禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

78.『獣化』される前に……

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 獣人のヤツらには、俺らが誰で何処から来て何処に行くのか、関係無いそうだ。
 なぜなら――。

「お前達は今、この場で死ぬのだから」

 腕組みして仁王立ちの姿勢、それに俺達を見下した視線で重く告げる獅子の獣人。

 ――って、門答無用かよ!?

 こっちはお前達の素性を知りたいってのに。
 まあ、ロウブローの手先に違いねえんだろうけど……。

 好都合なことに、獣人達に動きは無い。蔑んだ、そして下卑た視線を寄越してるだけ。
 この隙に、向こうをじっくり観察する。

 俺らとの距離は三〇mくらい。
 四人がほとんど横並びで、左から狐獣人、熊獣人、獅子獣人、猿獣人。

 “旦那”って呼ばれてたし今も偉そうなことを言ってたし、他の三人の態度を見ても、獅子獣人がリーダーだな。

 狐と猿は馬に乗ったままで、熊と獅子は下馬して、後ろにデカイ裸馬が二頭いる。
 ファーガスとは違って、狐はサーベル、熊は大ハンマー、猿が縄のムチを、それぞれ腰や背中に携えてる。
 獅子だけが無手……だけど、やっぱり一番厄介そうなのも獅子だ。ファーガスと同じ強者のニオイ。


 ヤツらから目を逸らさねえで、ベルナールを窺う。

「……おっさん、どうする?」
「敵意を向けられて、ああまで言われてんだ。何も無しで終わるわきゃねえ。何とかするしかねえ」
「……だよな」
「あと、馬も欲しい」
「ブレねえな……」

 この獣人との衝突は避けられねえ。
 一番気を付けねえといけねえのは『獣化』だ。強さのケタが上がるから、獣化される前に倒したいところだ。

 ベルナールもその辺を理解してるようで――。

「長引かせると、どんどん不利になる。レオ、最初から全力でいくぞ。マリアは魔法を頼む。オレ達から離れ過ぎるなよ?」
「うッス」
「はい」

 隊形は逆三角形。俺が右でベルナールが左の前衛、後ろのマリアには近付けさせない。
 俺らが覚悟を決めて武器を構えると、向こうからも声が上がる。

「ウッキィーッ! オイラ、もう待ち切れねぇや、行っていいですか、旦那ぁ?!」
「あっ、ズリイぞマウキ! リオットルの旦那、ウチもっ!」

 両端の猿と狐が、逸る気を抑えられねえようだ。猿なんて、涎を撒き散らしながらウキキウキキと叫んでやがる。

「ふっ……まあいい、マウキとフォッシュ、お前らに先陣を譲る」
「――ウッキャァアアー!!」
「――よっしゃあっ!」

 そして、リオットルの許しが出るか出ないかの内に、それぞれが飛び出してきた。

「「――っ! 来るっ!!」」

 左端の、襟のデカイ白シャツをヒラつかせて気取ってる狐獣人が、サーベルを引き抜いてベルナール目掛けて一直線に馬を走らせる。
 そして俺側――右端の、透けた網シャツに短パンのエロ猿は、曲芸みたいに鞍の上に立って頭上で縄鞭じょうべんを振り回し、少し外に膨らみながら俺の方に駆けてきた。

 二人しか相手にしなくていいなんて、こっちには好都合だ。
 狐はおっさんに任せて、俺は卑猥な猿野郎に集中だ!
 そんで、最初から全力だから――。

 魔力纏い!!

 昨日の実戦経験で、より滑らかに、俺の身体と剣を均等な厚さの魔力が覆った。

 ブンッ、――キィン!
 おっさんが狐と接触した音を背後に感じながら、俺は馬とその上で跳ねる猿に集中する。
 こいつ……いつまでもマリアを見てんじゃんねえ!

 どんどん馬が近付いてくるけど、猿野郎は相変わらず馬上で鞭を回したまま。
 馬を傷付けるわけにはいかねえから、猿野郎を引きずり下ろすのが第一目標だ。
 ……俺に鞭を振り下ろしてきた時が狙い目。剣で巻き取るか、左手で掴んで、引っ張る!

「すぅう……」
 ――来いっ!

