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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
81.魔物の……クソの方のスキルを使うしかない
しおりを挟む「プフェ姉ちゃん、僕にも! 僕にもその男の子のちっちゃくて可愛いお尻を使わせてよ~?」
「フェド……仕方ない弟ねぇ、壊さないって約束するならぁ貸してあ・げ・る」
「やった~!」
「…………」
馬獣人の……たぶん姉弟の会話に、俺はケツにムズムズッと危機を感じる。
……こりゃ、何としてでも切り抜けねえとな。
いや、それよりもマリアだ。
刃物を突き付けられてるわけじゃねえけど、馬女の腕を首に回されて絞めつけられ、左腕も後ろに捻じ上げられちまってる。
マリアには回復スキルがあるし、すぐにどうこうされる様子じゃねえけど、早く助けてやりたい。
俺が“自分のことを気にしてる”と気付いたマリアは、首に回された馬女の腕をグッと引き下げて――。
「レオ! 私なら大丈夫だか――うぐっ」
「ちょっとぉ、青臭い小娘は黙っててくれなぁい?」
――言い終わる前に首と腕の締め上げをきつくされてしまう。
はあ? マリアは青臭くねえだろっ! マリアは良い匂いだ!! 馬女、お前は許さん。
……絶対に助けるからな、マリア!
その為にどうすべきか考える。
俺の右っ側には熊と馬男、左っ側に馬女と人質のマリア。
正面の離れたところで、ベルナールと獅子獣人がサシの勝負をしてる。
しかも、どう見てもおっさんの方が押されてる。おっさんも、こっちの状況は見えてるみたいだけど、手出しできないって感じだ。
まず、馬女に突っ込んでってマリアを、次にベルナールに加勢?
それを熊や馬男が黙ってさせるワケ無いよな……馬女だって抵抗するだろうし……。
じゃあ先に熊と馬男か? 獣化した獣人二人を相手するってか?
――って、いろいろ考えるけど、どうするにしても今の俺には武器が無いんだった。剣は熊獣人の傍に落ちてる。
剣無しで、体術系の魔物スキルとか【初級拳闘術】で戦うには分が悪過ぎる。
俺がグダグダしてる間も、馬女が弟や熊に指示を出す。
「フェドォ? 坊やを確保なさぁい。壊さないようにね」
「わかった、姉ちゃん!」
「それとビーア副長、生意気にもリオットル様にちょっかい掛けてるあのおっさん、殺して下さらなぁい?」
「……(コクコク)」
なっ?! おっさんがますます追い詰められちまう!
馬男も熊も、馬女の言葉にすぐに動き出そうとしてる。
こんなんだったら、昨日使ってたスコップでもリビングデッド冒険者の武器でも【体内収納】に入れとくんだった……。
ん? 【体内収納】?
――そうか! この期に及んで魔物の……クソの方のスキルを隠そうとしてるから、手が無いんじゃねえか!
ここを切り抜けられるんだったら、おっさんに見られても仕方ねえ。後で説明すりゃいいだけだ。どういう反応をされるかは知らんけど……。
よし、ふっきれた! こっからは使えるものは全部使う!
全部使って剣を手に入れて、おっさんに向かう熊も止めて、なによりマリアを救出する。
まず、四足でベルナールに向かう熊野郎の気を引く。
「おい、ビーアっていったか、俺を殺すんじゃなかったのか? 出来ねえからって、その丸い尻尾巻いて逃げんのか?」
熊の肩がピクッと反応。
足も止まって、振り返ってなんか言ってきそうだけど――。
それには構わず、俺に駆けてくる馬男に向かう。
魔力纏い! 【隠匿】で気配を薄めて、【突撃】っ!!
馬男のダッシュと俺のダッシュで一気に距離が縮まり、肉薄。
いつもだったら【硬化】からの【ぶちかまし】を選ぶとこだけど……【軟化】だっ!!
「小童、小癪。後で必ずころ――」
熊野郎が何か言ってきてるけど、お前を足止め出来ただけで充分。聞く必要はねえ!
そんなことより、俺を跳ね上げようと振ってきてる馬男の頭を……軟化した胴体で受け止める――っつうか、包む!
