禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

75.深夜、森の中から……

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「ね、ねえレオ! 出ないよね、オバケ。ね?」
「“オバケ”って……。それ、夜に寝付かねえ子どもを脅して寝させる方便だろ? オバケなんていねえって。“帝国”の時も一回も見たことねえだろ?」
「それは……そうだけど」

 マリアは継母やその娘に酷い目に遭わされながらも、よっぽど素直な性格だったのか、オバケを信じてるみてえだ。
 “帝国”でゴミ捨てと称した死体処理をさせられた時も、ボロ小屋の中で怖がっていたっけ。

 そんな“帝国”時代でも見たことないオバケよりもさ……今日散々相手してきたリビングデッドの方が、見た目もニオイも精神的にも怖いだろうに。
 そう口から出そうになったけど、呑み込む。

「ここいらのリビングデッドにされた人達を、せめて人間として弔えば化けて出たりしないだろ」

 俺はそう言ってマリアを慰めて、二人で夕暮れが迫るラボラット村の犠牲者を一か所に集める作業をする。

 ベルナールからは、できるだけ証拠を保全しろって言われてるけど、この村は今、裏門がぶっ壊れてて無防備。
 防壁の外には魔物がいるし、なにより外に転がってる遺体やリビングデッド誘導用の魔物の死体の山をそのままにしとけば、魔物を呼びこんでるようなモンだ。
 防壁の中の証拠だけ残しとけばいい、っても言わてれるしな。

「じゃあ行くぞ。押してくれよ?」
「う、うん」

 だから、俺とマリアはまず、裏門の外側にある百体近い遺体を中に運んでいる。
 裏門近くの家畜のいなくなった飼育小屋から、戸板を外してそれに遺体を載せて村の中に。

 それが終わると、リビングデッドを誘導する為の餌として積み上げられた、魔物の死骸の山をマリアの火魔法で焼き払う。
 そして、近場の瓦礫を掻き集めて裏門を塞いだ。

「よし! 完全に日が暮れる前に終わらせるぞ……【掘削】!!」
 ――ボゴォッ!! ボゴォッ!! ボゴォッ!!

 裏門に沿った防壁の近くに、そこら辺で見つけた農具と【掘削】スキルで穴を掘っていく。
 外から集めた遺体と、中に転がってる遺体の墓用だ。
 明日以降、埋めるってなった時に、あらかじめ穴を掘ってると早く弔ってやれるからな。
 魔力纏い無しでも結構いい感じに掘れてるから、ちょっと窮屈になるかもだけど、全員並べられるくらい掘っても、たいして疲れなかった。
 マリアは、俺が穴を掘ってる間に、犠牲者の冒険者証とか身元の確認に繋がる物を探してくれていた。

 その後、俺とマリアは砦の名残りの側防塔――見張り塔に上って、ニオイの来ない風上を選んで夜を明かすことに。
 最初は、井戸から向こう側に並ぶ無人の民家を借りようかと思ったんだけど、殺しの現場だったり住人の“想い”が籠ってそうで遠慮したんだ。


「きゃっ! い、今の何? オバケじゃないよね?」
「森の動物か魔物の鳴き声だって……」

 塔の上で焚火をしながら交互に見張りをしようって俺が見張りの番なんだけど、マリアが獣の鳴き声や風の音に敏感に反応して、その度に起きて俺に縋り付いてくる。
 いや、その度にマリアのお胸が俺の何処かしらに当たってくるから、俺にとっては悪くない。全然いいっ!

