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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
53.身ぐるみ剥がされて朝帰り?
しおりを挟む俺と町の防壁との間に、うず高く積み重なっていく子スライムの増え具合に、呆気にとられてる場合じゃない。
なんとかしねえと!
俺は我に返って、剣に張り付いてきている子スライムを振り払う。
そして、山になっている子スライムを【ぶちかまし】で壁に弾くと、それだけで何体かは死んで、残りを【刺突】や剣の斬撃で処理していく。
「くぅ~……範囲攻撃があればなぁ」
マリアみたいに……特にファーガスと戦った時のマリアみたいな大火柱を出せれば、一網打尽にできると思うけど、俺に魔法は使えないしな……。
けど、魔力そのものを身体や剣に纏わせて戦う訓練をしてるから、アーロンさんの『風纏い』には遠く及ばないけど、剣捌きは普段よりも速く、切れ味も鋭くなっている。
元のスライムは壁際で子スライムに埋もれながらも、まだ新しく子スライムを湧かせ続けているけど、俺の“壁に集めて斬り刻む”作戦が効いてて、増える数と減る数が同じくらいまできた。
「――? ……痛っつう」
途中からなんかジクジク痛てえと思ってたら、俺の足下で靴やズボンに張り付いていた子スライムが――。
「うわっ! 溶かしてやがる!」
革や布を溶かして俺の地肌に達して、なおかつ膝まで上ってきてやがる。
肌が溶けた痛みだったのか!?
まあ、溶けた瞬間から【急速回復】で治ってるんだけどな。でも、溶かされて痛てえモンは痛てえ。
肌の方は、なんとかなってるってんで、コイツらは無視して目の前のスライム、特に元のスライムを見つけて倒そう。
ぶちかましで壁に飛ばして、∞を描くように広い範囲に剣を運び、なるだけ多くのスライムを始末していく。
「うぉおおおおりゃりゃりゃりゃりゃあーっ!!」
薄い月明かりの中で、俺の声だけが響く。
俺の【酸素魔素好循環】のおかげで、息が続かないとか魔力が切れそうだとか、そういうのは全くない。
まだまだ剣を振るい続けることはできる。スライムも減ってきてるしな。
ただ、小盾くらいは持ってくればよかったぜ……。
シールドバッシュで盾と防壁で挟んで押し潰すことができるからな。防壁が壊れる可能性もあるけど……。
「まあいいさっ。このまま斬り続けてやる! おりゃりゃりゃあー!!」
一時間以上は確実に続いたと思う。
空の下の方が薄すら赤くなってきた。もうすぐ朝日が昇ってくるか。
腕が張ってつりそうだけど、スライムの山もだいぶ低くなってきた。
そろそろ親――最初のスライムが見えてくるか? って時――。
――ビキィンッ!
なんか、いびつで耳障りな音がしたと思ったら、スライムの山がちょこっと陥没した。
「ん? なんだ、これ?」
よく見てると、子スライムも湧いてこない。
もしやと思って、剣を止めることなくスライムの山を斬り刻んでいくと……親は死んでいて、べちゃあと薄っぺらい死骸になっていた。
「……魔石が割れてやがる」
俺が一時間以上も剣を振り続けて、あと少しだったってのにひとりでに死んだのかよ……。
虚しさと精神的な疲れが、どっときた。
まあ、さ……。コイツを倒しても、魔石をギルドに売りに出した瞬間にまた大騒ぎになるだろうから、誰にも言うつもりはなかったけどさ……。
せめて倒させてくれよ! 勝手に死ぬなっ、てか自滅するんならもっと早めにしといてくれよ!
「はぁ~……」
タメ息を吐きつつ、まだ生き残ってる子スライムが“アレ”を吸収しちまわないようにしないとな。
ここに放置はできねえよなぁ……【性欲常態化】。
俺は親スライムの死骸の前から一歩も動かずに、その場でだるい腕を動かしてプスプスと子スライムを刺し殺していく。
「もしかして……寝ぼけて取り込んじまったのかな? やっぱ、体内収納に入れてるモンは、毎日確認しねえと。そんで、もっと厳重に隔離しとこう……」
思えば国のギルド本部から戻ってきて体内収納に仕舞い込んでから、ほとんど取り出さなかったからな……ん?
