禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

48.オクタンス子爵の妹君ってことは貴族の御令嬢ってこと

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 領都オクテュスを騒がせた狼獣人のファーガスと娼婦のディアナ(ブリジット)を捕縛したってことで、報奨金が出ることが決まった。
 でも、『領都の城』で『領主に会って』、『直接貰う』んだと。

 ……面倒くせえって!
 領主だとかなんとかってのは、貴族なんだろ? 嫌だってー!

 ――で、褒賞の対象者だっつう俺とマリア、それにクレイグをはじめとする『キューズの盾』の面々でオクテュスに向かっている。
 つっても、キューズとオクテュスの間の定期便の護衛依頼も兼ねてんだけどな……。
 依頼の合間にある、中一日の休みに領主様の城に行って褒賞を貰うって段取りだそうだ。

「シェイリーンさん、大切な杖を貸してもらってすみません……」
「いいのいいの。私が駆け出しに毛が生えたばかりの頃に使ってた杖だもん。遠慮しないで使って使って! 兄さんも喜ぶし」

 この依頼に際して、マリアはシェイリーンさんから杖を借りて参加している。
 普通、武器や防具を買い替える時、古いのは売るのが常識らしい――俺の場合は壊しての買い替えしか経験してないけどな――けど、その長杖は兄であるクレイグからの贈り物だったらしく、手元に残していたらしい。


 護衛自体は大して深刻な問題もなく、無事に領都に着いて一夜が明けた。
 そして、本当は“休み”の日だけど、俺は朝からマリアと『キューズの盾』のみんなと冒険者ギルドの酒場の一角に集合している。

「ふぁあ~あ。もっと寝ててえな……」
「もうレオったら。――ほら、服にシワが付いちゃうからちゃんと座ってて! 頭も、髪が乱れちゃうから触らない!」
「お、おう……」

 マリアが俺を構ってくる様子を、シェイリーンさんや軽戦士のティナさんが『あらあら、まあまあ』って感じに生温かく見てくる。
 そこに、大盾重装鎧おっさん三人組の『民の騎士』が合流してきた。

 『民の騎士』のおっさん三人組は、今日は裸じゃなく――当たり前か――顔だけ出した重装備。
 こころなしか鎧がピカピカしてるし、素面しらふ……でもねえか、酒くせえし……。
 領主様に会うってのに、昨日も深酒とはブレねえな。

 そして、今日は鎧だけじゃなくてマントを羽織っている。
 動く時に邪魔になりそうだけどな……?

「冒険者に礼装は無いからな。でも、せめてもの礼儀として素の姿を覆うのさ」

 これまでとちょっと違う様子のおっさんらに見入ってた俺に、クレイグが話しかけてきた。
 そのクレイグ達もマントやケープ姿だ。

「レオだってわざわざその服をあつらえたんだろ?」

 そうっ!
 俺はハイカットブーツに七分丈の黒ズボン、切れ込みが入って裾が膝まである青のプルオーバーシャツにベルト代わりの紐付き腰袋。
 マリアは膝下までのロングブーツに青いショートパンツ、生成りのシャツに小さいリュックサック、魔法使いっぽさを意識した黒いハーフマント。
 いつもと同じ見た目なんだけど、それよりも上等な布や革で作られた真新しい服を着ている。

 つーか、着させられている。貴族様に会うんだからって、仕立てさせられた……。
 一三歳で、まだまだ子ども扱いでマントは必要無いけど、綺麗な服は着とけってことらしい。
 盾も買ってねえのに、余計な出費だったぜ……。

 んで、服に合わせて、マリアには朝から髪までいじくられてたってワケだ。
 まあ、ハーフアップにしたマリアもいつも以上に可愛いんだけどな。

「おおおーっ!」

 そんなマリアに見惚れていると、ギルドの奥の方からいつも通り受付に並んでたり依頼を探して賑わっていた冒険者共のどよめきが起きた。

「ん? なんだ?」

 思わず冒険者連中の方を向くと、奴らはある一角に釘付けになっていて、そこはギルド二階に続く階段のある方向だった。
 キューズのギルドと構造的には同じで、あっちより広いだけなので、俺らの位置から階段が見えないから奴らが何に沸いてるのか分からなかったけど――。
 すぐに分かった。

 すらりとした細身の長身に真っ青な髪を結い上げ、髪飾りと合った金銀の植物柄刺繍の入った白ドレスを着た、年齢不詳の冷たそうな美人。
 その人が、自然に割れた人波の間を悠々と歩いて来たのだ。酒場に向かって。
 時々「邪魔だ」とか「ジロジロ見るな!」とか「さっさと依頼に行け」とか呟きながら……。
 言われている冒険者は、男はデレデレ、女は憧れの眼差しを向けている。

 アレって……領都ここのギルマスだっ!!
 よく見ると、そのギルマスの後ろを付き人? 執事? みたいな格好をした隻腕のアーロンさんが付き従っている。

「揃っているな。表には迎えの馬車が来ているはずだから、行くぞ」

 少し気まずそうに、気恥ずかしそうに頬を紅潮させたギルマスが、俺らを見つけると敢えてぶっきら棒に声をかけてきてそのまま扉に向かう。

「あれ、ここのギルマスだよな……。なんであんな恰好してるんだ?」
「知らんのか? シア様のこと」

 顔をデレデレさせていた『民の騎士』のジョセフの脇腹を小突いて聞くと、『シア様』なんて初耳の言葉が返ってきた。

「シア様?」
「おう。正式には確か……ローゼシア様とかいったか? ローゼシア様は、ここのご領主様の妹御、つまり妹君だ」
「ふ~ん…………ん?」

 待て待て待てっ! りょ、領主の妹?! 
 それじゃ、ギルマスも貴族なんじゃねえか!?

 なんて驚いていると、そのシア様が扉から「何をボーっとしている。早くしろ!」と叫び掛けてくる。

 俺たちは慌てて彼女の後を追って外に出ると、彼女用と俺たち用の二台の馬車が既に待っていた。
 どう見ても貴族用といった黒く艶々した立派な客車にシア様とアーロンさんが乗り込み、冒険者組は貸し切りの乗り合い馬車に乗り込む。

 道中の短い時間だけど、領都組から聞いたところでは――。

 ローゼシア様は、ご領主――エトムント・オクタンス子爵の妹君。
 戦闘スキルを持って生まれて、幼い頃から活発な性格だったそう。

 父親の先代子爵や兄のエトムント様からは、淑女らしく育って他家に嫁いで平穏に暮らして欲しかったそうだけど、無理だった。
 ならば、せめて騎士として家族の下で危なげなく生活して欲しかったそうだけど、ローゼシア様はそれすら性に合わないと、家を飛び出して冒険者になろうとして大騒ぎになったんだって。
 子爵家で揉めに揉めた末、五年で引退して家に戻ることを条件に冒険者になることを許された。

 しかし、彼女はそれすらも無視して十数年以上も冒険者を続け、猛威を振るい・・・・・・、先代の死に際の願いに応えてやっと領都に戻ってきたそう。
 だがしかし! それで家に戻るのではなく、冒険者ギルドの職員、そしてマスターに就任したっていう。

 ――掻い摘めばそういうことらしい。

 ……とんでもねえじゃじゃ馬じゃねえかっ!
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