 そういう事もありつつ、ほとんどを俺が見張って、マリアと交代した深夜。

「レ、れれ、れレオぉ~」

 泣きそうな震え声のマリアに、ゆっさゆっさと揺さぶられて起こされた。

「むにゃ? ……ど、どうしたってんだよ」
「森から変な音が聞こえるのぉ!」
「おと?」

 涙声で訴えてくるマリアの言葉に、俺は横になったまま夜中の森に聞き耳を立てる。
 すると、確かに遠くの方で木の枝が折れる音や落ちる音がしていて、さらに獣の鳴き声……いや、叫び声まで聞こえる。
 ぎゃーぎゃーうるさいワケじゃないけど……単体の魔物同士の喧嘩、っつうか縄張り争いとかか?
 でも――。

「なんか、音が近付いてきてるな……」

 俺は立ち上がって、見張り塔の端から森を見下ろす。マリアも俺の陰に、しかも服をガッチリと握り締めて着いてくる。
 ……音は、まだ森のオクタンス領側からしている。
 けど、近付いてきてることには変わりないので、その方向に目を凝らす。

 ――バキッ、ドシャ、ギュアー! ミシッ、ブフォッ! ドンッ、バキッ、ギャッ!
 いろんな音に紛れて叫びが、散発的に、でも少しずつ近付いてくる。

 そして、森の奥、その木々の葉っぱの隙間から、チラチラとほんわりと淡い光が見え隠れする。

「あ、あれ……オバケ……じゃない? やっぱりいるんじゃない~! ぐすっ」

 俺の背後から怖々覗いていたマリアなんか、その揺らめきを見てアレがオバケだって決めつけて泣きそうだ。
 しかも、俺の胴に腕をまわして抱き付いてるもんだから、俺の背中は彼女のお胸で幸せいっぱい。

 けど、あの灯りを見た俺は確信した。
 アレはベルナールのおっさんだ、と。松明たいまつ片手に、こっちに向かってるんだ。

 でもまだ教えない。
 もう少しマリアの柔らかいお胸の感触を味わったっていいじゃないか。なっ?

 そのベルナールは、魔物を蹴散らしながらズンズンこっちに向かってくる。
 おっさんが森を抜ける頃にはさすがのマリアもそれに気付いて、顔を赤くしながら「騙したわね」って俺を睨んでくる。
 言わなかっただけで、騙したわけじゃないんだけどな……。

「おう、待たせたな」

 裏門を埋めた瓦礫の山を乗り越えて、ベルナールが合流した。

「夜中に来るか? 普通。こっちはマリアが怖がって大変だったんだぞ」
「もうレオッ! 言わないでっ!!」
「ぐはっ! ……そ、それよりも、朝になってから来てもよかったんじゃねえか、マジで」

 すっかり落ち着いたマリアの肘鉄を食らいながら、おっさんに訊く。

「それが、エトムント様が出張る気まんまんで、街道で騎士を率いて待機しててよぉ」

 本当に来てるんだ、領主様……。

「明日には――もう今日か、夜明けとともにイントリに乗り込むってんで、レオとマリアにも早めに伝えてオレらも向かおうと思ってな」

 ベルナールは、イントリからもスカリの軍が出てくるって予想してる。
 これは王国内の問題で、別に他国との戦争ってわけじゃないとはいえ、スカリの方もそれなりの人員を率いて抵抗するだろうってさ。

「エトムント様の軍は、どれくらいの人数なんだ?」
「騎士を二人連れてきてるっつうから、その二部隊に領主様の護衛数人を足して……二百ちょっとだろうな」
「で、スカリの方は?」
「どうだろうな。スカリの方は防衛側だから、領内の騎士・兵士を全部動員するかもしれねえし、冒険者や住民にも兵役を掛けてるだろ? 最低でも四~五百は出すんじゃねえか?」
「倍以上じゃねえか……」

 さらに、スカリは獣人傭兵も抱えているって噂があるらしく、それが本当なら差はもっと開くらしい。
 大丈夫なのかっつう不安が湧いて、思わず唾を呑む。

「だからオレらも行って、後ろから敵を撹乱するんだよ」
「『オレら』って……たった三人だろっ!? しかも、ここからイントリまでって、確か一日半かかるんじゃなかったか?」

 馬車の脚で一日半かかるって、おっさんの口から聞いたはず。
 ここには馬はおろかウシやヤギだっていねえのに、一体どうする気だよ!?

「どうするって、走って行くしかねえだろ」
「は、走って……」

 …………。
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