禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

43.火柱

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 剣での攻撃を諦めて、全身で獣人の胴体にブチ当たっていく!

「ぐおっ!?」

 俺の肩がファーガスのあばら骨を潰す感触を残して、奴が弾き飛ばされて広場中央の大木まで転がり、幹にぶつかって止まる。
 追撃を掛けたいところだけど、先にマリアとアーロンさんだ。

「マリア、大丈夫か?」
「う、うん」
「よかった! なら――ッ!」

 アーロンさんを頼む。
 そう言おうとして気付いた。
 マリアもフラフラだ。顔色も悪いし、傷だらけの杖を本当に杖にして辛うじて立ってる感じ。
 それに、両腕に血の痕!

「マリア! 血……」
「わたしは大丈夫。爪を防ぎきれなくて怪我したけど、スキルのおかげで傷はすぐに治ったから……」

 【瞬間回復】で傷は消えたんだろうけど、流れ出た血が痕になってるんだ。
 ファーガスの野郎、アーロンさんと戦いながらマリアにも……しかも傷を負わせるなんて、許さねえ!

「でも、フラフラだぞ? 血を流し過ぎたんじゃねえか?」
「ち、違うの……これは魔臓が空になっちゃったんだと思う」

 昨日、ギルドの訓練場でなった症状か。
 俺は倒れたままのファーガスを警戒しながら、マリアを労わる。

「ずっと魔法を出そうとしてたのか?」
「うん。でも、何回やっても駄目で……何も役に立てなくて、みんなに迷惑かけてばかりで……」

 申し訳なさそうに、悔しそうに話すマリア。
 魔法なんて昨日覚えたばかりで、すぐに使えなくても気にしなくていいのに。
 それに――。

「マリアは迷惑なんてかけてない。獣相手に怯まないで、その杖で何度も立ち向かってたじゃないか、気にすんな」

 とはいえ、いくら【瞬間回復】があるって言っても、これ以上マリアを傷付けたくない。
 さっきも今も、俺の攻撃が入ったのは奴の不意をついた時だけ……。
 これからサシでろうって時に、マリアを守りぬく力は俺にはまだ無え……悔しいけど。

 マリアがこんなフラフラな状態だと、いざという時が心配だ。
 何かしてやれることは無いのか、考える。

 傷薬や体力回復薬は全部使ってしまってるだろうし……せめて魔臓の枯渇だけはなんとかしてやりたい。
 何かないか? 俺に出来ること……。
 考え込んでいると、倒れているファーガスがピクリと動く。
 早く何か思いつけと焦ったその時、思いついたっていうか直感が働いたっていうか……。
 【酸素魔素好循環】ってスキルが思い浮かんだ。これを【スキル譲渡】する?

 そういうスキルを持ってることは、もちろん知ってる。
 けど、俺としてそのスキルで何か変わったとか強くなってるとかの実感は無い代物。

 マリアに譲渡したとして、彼女にどんな変化が起きてしまうのか、俺にどんな変化があるのか、分からねえ……。
 でもそれは【瞬間回復】だって同じだった。
 やってみるしかねえ。
 悪い方に出たなら即行で【スキル吸収】する。

 ファーガスが膝立ちになって、もう立ち上がりそうだ。

「マリア、今からスキルを一つ譲渡すっから、具合が悪くなったり変だと思ったらすぐに言ってくれな?」
「えっ? スキルを?」

 俺は困惑するマリアの返事を待たずに、彼女の両腕に触れて念じる。
 【酸素魔素好循環】を、マリアに【スキル譲渡】。

 直後から俺は少し息苦しいかな? って感じになる。
 マリアは? と、彼女の表情を見ると――。
 青白かった顔色が、血色が戻ったように明るくなってきた。

「ど、どうだ?」
「凄い……すごく楽になったわ。どんなスキルなの?」
「【酸素魔素好循環】だ。たぶん呼吸が楽になって、魔臓に魔力が貯まるのも早くなると思うんだけど……」
「うん。立ち眩みも収まってきたわ」

 顔色だけでなく表情からも苦しさが抜けているようだと、ひとまず安心したのも束の間。
 マリアが「レオ、あれ!」と大木の方を指差す。

 ファーガスが立ってやがる。
 俺はマリアの手を引いて「俺が引きつける。出来ればアーロンさんを頼む、無理しない範囲でな?」と後ろへ回し、ファーガスの方に足を進める。

