禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

37.誰がこいつらを止めるってんだ?

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「イテテテテ……」

 今日は護衛依頼の後半、キューズの町へ出発するのでまだ暗いうちに朝飯を食べる。

 昨日の夜は結局、眠り込んじまったマリアを俺の寝台に寝かせた。
 俺は手を出してないぞっ!? 断じて出してない!
 彼女の寝てる寝台に背を向けて、椅子に座ってたんだから!

 それでも――糞スキルは無いのに、色々と……主に欲と戦っておりまして……ほとんど寝られなかった!
 朝飯の一時間くらい前に、マリアが起きたので彼女が自分の部屋に戻るのを見送ってから、ちょっとだけ眠れたって感じ。
 少しでも眠れたのと、寝台に残ってたマリアの温もりを感じられたのは良かった!

 しかし、欲との戦いでは椅子に座ってピクリとも動かずにジィーッと耐える戦法だったから、腰が痛いのなんの……。

 他の客がまだまばらな食堂に、俺が痛む腰を擦りつつ行くと、『キューズの盾』の四人と俺とマリアが揃う。

「おお、おはようレオ君!」

 何も知らないクレイグが、疲れの取れた爽やかな朝の挨拶をしてくるのに返していると――。
 シェイリーンさんとティナさんが「あらあら」と意味深? 好奇? な目で見てくる。
 なんでも、マリアが自分の部屋に戻る途中の廊下で、偶然シェイリーンさんと会ったらしく、お二人は何かを勘繰ってるようだ。何も無いってーの!


 二十代中盤の女子ふたりの好奇の眼差しに耐えながら、朝飯を済ませて準備を整えて二組揃って集合場所に向かう。

 時間はキューズを出る時と同じくらい。朝日が差し始めた頃。
 集合場所であるオクテュスの東門のすぐ手前にある朝市広場の端っこには、商会の三人と二台の幌馬車がすでに来ていた。

「領都組は来た時と変わるんだろ? どんなのが来るんだろうな、クレイグ?」
「そうだね。いずれにせよ領主様案件だから、変なのは来ないさ」

 早速、商会の小太り口髭おっさんに挨拶してオクテュス側の冒険者二組を待っていると――。
 こちらに向かってくる見覚えのあるゴツ鎧姿の中年三人組……。
 ジョセフ、ゴードン、レビットの『民の騎士』だ。

 この三人は実力が確かだって事は、仕事ぶりを見て分かってるけど……また裸のドンチャン騒ぎを見せられるのかよ……。
 そして、彼らの後ろを着いてくるように歩く一人の男。
 そいつ――って行っちゃあ失礼か。でもこの人も中年男、しかも三人とは違って灰色のボサボサ頭に無精髭のおっさん。中肉中背……三十代半ばってところかな? 
 猫背に咥え煙草のその姿をよく見りゃあ、帯剣してるけど冒険者ギルドの職員と同じ服装……しかも、左腕の肘から先が無くて草臥くたびれたシャツの袖がひらひらしてる。

「本来は今日も『鮮血の斧』が来る予定だったんだが、都内で起きた事件に駆り出されちまってなあ……」

 ジョセフ曰く、その代役がこの隻腕せきわんのおっさん一人……らしい。
 しかもギルド職員の服を着てるし……今回のリーダーだって言うし……。

「おい、ジョセフのおっさん! 俺のことを『キューズは、こんな若造を出してきたんか? 護衛を舐めてりゃせんか?』なんて言ったくせに、オクテュスのギルドはどうなってんだ?」

 自分が舐められたお返しで言うわけじゃねえけど、大丈夫なのか、こいつ?
 ――ってな感じで突っかかると、何故かキューズ側のクレイグが止めてきた。

「ストップストップ! レオ君、この人は僕達が束になっても敵わない、王都から依頼が舞い込むほどの凄腕冒険者だったアーロンさんだ」
「は? 凄腕?」

 片腕の間違いじゃなくて?

「そうだよ。今は引退されたけど、それまではAランク冒険者だったんだ」
「え、Aランク!? すげえ……」
「うん。『魔法剣士のアーロン』を知らない者はいない程だよ」
「魔法剣士?! かっけえー!」

 クレイグの言葉に思わず身を乗り出す。一瞬で印象が変わる。
 Aランクってだけでも凄いのに、『魔法剣士』だぞ? どんなモンか分からねえけど、凄えカッコイイ響きじゃねえか!

 俺が憧れの人を見つけたような眼差しになって挨拶すると、アーロンさんは照れたみたいに右手で頬を掻きながら口を開いた。

「すたごどねってばな。魔物にがって腕どごもがれでまって、引退せねばなんねがったぐれだがらよ……」
(そんなことないって。魔物に腕を持っていかれて、引退しなきゃいけなかったくらいなんだからね……)

「…………なんて?」
「レオ君! アーロンさんは辺境出身なんだ。だから……」

 だって聞き取れなかったんだよ! 咥え煙草のまんまボソボソ喋ってんだから……。
 え? 方言だって?

