禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

72.一対三(←!?)になる

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 ヤセノとギスス――でぶ双子のリビングデッドを足止めする為に戦ってるけど……。
 俺が動いてどっちかと一対一の局面で有利になっても、もう一方が強引に割り込んでくる。
 それに対応してやり返したら、今度はもう一方が持ち直して割り込んでくるってな具合で。
 自然とフォローになってるっつうか、連携になってやがる。
 今は何とか対応できたけど、気を抜けねえな。

 地面に倒れてるでぶ共を見遣れば――。

 ヤセノは、左肩らへんの肉と左足の足首から先が無いし、俺のシールド・バッシュで右腕の大部分の肉がふっ飛んで骨になってる。棍棒も砕け散ってる。

 ギススは、【刺突】で脇腹の肉をかなり吹き飛ばして背骨の一部を露出させた。左手に、割れて刃物みたいに尖った棍棒を握ってる。

 それでもその二人とも、もう立ち上がろうとしてやがる。

 俺の方は……よし! 【急速回復】のおかげで、シールド・バッシュの反動の痺れも血反吐の影響も治まってきた。

 二人が立ち上がりきる前に、俺が先手を取る!

 でぶ共の巨体から魔石を見つけようとするから、ややこしいんだ。
 そんな面倒くせえことするより、コイツらの腐った肉を吹き飛ばして骨だけにしちまえば分かりやすいじゃねえか!
 怨むんなら、リビングデッドになっちまった自分を怨むんだなっ。

「――ぷっ!」

 一瞬、デブな二人が、顔だけ残して細い骨人間になった姿を想像して、噴き出しちまった。

 いかんいかんと真顔に戻って、俺の右前で、立ち上がろうと片膝立ちになってるギススに向かう。
 ヤセノは武器も無くなったし左足首も無くて、ギススよりも動きが鈍ってるから、ひとまず放っといていい。
 武器があるギススを先にる!

「くらえ、【スマッシュキック】!」

 膝立ちで、ちょうどいい高さにあるギススの喉元に後ろ回し蹴りを叩き込む。
 魔力纏いで威力が上がってる今なら、肉を吹き飛ばすだけなら剣よりもスキルを使った蹴りの方がいいだろ?

 バチィンッ!!

 水たまりに両足でジャンプした時並みの音と水跳ね――肉跳ねで、ギススの首と鎖骨周りの肉が飛び散る。
 体も後ろにぶっ飛び、背中から地面に倒れた。起き上がるまでは、多少時間があるだろう。

 ――その隙にヤセノだ!
 ヤセノは、ちょうど立ち上がったところだった。
 脚の長さが違うから、左に傾く体を側にある井戸の枠を掴んで支えている。

 動きの鈍いヤセノにもシールド・バッシュだ。【突撃】! 【ぶちかまし】!

 ヤセノの腹から胸を突き上げるように小盾でブチ当たって行くと、ヤツは腹の肉と胸肉を辺りに飛び散らかしながら、頭を仰け反らせてぶっ倒れた。
 だいぶ肉を削げたけど、そこから見える骨に魔石はくっ付いていない。
 それに、シールド・バッシュをかました時に、盾が軋む嫌な音がした気がする……。

 まあ、いい。
 今度はギススが体勢を立て直してる頃だろう。

 案の定、ギススが尖った棍棒を振り上げて、俺に振り下ろさんとしてるところだった。
 棍棒の振り下ろしを盾で受けたりシールド・バッシュを合わせるのは、いくら“魔力纏い”中でも、いよいよ盾が持ちそうにない。

 ――そんなら、剣で迎え撃ってやる!

「来いっ」

 大きく息を吸って右足を一歩引き、ギススの動きを見据えながら剣先を下げて斬り上げの構え。
 振り下ろされる棍棒をよく見て……剣を合わせるっ!

「せぃやぁ!」

 俺の渾身の気合を込めた斬り上げが、ギススの力に負けずに棍棒を断ち切る。
 まあ、気合より“魔力纏い”のおかげだろうけどな。
 そんで、そのまま手首を返して、返しの剣を打ち込む!
 身長差のせいで腹より上には届かねえから……腰、股関節を狙う。片脚を分断できれば、ギススの動きを封じたも同然だからな!

 ガスッ……。
「チッ、やっぱりだめか」

 いくらかは肉を削げたけど、見えない関節をピンポイントで狙うのは無謀だったか。
 ――仕方ねえ! 地道に丸裸・・にするか……。



「く、くそっ、どうなってやがる!」

 さっきから一〇分以上、地道にでぶ共の分厚い腐肉を削ることに集中して、実際削れてる。
 おかげで、二人……二体の魔石も露出させられてる。どっちもデカイ!
 ヤセノのは肩甲骨の真裏に隠れてて、ギススのは尾てい骨付近に有った。

 ――けどっ!
 魔石を見つけられるくらいまで肉を削げば削ぐほど、二人の動きが良くなりやがって……。
 重しが無くなって身軽になったってか?