俺が反省していると、いまだに肌が溶ける痛み。
そうだ、俺の身体に張り付いている子スライムは無視してたんだった。
「いい加減、剥がさないと――なぁあああっ?! な、なんだこれぇ?!」
溶けてるぅうっ!
いや、靴やズボンの裾が溶けてるのは知ってたさ!
子スライムが、腹まで来てるじゃねえかよ!!
腹や太ももやケツ、それに俺の問題な――大事な部分にまで張り付いて服を溶かしてやがる。
しかも、ちょっと成長してたりするし……。
俺は疲れて重い腕を動かして、子スライムどもを刺し貫いて処分していく。
残った俺は……ほとんど裸じゃねえか!!
服、いや、布なんて俺の肩から胸までしか残って無えじゃねえか!!
朝日も俺を照らすな!!
ここで――防壁の外で良かったぁ。ついでに夜中で閉門中だったのも良かったぁ……。
朝日に照らされるほとんど裸の少年――いや、毛が生えてきてるんだら“男”か。人に見られたら、確実に変態扱いだな……。
とにかく! 町の人が動き出す前に帰るぞ。
俺は胸までしか無いシャツを脱いで腰に巻き、急いでスライムどもの魔石とスキル結晶――それから憎っくき【性欲常態化】も!!――を集めて、そのまま体内収納に入れる。
そして【隠匿】スキルをしっかり発動させながら抜け穴を戻って、人に出くわさないように慎重に宿に向かう。
【隠匿】なんてのは、他のことに注意が向いてる奴にはむっちゃ効くけど、曲がり角やドアを開けた瞬間とかに真っ正面で出くわせば全然効果が無い。
そんで、その誰か一人にでも気付かれれば、周りの人らにも数珠つなぎに気付かれてしまう。
「あっ……」
それが、まさに今。
無事に宿の入り口に辿り着いたけど、ひっそりと扉を開いた先に『民の騎士』のジョセフ・ゴードン・レビット。
そうか、こいつらは護衛依頼で朝早いんだった……。
「なんじゃあ、その恰好は?」
「レオ?! 何があった」
「深酒して身ぐるみ剥がされたんか?」
ジョセフ達は、俺のことを上から下からあそこ――隠してはある――へと目線を動かして訊いてくる。
深酒なんてお前らだろっ! 今日も酒くせえし!
それに、「裸になるのは仕方ないが、場所や時間を考えんか」なんて言われる始末。
裸のことを、アンタらに言われたくねえってんだよ!
そしてこの三人に気付かれたことで、宿の一階にある食堂からもチラホラと俺に気付く奴らが出やがった。
「なっ、なんでもねえよ! み、見なかったことにしてくれ」
「「「ぬ?」」」
俺は捨て台詞みたいに言い放って、そそくさと階段へ向かい駆け上がる。
でも、とことんツイてねえ……。
階段を駆け上っていると、ちょうど下りてくるマリア。
「あ、レオ。起こしに行ったらいなかったから、心配してた――って、どうしたのそれっ!?」
「あ、いや、これは……そのぉ……。まあいいっ、とにかく来てくれ!!」
「ええ?!」
俺はマリアの手を引っ張って階段を上り、自分の部屋へと連れ込んだ。
部屋は、当然だけど俺が出て行った時のまま。寝台の上に全部の物が広げられている。
「マリア! こ、これはだな……ちょっと色々あって……やましいことじゃないんだっ! 聞いてくれっ、な? なっ?」
俺はマリアの手を両手でしっかりと握り締めて、目をあわせて必死に潔白を訴える。
彼女はそんな俺の必死さに少し引き気味だったけど、顔をみるみる紅潮させて「分かった。分かったからっ!」と応えてくれて……そして――。
「落ちてるのぉ! 下がっ!! と、とにかく、着よう? 服!」
「あ……」
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