――ぺチャッ。
お互いの突進の勢いで俺は下腹部を一気に後方に持ってかれるけど、手足は前に、気持ち悪りいくらい伸びる。
「は? ぇえっ?! むぐっ……」
馬男は走ったまま混乱。そして、伸びた俺の身体に顔を包まれて口を塞がれたみたいだ。
俺は、それで終わらない。
ピラピラと風圧に靡く頭と手足のうち、右腕を力いっぱい振って前に伸ばす。誰も傍に居なくなった俺の剣に向けて。
いいぞ、剣を掴んだ。すぐさま【巻きつき】で引き寄せる!
【巻きつき】によって、俺の身体は腹の下あたりで馬男の馬頭に余計張り付き、伸びの少なかった足はすぐに野郎の首に纏わり付く。上体も腹の方に引き戻されていく。
「――小童っ?」
「きゃあ、何あれっ!?」
「むごおお……ぐっ、ぐるじ……」
たった数秒で伸びたり縮んだりする俺の姿に、熊も馬女も驚いてる驚いてる。熊は茫然と突っ立つし、馬女なんて甘ったるい喋り方を忘れてやがるし、弟馬は息が出来ねえらしくて脚を止める。
ここで、このコイツの背に剣を突き立ててやってもいいけど、今は時間が無い。窒息でもして、気を失ってろ!
「何やってるのよ、フェド! 苦しいのなら獣化を解いて、急いで離れなさいっ!」
「ぶ……ぶり」
――弟を気にしてる余裕あんのか、馬女! 今、俺がドコにいるか見えてるだろうに。
そう! 馬男が突っ込んで来てくれたおかげで、そこに張り付いた俺は、元の位置より馬女に近づけている!
だから俺は、腹の方に引き戻されていく勢いを利用して、ようやく手元に戻ってきた剣を馬女に巻きつくように投げつける!
もちろん柄を握ったままで、だ。
「早くなさ――なっ!!」
縮んだと思った腕が、今度は自分に向かっていることに馬女が驚く。でも、遅いんだよっ!
俺の腕は、もう馬女の顔のすぐ横を通り過ぎてんだから。
そして、モモンガ娘の時と同じ感覚で肘に力を加える。
すると、俺の腕は狙いどおりクイッと軌道を変えて、今度は肘から先がグルグルと馬女の頭に巻きついていく。
しかも巻きつきながらもその遠心力で更にペラペラ伸びるっつう、気色悪さ。
「まずいっ――や、やめ……」
馬女も俺の腕の巻きつきで口を塞がれる。
弟のことを見てるから自分も危ないって思った馬女は、まだまだ巻きつき続けてる俺の腕を解こうと、マリアを絞めつけていた手を離した。
よし、マリアが解放された!
けど、彼女も俺の姿にビビったのか、その場に尻もちをついちまった。
――でも、これで終わりじゃねえぞ!
「マリア! 頑張って動けっ! そこを離れろ!!」
「う、うううんっ」
俺の発破に、マリアは長杖を杖がわりに、転がるように馬女のもとを離れるのが見える。いいぞ!
――そして、終わりじゃないってのは、まだ狙う相手がいるからだ!
熊、お前だよっ!!
馬女に巻きつき続ける腕のタイミングを見計らって、――剣を離すっ!
アーロンさんがファーガスに“風纏いのナイフ”を投げてたみたいに、俺も魔力を纏わせたままを意識して離す。
「ぐおっ……」
俺の手と剣が、糸みたいに細い魔力の線で繋がってる感触と引き換えに、身体からごっそりと魔力が抜けていく。
いいぞ、剣は魔力を纏って一直線に向かってる。
――ズバッ!
剣は、厚い毛皮に覆われてる獣化熊の右胸に、深く突き刺さった。
「――ッ! ふ、不覚っ……」
熊は驚きに目を剥き、急いで剣を引き抜いた。地面に片膝をついたけど、致命傷って感じじゃ無えな。
チッ! 心臓の辺りを狙ったのに逸れたか……。
――まあ、しょうがねえ。
馬姉弟・熊を仕留めることは出来なかったけど、マリアを救い出せたしおっさんの方にいかないように足止めも出来たぜ!
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