 そのファーガスは厚い毛に隠れたアバラの辺りを擦りながら俺を睨みつけてくる。

「おいガキ。テメエ……」
「無理すんな。折れてんだろ、骨? あ、毒も効いてるか……」
「それだ……!」

 獣人はアバラを擦るのを止めて、腰を落としていつでも襲いかかれる構えに。
 できればみんなに危害が加わらないように、もう少し逸れた場所で戦いたい……。
 進む方向をさりげなく変えながら、話を伸ばそうと「何が?」と返す。

「今の突進の……速さといい体の硬さといい、なによりこの腕の異常……毒だと?」

 ファーガスは右の二の腕に手を当てて眼光を鋭くする。

「毒持ちの人間なんざ、いるワケ無えし仕込んでる様子も“ニオイ”も感じなかった……お前、本当に人間か?」

 ギクッ!
「み、みみ見て分かるだろ? 人間い、以外のな、何に見えるってんだ!」

 よし。平然と言い返せた。それに完全に俺に注意が向いてる。

「んなワケあるか! この俺様、ましてや獣化した俺様にここまで出来る人間なんざいるワケねえ! それがガキってんならなおさらだ」

 あれ、まだ疑われてる?

「なんて言われようが、俺は人間だ。アーロンさんのナイフだってお前の腕を斬れたんだ。お前は自分で思ってるより強くなんかねえって事じゃねえのか?」
「なんだとっ」

 俺の言葉に奴の目に怒りが籠る。
 でも、すぐに怒りが鎮まって、口角を上げてわらう。

「まあいい。殺した後にテメエの腹をさばいて確かめれば、秘密を暴けるだろうぜ! 金にもなりそうだなっ」
「――ッ!!」

 奴は、自分の言葉が終わる前に俺に向かって突っ込んでくる!
 俺の突撃よりも速い踏み込みで一瞬で距離を詰めてくる。
 そして鋭い爪をギラつかせて左右の腕を大振り! 振り下ろしたり振り上げたり、突いてきたり!

「くっ、は、速っ」

 毒と切り傷があって力はそこまで強くないけど、これまでよりも速い!
 硬化してる体で――腕で弾いたり軌道を逸らして防げるけど、その都度重い衝撃が骨や関節に響く。

 そこに強力な蹴りまで繰り出してきやがる。
 これには俺も下がるしか無くて、勢いが止められない。
 せっかく倒れてるみんなから離れた位置に行ったのに、少しずつ押し戻されていく。

「くっ」
「ハッ! テメエにゃ何故か意表を突かれるからな……一対一になって正面切ってやればこんなもんよ! ほれ、もう後がねえぞ? どうしたどうした?!」

 チラッと後ろを窺うと、みんなの前にマリアが杖を構えて立ちはだかっていて、彼らを守ろうとしているのが分かる。
 マリアにみんなを見捨てて逃げろって言っても聞かねえだろうから、ここら辺で盛り返さないと!

 俺が後ろを気にして動きが鈍くなった一瞬の隙を、ファーガスは見逃さなかった。
 ヤバい!
 脇腹目がけて蹴りが迫り、両腕でブロックするけど、力で飛ばされてしまう。

 俺は空中で体勢を整えて着地するけど、その時にはすでに獣人がマリアに迫っていた。

「たぁ! ――きゃっ」

 マリアも勇敢にファーガスへ杖を突き出したけど、呆気なく受け止められてしまう。

「へっ! そんな突き、俺様に通じるワケねえだろが。だが、ちょこまか動かれても邪魔だから、ちょっと眠っててもらおうか!」
「い、嫌よ!」

 いよいよヤバい。
 いくら【瞬間回復】があると言っても、ファーガスの攻撃をまともに食らったらマリアだって死なないワケじゃない。

 もう一回【突撃】で突っ込もうとしたその時――。

「は……『発火』!」

 マリアが魔法を唱えた。蝋燭ろうそくに火を灯す練習をしてた魔法を!
 昨日今日と、何度も試して発動できなかったのに?
 いや、どっちにしろマリアが危ない!
 【突撃】!

 ――ブォオオワアアアアアアーッ!!

 突然、目の前に轟音と巨大な――大木を超えるほどの火柱が上がった。
 目が眩むくらいに辺り一面が黄色く明るく照らされる。

「は?」

 顔を襲う熱風に、何が起きたのか頭が追いつかない。
 でも、『発火』って言ってたよな……?

 火柱のすぐ側には杖を前に突き出してるマリア。
 彼女も目を見開いて「へ? え?」ってな表情。
 そして、その杖を掴んでる獣人の手が見えるけど……体は火柱に包まれている!

「なああああぎゃあああああああ」

 ファーガスの絶叫と共に火柱は収まって、炎が揺れながら空に上昇、そして消えた。
 ほんのニ、三秒?
 そんな一瞬、でも物凄い炎の柱だった……。
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