 集中して、その時を待つ……。
 俺まであと一駆けってところまで馬が肉薄してきても、鞭が来ない。

 その時――。
 ――ヒギィイインッ!!
「――なっ?!」

 馬が俺の真ん前でいなないて竿立さおだちになって、視界のほとんどを馬の脚や腹が満たす。
 オス。
 ――そういうのはどうでもいいっ!

 変な思考を振り払って、馬の前足の着地に巻き込まれないように斜め後方にずれながら、素早く視線をめぐらせる。
 どこだ? 猿野郎は、まだ馬の上にいるのか?

 そこに、馬の後ろからドサッと何かが落ちる影と音。
 猿野郎かと思ってすぐに見遣れば、それは生きてるか死んでるか分からないけど、手足を縛られた女だった。

 そして、俺に影が差したと思ったら、後頭部越しに歓喜のこもった声が届く。

「ウキャ~ッ! いっただきぃ~」
「――っ、しまった!」

 よく考えれば、猿はずっと涎を垂らしてやがった! マリアを見てやがった!
 猿の狙いは、俺じゃねえっ!
 ヤツは馬を囮に、俺を飛び越えて、マリアを狙ってるんだっ!

「マリアァーッ!!」

 振り返りざまに地面を蹴り、マリアの元へ【突撃】。
 流れる視界の上の方で、猿が空中にいるにもかかわらず、しっかりした体勢でマリアに向かって鞭を振り下ろす光景を捉えた。

 マリアはどうかと目を遣ると、彼女は怯えることなく、猿を見据えている。

 ――ヒョンッ!!
 鞭が一直線にマリアへ向かう。打ち据えるっつうより、腹や腕に巻き付けるような軌道だ。
 マリアは冷静で、長杖を身体の前に掲げて鞭に対応しようとしている。

 くっ……俺は間に合うか? 鞭には間に合わねえ!
 なら、猿の着地点には……駄目か。

 そうこうしてると、鞭がマリアに到達。でも、それは彼女の身体じゃなく、掲げた長杖に巻き付いた。
 よしっ、マリアが杖を離せば、捕まることは無い!

「ウキャ? 身体じゃない? でもいいや、こっちにおいでぇ~?」
「きゃっ」

 猿は、着地がてら腕を巧みに操って、鞭を引き寄せる。
 マリアはなぜか杖を手放さずに逆に抱きかかえるようにし、なすがまま引っ張られた。
 な、なんで?!

「お嬢さん、よぉこそ~」

 猿が赤ら顔を気色悪い笑顔にして、杖ごとやってきたマリアの腰に手を回して抱き上げる格好に。
 そして、そこに向かう俺に向き直って、マリアを盾にして牽制して来る。
 身長差があるから、マリアを抱き上げてもなお、猿野郎は頭一つ分デカイ。

 俺はブチギレそうになる。けど、マリアが人質状態だから剣を突き出すわけにもいかない。
【ぶちかまし】するか? 【軟化】して【まきつき】? 【掘削】で穴に落とすか?
 ――駄目だ。どれもマリアを巻き添えにしちまう。
 だらけた表情をしてる割には抜け目がねえヤツだ。

 仕方がねえから、俺はひとまず足を止める。
 その瞬間――。

「発火!!」
 ――ボッ。

「ウキ? ――ギャアアッ!!」

 マリアの火魔法。初級も初級の火魔法。
 かつて、【酸素魔素好循環】を持った状態でファーガスを火ダルマにした規模とは全然威力の違う、こぶし大の刹那の火。
 ――けど、猿野郎の目の前に発現させたソレは、野郎を驚かせ、一瞬気を逸らすには充分だった。

【突撃】! 【刺突】っ!!
 一気に二人の目の前まで踏み込み、マリアの頭越しの、突然の火に驚いて目を瞑っちまってる野郎の顔面めがけて剣を突き上げる。

 まだだっ!
 魔力を纏った剣先が、野郎の鼻先を捉えると同時に――【多重突き】っ!

 ――ズズズシュッ!

 一突き目で、猿野郎が鼻先に感じた痛みに反応して目を開け――。
 二突き目で、その目が俺の剣に焦点を合わせて寄り目になり――。
 三突き目で、剣が野郎の脳に届いて命を終わらせ、野郎の瞳から光が失せた。

 顔面に剣が突き刺さって絶命した猿野郎は、目ん玉がぐるっと上向いて白目になり、血の涙を流しながら膝からズルズルと崩れ落ちた。
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