつけている。でも、肩を大きく上下させるくらい呼吸が乱れていやがる。
……もしかして、馬鹿力の代償か? 連発の利かないスキルっぽいな。
そんなことを考えていると、リンガーがサーベンに叫んできた。
リンガーの息も弾んでるけど、これはただ体力が無いだけみたいだ。
「おいっ! サーベン! な、なぜそのガキは生きている?! そ、それに、この惨状……!」
サーベンはリンガーに目を向けることなく、俺に向かって拳を構えたまま――。
「申し訳ございませぬ。こうなってしまった以上、このサーベンが命に代えても、この場で仕留めて御覧に入れます」
――息苦しさは残っていそうだけど、しっかりとリンガーに届く声量で答えた。
「今度こそ抜かるでないぞ!」
「……御意」
サーベンの目付きが更に鋭くなる。
拳闘の構えも、フレーニ婆さんとは少し違うけど、なかなか様になってる。それなりに場数を踏んでるんだろう。
そして、その目で俺とモモンガ娘を見比べながら口を開く。
「おい、ガキ……二つの仕掛けに……抜かりは無かった、はず。お前もその獣人も……なぜ生きている」
毒や爆発を切り抜けたこと、さらにはモモンガ娘が生きてるのが信じられないようだな。
誰が教えるかっつうの!
サーベンの言葉には答えず、俺は剣を向ける。
腕の中のモモンガ娘が辛そうで、ちょっと急がなきゃならねえようだからな。
サーベンかリンガーのどっちかが、隷従の鏝を持っててくれれば話が早いんだけど……。
「答えないか。……まあいい、ここでお前達を仕留めれば結果は同じだ。――ふんっ!!」
サーベンが気合とともに地面を蹴って、俺に突っ込んでくる。
「――おっ!?」
なかなか速い。蹴り足に馬鹿力を込めたようだ。
俺との距離が一気に詰まる。
……まあ、ファーガスやリオットルの獣化状態に比べれば遅い遅い。
俺も敢えて【突撃】で踏み込み、あっという間に肉薄。
俺も突っ込んできたことに驚くサーベンの土手っ腹めがけて【刺突】。
「くっ!」
サーベンは強引に左腕を引き、左甲の鉄板で俺の剣を弾きにくる。ギリギリのタイミング。
弾けるか? 俺のは【多重突き】だぞっ!!
――ガギッ! ギィン! シュパッ!
「――ぅゔっ」
三段突きになった俺の【刺突】が、一度は防がれたけど、二突き目で鉄板を割り、三突き目でサーベンの左腕を甲から肘にかけて斬り裂いた。
浅かったか。けど、今のこいつの防御……馬鹿力じゃなかったぞ?
斬られたサーベンは、痛みのあまり腕を引く。
俺も馬鹿力に対抗しようとして力を込めたせいで、腕が伸び切って剣がサーベンの後方に流れてしまった。
だが、これで終わりじゃねえ!
今度はサーベンが腕を引いて、奴の胴体がガラ空きになってる。
そこに……【ぶちかまし】!
――ドンッ! メキメキ!
「ぐはぁ……」
俺の全体重が乗った体当たりで、サーベンの野郎はあばら骨の折れる音を残してぶっ飛んでいった。
そして、瓦礫に派手にぶち当たって、血反吐を吐いて気を失った。
その様子を見ていたリンガーが驚きとともに「サーベンッ!!」と呼び掛けるが、奴の反応は無い。
……さて、今体当たりをかました感触だと、サーベンは焼き鏝を持っていないな。
じゃあ、リンガーか……。
俺がリンガーに視線を向けると、奴は怯んで後退りした。
代わりに護衛の三人が主人を庇うように前に出てくる。
構えからしてなかなかの腕利きっぽいけど、まあ、大したことなさそうだ。
サクッと倒そうかと、足を踏み出そうとしたその時――。
「ちっ、父上ぇ~! ぐへっ!」
半泣きのような情けない声で叫びながら、丸々と太った銀髪キノコ頭のチビが、崩れたエントランスの隙間から転がるように出てきた。
ってか、瓦礫に蹴っ躓いて、ホントに転がった。
その後ろからコバーンとザーメだったか? が慌てて出てきて、起き上がらせる。
――プッ!
立ち上がったバカ豚息子の恰好。シャツは半ズボンからだらしなくはみ出てるわ、何よりそのテカテカ半ズボンには、濡れて染みができてやがる。ションベン漏らしやがったか?
それにはリンガーも気付いたようで、声を荒げる。
「スカム! なんだ、そのみすぼらしい姿はっ!?」
「あっ、いや……違うのです! こ、これは、トイレで用を足している時に城が揺れて……その……驚いて尻もちをついた時にかかっただけなのです! ――ああっ! お前はあの時の!!」
父親の追及にシドロモドロになって、目を泳がせながら言い訳してる豚息子と目が合った……。
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