禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

文字の大きさ
上 下
79 / 112
第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

79.熟練(元)冒険者の誘導

しおりを挟む
 顔面に剣が突き刺さって絶命した猿野郎は、マリアを捕まえていた腕や膝の力が抜けて、ズルズルと崩れ落ちる。
 俺は解放されたマリアを抱き止めた。

「マリア、良くやったな! すげえぜ、お前」
「ううん。レオがちゃんと見ていてくれて、解かってくれたからだよ」

 マリアは、わざと猿野郎に捕まったんだ。
 そして、野郎の不意を突いた。それも、『発火』なんつう初歩の初歩の魔法で、一瞬だけ目を閉じさせた。

 俺には、その刹那の隙で充分。
 魔力纏いで鋭くなった動きで一気に踏み込み、これまた魔力纏いで鋭くなった剣をブチ込めばいいだけだった。

 それでも流石の獣人。反応速度がえぐかった。
 【多重突き】……しかもレベル〈2〉の“三重突き”じゃなかったら、たぶん跳び退すさられて命までは奪えなかっただろう。

 ともかく、獣化されることなく猿野郎は倒せた。
 囮にされた馬は混乱して平原まで逃げて、今はちょっと離れたトコで止まって草を食っている。これなら、終わった後に捕まえやすそうだ。
 そして、その馬がいた場所には、女が落ちたまま。生きてるみてえだけど、縛られてるトコを見るに途中で攫われたんだろう。

 なんとかしてやらねえとな、なんて考えてると――。
 ――ゴォアアアアアッ!!

 俺らの背後から、潰れた喉から出てきたような野太くて重い唸り声が轟いた。
 何かに圧し掛かられたように全身を押さえつけられ、筋肉がすくみ、手足の指すら動かせないくらいの……恐怖?

 ――そうだっ、そっちではベルナールも戦ってるんだった!

「ぐっ、う、動け!」

 自分の意志で動かない身体に魔力を纏わせて、なんとかかんとか振り返る。
 目に映ったのは宙を飛ぶ全身を金色にも見える毛に覆われた獣。それと、大剣を頭の横まで持ち上げて構えた状態――八相の構え――で、獣を口を開けて見上げるベルナールの姿。

 ☆

 レオと猿獣人・マウキが接触する直前。
 一足早く、ベルナールと狐獣人・フォッシュが剣を交えた。

 ブンッ、――キィン! ――キン――ギャン、キンッ――キキン!

 騎馬したままサーベルをふるうフォッシュと、下から躱したり大剣で受けるベルナール。
 狐獣人は馬を巧みに操ってベルナールの周囲を駆け、休む間もなく縦横無尽にサーベルを繰り出し続ける。
 その剣閃はひと振りが幾筋にも分裂して見えるほど速い。
 しかしベルナールも、フォッシュの執拗に続く突きや払い、時にはしなりを利用した攻撃を、大剣の角度を器用に変えながら凌ぐ。

 その一方的な攻防が続くが、押してるのは……。

「チッ、なんだよこのおっさん!」

 馬でベルナールの周囲を駆けながら、しなやかな筋肉でサーベルを繰り出し続ける狐獣人の顔に、余裕も高揚感も無くなっていた。焦りで引き攣った表情。
 ベルナールが剣閃を全部受けきっているからだ。

 そのベルナールも、受け一辺倒で攻撃に転じられていないが、追い詰められているのはフォッシュの方だ。
 現役を退いているとはいえ、さすが歴戦の冒険者、獣人相手であろうが引かずに捌いている。

「くっ、こうなったら……」

 業を煮やしたフォッシュが、獣化する構えを見せたその時――。
 焦りを見抜いたベルナールが動いた。
 フォッシュのサーベルを捌く手を止め、自身の周囲を駆ける馬の正面に飛び込む。
 そしてすぐさま、轡と手綱を繋ぐ円い金具――ハミ環――を引っ掴んで強引に引き下げる。

 ――ヒヒィィィイイッ!!

