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第1章.物乞いから冒険者へ
26.パッと見、まともそうな同行パーティー
しおりを挟むマリアと宿のおばさんがドアを散々叩く音で起こされた。
早朝。
俺は急いで身支度を整えて、マリアと朝食を食べて急いで宿を出る。
「もう! レオったら、もう少し早く起きられないの?」
「ゴメンって。初めての遠出だから、楽しみで寝付けなかったんだ。マリアは?」
「実はわたしも……」
「へへっ、だよな? きっちり働いて、あっちで買い物しような?」
「うんっ!」
まだ朝靄が残る街を、急ぎ足で北門へ向かう。
門の側の広場に、朝日に照らされた二台の幌馬車と人影。
もう結構な人数がいる。
「護衛依頼で来たレオとマリアっす!」
俺とマリアは、冒険者証を掲げて挨拶する。
「おお! 君達で最後だ。まずは領都まで頼むぞい」
「うっす」「はい!」
相手は商会の人で、この便の責任者だっていう小柄で腹の出た口髭が豊富なおじさん。それに、領主様の文官が一人。
商会からはおじさんを入れて三人で、みんな背中に商会の紋が入った緑のマント姿。おじさんと文官以外の二人が御者をするそうだ。
そして、その人らの他に、三人・四人・四人で固まってる男女。
格好から見ても、俺らと同じ護衛の冒険者だろう。
「おーいクレイグやい、レオとマリアの顔合わせを頼むわい。出発まで時間が無いぞい」
「了解です」
おじさんからクレイグと呼ばれた、盾を背負った軽装金属鎧の短い茶髪の男が声を掛けてくる。
「おはよう。君達がレオとマリアだね?」
「うっす、レオっす」
「よろしくお願いします、マリアです」
その人は二十代後半くらいの歳だろうけど、お疲れっていうか……やつれてるように見える。苦労してそうなお顔。
「僕はクレイグ、Cランクパーティー『キューズの盾』のリーダーだ。今回の定期便のリーダーも任されてる」
おお、まんまっていうパーティー名だな……。
それにランクやパーティー名からして、この人らだよな、ベルナールに振り回されてたのは。
とにかく、帝国やハイゴブリンの件で、詫びというかお礼を伝える。
二件とも、ギルド内では俺とマリアが関わってるってことは公にされてないけど、この人はベルナールから直接聞かされているらしいからな。
「ハハハ……あの時は大変だったよ。でも君達の方が大変だったね、良く頑張ったと思うよ。まあ、今回は同じキューズの冒険者として力を合わせよう」
「うっす」「はい!」
クレイグは俺とマリアを、まず自分のパーティーメンバーの元へ案内してくれた。
「盾役の僕と、幼馴染の軽戦士ティナ・弓使い斥候フェイの姉弟、それに水魔法使いのシェイリーン、僕の妹だよ」
俺と似たような装備だけど、防具以外の肌の露出が多い格好の紺髪ポニーテールのティナさん。
短弓と矢筒を備えて、斥候っていうくらいで地味な色味の服装、紺髪で目元が隠れているフェイ。
黒の長いローブ姿で、青い宝石が組み込まれた杖を持ってサラサラ茶髪を風に靡かせているシェイリーンさん。
きょうだい二組の気心が知れたパーティーだそうだ。
挨拶しようとしたら、マリアが先になってシェイリーンさんの所へトコトコ駆け寄って挨拶している。
「マリア、知り合いなのか?」
「うん。シェイリーンさんから魔力の動かし方を教わってたの」
ああ! 遠目で見たことあるな。優しそうな人だ。
シェイリーンさんはクレイグと同じ琥珀色の瞳をマリアから俺に移した。
「あなたがレオ君ね?」
「う、うっす。マリアが世話になってます」
「あら、立派な挨拶ありがとう。マリアちゃんから活躍は聞いているわよ」
そう言いながらも、彼女はイタズラっぽい笑顔を浮かべ、視線を何故か俺の下半身に。
……?
「ちょっと、シェイリーンさん!」
なんだろ? と首を傾げると、マリアが慌ててシェイリーンさんを止めた。
「アーごめんごめん、なんでもないよ。マリアちゃんとは色々お話してたから、レオ君ってどんな男の子かなって思ってたのよ? い・ろ・い・ろ」
「う、うっす……」
“い・ろ・い・ろ”が気になるけど……出発時間が迫っているからと『キューズの盾』との挨拶もそこそこに、クレイグと他の冒険者の方に向かう。
クレイグは領都組とは顔馴染みのようだ。
まずは四人組の所へ。
「Cランクの『鮮血の斧』の四人だ」
ベルナールと同じくらいガッシリした体形に大きな戦斧を背負って、片側を刈り上げた紅髪のリリーさんって女の人がリーダーの、女二人・男二人のパーティー。
リリーさんが二十歳くらいで、もうひとり、大量の手斧を背やお腹、脚に鎧みたいに備え付けているエレンさんっていう子が十七、八歳の若さ。
それなのに男は大盾使いの細口髭ダンディーおっさんと、魔法使いらしき爺さんというチグハグなパーティーだ。
で、俺とマリアが挨拶しようとしたところで、もうひと組の領都組のパーティーが絡んできた。
「おい! キューズは、こんな若造を出してきたんか? 護衛を舐めてりゃせんか?」
「そうだぞ!」「どういうこっちゃ、クレイグ!?」
なんかゴツイ鎧で揃えたジョセフ、ゴードン、レビットの中年三人組。
簡素な鉄兜の下の顔は、清潔感があってパッと見て生真面目そうな連中。パーティー名は『民の騎士』。
つられて『鮮血の斧』のリリーさんも「それもそうだな」と、俺らを訝る。
「レオとマリアの二人は大丈夫だ。あなた達に迷惑は掛からない」
クレイグがそう言っても、なかなか信じてくれない。
まあ、初参加組がいて、それが見たこと無いガキ二人なんて不安要素だよな。いざという時、命を預け合うんだから。
ハイゴブリンと戦って勝ったって言えば、少しは信用してもらえるだろうけど、言えないしな……。
でも――。
「ギルドマスターのベルナールさんやサブマスターのフレーニさんが直接指導した上で、この依頼にお墨付きを与えた冒険者だから安心してくれ」
このクレイグの言葉に、リリーさんも中年三人組も目を見開いて反応する。
「なに!? フレーニの姐さんが? それなら問題ないんじゃない?」
「おおっ! ベルナールの旦那の教え子なんか!? ならキューズ期待の若手っちゅうこっちゃな?」
ベルナールとフレーニ婆さんの名前が出た途端、みんなの目付きが変わった。
「姐さんに指導してもらったなんて、羨ましいな」
「あの旦那が認めたなら、文句はねえや」
姐さん? 旦那?
俺が不思議がっていると、クレイグが耳打ちしてくる。
「マスターもサブマスターも、領都の冒険者達に名を知られるほど有名なんだ」
リリーさんは斧使いだけど、かつて女性冒険者として拳一つで名をあげたフレーニ婆さんに心酔していて、中年連中はベルナールの武勇を目標としているそうだ。
ベルナールは勿論だけど、二十歳のリリーさんにまで崇拝されるフレーニ婆さん……現役時代に何やらかしたんだ?
握り拳をシャキーンって見せてくる婆さんの姿が思い浮かんで鳥肌が立った。
「よぉ~し! 出発するぞい」
商会のおじさんの一言で、馬車が領都オクテュスへ向かって北門を抜けて行く。
途中で一泊して、明日の夜には到着するってさ。
デケエ街っていうけど、どんなんだろうな?
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