 動きは速くなるし、攻撃は重くなるしで、交互に相手するのが間に合わなくなってる。
 二人の棍棒を早いうちにぶっ壊しておいて正解だったぜ。

 それに――。
「まだかよ、おっさん?!」

 ガエルと一対一サシで戦ってるベルナールが、なかなかの苦戦をしてるみてぇで、まだコッチに加勢に来ねえ。
 最初は俺らの近くで戦ってて、おっさんの気合の声や大剣同士が打ち合う金属音が何度も聞こえてたけど、移動しながら戦ってて、いつの間にか俺の視界の外にまで行っちまってる。
 今は、どこかの小屋が戦いのあおりで倒壊する音が聞こえるくらいだ。
 だから、俺の愚痴もベルナールに届く訳もなく……。

 ガエルの魔石は、最初から口の中に見えてただろ? ほんっと、何やってんだよおっさん!?
 いや、魔石の一部が見えてただけで、実際はこのでぶ双子共並みの大きさか、それ以上あったのかもしれねえな……。

 そんなこんなで、俺はヤセノとギススに対して受け身に回るしか無く……井戸の周りをグルグル後退しながら、たまに魔石を狙うしかできなくなってる。

「そろそろ“魔力纏い”も限界だってぇの!」

 そもそも、まともに魔力纏いが続いてるのも奇跡に近いってえのに……。
 間の悪りいことに、ヤセノとギススが時間差なしに同時に俺に襲いかかってくる構え。
 なんとか起死回生の手はねえのか考えていたら――。

 ザバァッ!! ドガンッ!
「――っ?!」

 井戸の中から水の音がして、すぐに井戸を塞ぐ木蓋がブチ壊される音。
 犯人は完全に骨だけになった骸骨……。
 骸骨が井戸から飛び出してきやがった。

 濡れた骨が太陽に照らされて白く輝いて、綺麗で神々しいくらい。
 男で言う『アソコ』の位置に、黒々としたデカ魔石が堂々とくっ付いてやがる!

 その骸骨は、骨だけの手には槍を握ってて、空中にいるのにそれを俺の方に向けてるし!
 今にも槍を突き出してきそうだしっ!!

「なんなんだよ、コイツはよぉっ!」

 深い井戸の水ん中に潜んでたってのか?
 それに、綺麗に骨だけになってるってことは、肉も内臓も井戸の中で剥がれ落ちたってことか?
 井戸水が使いモンにならねえじゃねえか!
 なにより、魔石! どこの馬鹿だよ、死体にあんな付け方した奴はっ?! 変態か?

 ――いや、そんなことは今考えることじゃねえ!
 骸骨は今にも槍を突いてきそうだし、何よりでぶ双子が揃って手を伸ばしてきてて俺に届きそうなんだからよ!

「や、ヤバッ……」

 思っても無い敵の乱入に動揺しちまって、“魔力纏い”が足先から解け始めちまってる!

 魔力纏いの反動で脚に力を込められなくて、動いて全部を避けるのは間に合いそうに無え……。
 下手に動いても、槍に突かれるか双子のどっちかに掴まる。最悪、全部食らっちまいそうだ。

 この瞬間にも三体のリビングデッドの魔の手が近付いてきてるし、俺の身体を覆っていた魔力は胸元まで解けて波打っちまってる。

 かろうじて魔力を纏えてるのは、両腕から上だ。
 その左腕の小盾も、もう限界が近い。
 右手の剣は、始めから一本しかない。横に薙いでもせいぜい双子を払い除けるくらいだろ?
 頭……腐肉に頭突きしたくねえし、どっちにしろ俺の頭も一個しか無え……。

 ど、どうする? どうやって切り抜ける、俺?!

 頭をフル回転させてるから、逆に時間がゆっくり流れているみたいに感じる。
 でも、敵は三体とも確実に近付いてきてる。

 俺の持つスキルを思い浮かべても、この同時攻撃は凌げな――る! ほとんど賭けだけど、凌げるかも!!

 一縷の望みを掛けて、俺は自分の右腕を見る。
 よし!!
 手にも剣にも、まだ魔力纏いが残ってる。

 俺は、その剣をでぶ双子が迫ってきてる足許に……地面に向ける。
 見てる暇は無えけど、左の小盾にも魔力が残ってることを信じて、盾は骸骨の槍の軌道から身体を守る位置に構える。

 ――いくぞ。
 念の為、【硬化】を掛けてからのっ!

 【掘削】っ!!
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