 アーロンさんは、俺とクレイグの小声のやり取りに苦笑いしながら、ゆっくりと繰り返してくれた。
 ……な、何となく分かったぜ。

「心配だべども、迷惑めやぐだぎゃかげねようにすがらよ、頼むわな」
「……は、はい! 俺はレオです、よろしくお願いします!」

 『民の騎士』の酒癖の心配が吹っ飛ぶくらいのアーロンさんの肩書と個性だけど、とりあえず全員揃ったからと挨拶をしていると、領主様の文官も合流したので出発する。

「よぉ~し! 出発するぞい」

 道中は、すんなり進んだ。
 一昨日のヴァンパイア・ビーの件があって、街道の所々で兵士がいるから魔物も少なかったしな。

 俺は休憩時間にアーロンさんに、魔法剣士の事とか強くなるにはどうしたらいいかを尋ねたりして、彼も答えてくれたんだけど、言葉が分からなさ過ぎた……。
 でも、アーロンさんもベルナールのことを知っていて、なんか懐かしそうな表情をしてたな。何言ってるか分からなかったけど。

 そして、話は『鮮血の斧』の不参加の理由へ。

「足抜け?」

 ――ってことは、娼婦が借金を返さないで逃げ出したってことか。
 昨日のことがあるから、胸騒ぎがする。

「ああ。そこに別の事件が重なってえらい騒ぎになって、娼館街があるオクテュスの北東区画の緊急封鎖に駆り出されたってこっちゃ」

 馬車の御者台から前を警戒している時に、控え組で荷台にいる……誰だっけ、ゴードンかな? が教えてくれた。
 真夜中の脱走で大騒ぎになった所に、北大通りの服飾と宝飾品の大店にも盗みが入って騒動が拡大。
 騎士や衛兵では手が足りず、たくさんの冒険者――それも高ランク冒険者が駆り出されたそうだ。

 娼館街が大きいオクテュスでは、足抜け騒ぎは未遂も含めて年に数回はあるそうだ。
 娼婦の数も多いはずだし……まさかな……。

「ところで、おっさんらも呼ばれたんじゃないのか?」
「呼ばれたが、その時間の我らは酔っ払ってて使い物にならんからな」

 おい、毎日ドンチャン騒ぎしてやがるのか? コイツら……。


 そうこうしているうちに、平野部を抜けて、例の谷筋に差し掛かる。ドラゴンの尾に潰されて出来たっていう谷筋。
 俺とマリア、それに新人二人だと心配だってことでアーロンさんも一緒に先行歩哨をした。
 だけど、谷の領都側にもキューズ側にも警備兵が置かれていて、アーロンさん曰く、ヴァンパイア・ビーを燃やした跡が残ってるくらいで、いつもより安全なくらいだって。

 しかし……アーロンさんは本当に腰に剣を差しているだけで、他は何も持ってない。普通の人が紛れ込んでるって感じ。
 だけど、途中で出くわす魔物は隻腕を感じさせないくらいスパスパ斬っていた。
 魔法剣士って、そんなもんなのかな?


 あと、クレイグから嬉しいお知らせもあった。
 俺とマリアと『キューズの盾』は、一泊して明日キューズに着けば依頼完了だけど、その報酬の合計が予定の五倍くらいになるってよ!
 大量のヴァンパイア・ビーの魔石と素材――針・複眼・毒嚢どくのう――、それにクイーンの魔石と素材――針・複眼・頭部と胸部の甲殻や毛――が買い取られたからだ。
 馬車と商会の人を守ってた『民の騎士』と等分しても五倍の金額になったって!
 そりゃ報酬受け取り済みのおっさんらが飲んだくれるわけだ……。

 ――で、更にクイーンを倒した俺に分け前を増やす話も出たけど、それは断った。
 代わりにスキル結晶を全部もらうということで、馬車の荷台には水樽満杯分の結晶が積んである。
 金額にすると大した額じゃないけど、『謙虚な奴だと俺の株が上がる』『後で取り込めばスキルを手に入れられる』の両得っつうことだ。


 そして、何体か魔物を倒したくらいで、夕暮れ前には村に到着。

「うわぁ……」

 夕飯を済ませたら、案の定男部屋では『民の騎士』の酒盛りが始まり……あろうことかアーロンさんまで参加するんだと!
 村のよろず屋の酒を買い占めてるって……どんだけ飲む気満々なんだよ! っていうか、アーロンさんとよく会話が通じるな、おっさんら。

 そして、今日はリリーさんがいねえんだぞ? 誰がこいつらを止めるってんだ?!
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