 馬の頭がグッと地面にまで下げられて、驚いた馬は足を止め、後ろ足を蹴り上げて前につんのめる。
 その背に乗るフォッシュも、当然前に――空中に投げ出された。

「なっ――ヤローっ! うぉおおおおおああああー!!」

 ベルナールの頭を越えるように投げ出された狐獣人は、手綱を離して空中で体勢を整えつつ獣化しようとする。

「チィ!!」

 すぐ対処したいベルナールだったが、ひっくり返りそうになった馬を受け止めることに気を取られて、一歩出遅れた。

 結局狐獣人は服を破って獣化し、全身黄土色のフサフサ毛並みに覆われた狐になって着地した。
 かつてのファーガス同様に二足で立ち、サーベルは打ち捨てて、前脚――手から鋭い爪を伸ばして身構えるフォッシュ。
 その正面で、ベルナールが大剣を構えて向き合う。

「人間風情が……ウチのサーベルを受けきるなんて、舐めた真似してくれるじゃーねえかよぉ」
「あ? 普通に対処しただけだぜ?」

 不機嫌を隠さずに声を発する狐獣人だったが、その獣の表情からは焦りが消えている。
 対するベルナールにも、笑顔を見せる余裕があった。

 だが、見下すべき人間の泰然とした姿に、フォッシュはギリリと奥歯を噛み、爪に力を込めて動く。

「ちょっとサーベルを凌いだからって、いい気になるなよ。その生意気な面ぁ、ウチの爪で切り刻んでやるっ!」

 激情のフォッシュが、黄金色とも言える艶やかな黄土色の毛皮に覆われた脚に力を込めて、一気に距離を詰める。
 その速さは、魔力纏いとスキルを駆使したレオを上回るほど。
 辛うじて反応したベルナールが、身と正眼に構えた大剣を柄頭が頭の横にくるほど高く引く。そして、自らの懐に出来た間合いにフォッシュを誘い込む。

 ――が、狐獣人は跳び込まなかった。
「むっ!?」
 ベルナールの視界からフォッシュが消えたのだ。

 狐獣人は上にいた。
 垂直に近い角度で跳び上がり、生身の肉体でありながら身の丈の三倍以上の高さに達していた。
 その頂点で、長い尾と体幹で巧みに体勢を入れ替え、自分を見失って無防備に頭を晒すベルナールに上半身から突っ込むように襲いかかる。

「うぉおおー! 死ねぇええい、ザコ人間があっ!!」

 しかし、フォッシュのたけりに宙を見上げたベルナールは、狐にチラリと目を向けただけで逆に口の端を引き上げた。

「嵌まったなっ」

 ――『我が意を得たり』と。
 獣化したフォッシュの跳躍が想定よりも高かったが、それ以外のフォッシュの動きはベルナールの長年の経験や潜った修羅場の数が成した誘導だったのだ。

 そして、対獣人、しかも短期にけりを付ける最善の手を打つ。
 それはベルナールが冒険者人生の中で身につけたスキル、【暴圧ぼうあつの咆哮】。
 人間の【威圧】や魔物の【威嚇】【咆哮】、それが習熟して進化した先にあるレアスキルである。いくつかの欠点・留意点はあるものの、自分を中心とした一定距離内にいる生物全てに畏縮をもたらす。

 ――ゴォアアアアアッ!!

 瞬間、フォッシュは恐怖にとらわれ、その身体から自由が失せた。

 ☆

 ――獣化されてんじゃねえかっ!
 俺とマリアが猿に係りっきりの間……つっても数分程度、剣撃が続いたと思ったらゴァアア、そんでこれだよ。どうなってんだ?
 狐野郎が、鋭い爪を剥き出しにした手を伸ばして、上体から今にもベルナールに襲いかかるトコか?
 ヤバい、やられちまう!!

 その瞬間、おっさんの頭の横で構えられていた大剣が、光の尾を引くように振られた。
 大振りもいいところだ。簡単に躱されるだろ!?

 でも、そんな見え見えの大振りに、獣化した狐が反応する仕草が無く、そのまま大剣の軌道に落ちて――。

 ズバンッ!!

 狐野郎の身体が、縦に真っ二つに切り裂かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

村から追放された少年は女神様の夢を見る

月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...