禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

24.マリアが別行動して不安なんだけど……

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 あれから数日。
 ハイゴブリン騒動は、現場に行って調査したベルナールによって『繁殖行動を済ませて魔力枯渇になったハイゴブリンの徘徊の公算が大きい』と結論付けられた。

 ちなみに、この時も“帝国”の調査に行ったCランクパーティーが駆り出されたそうだ。
 なんでも別の依頼完了報告に並んでいたところをおっさんに拉致されたんだと。
 ……一度も会ったことがないと思うけど、今度謝らないとな。

 しばらくの間、薬草の自生地を含めた林一帯が封鎖されて、キューズの町はもちろん近隣の村々も巻き込んで一斉繁殖にるゴブリン大発生が警戒された。

 二週間くらいで解除されたんだけど、俺の所為で……申し訳ない! 本当のことを言えなくてごめん!

 この件は領主様はもちろん、国のギルド本部にも報告された。
 証拠になるハイゴブリンの右耳と魔石、それに【性欲常態化】のスキル結晶は、一旦ギルド預かりってことになって俺の手元を離れた。

 【性欲常態化】は戻ってこなくて結構なんだけど、魔石代と討伐報酬くらいは欲しいよな、なんて思っていたら――。
 ひと月で戻って来ましたよ、【性欲常態化】!!

「ちっ」

 まあ、ハイゴブリンの討伐報酬が出たし、魔石の買い取り希望を受け入れたら、併せて金貨五〇枚なんていう途轍もない額になった。
 キューズの外れに、一家四人が暮らせる丈夫な家を建てられるくらいだって……。
 もし、層が多くて魔力が満杯の真っ黒な魔石だったら、この五倍は下らなかったらしい。頭の計算が追いつかねえって。

「ちっ」

 一躍小金持ちになるかとも思ったけど、そうでもない。
 実はハイゴブリンとの戦いで、俺は小盾を壊したしマリアは長杖スタッフを折られていた。

「ありゃあ初心者用で、まさかハイゴブリンと戦うなんざ想定してねえ代物だ、壊れて当然だ。レオの片手剣だって折れてねえのが不思議なくらいだ」

 ベルナールがそう言っていたけど……俺の場合、あの時は刺突しか繰り出さなかったからだろうな。
 いだり斬りかかったりしたら折れていたはずだ。

 で、新しく小盾と杖を買うのに出費が嵩んだ。
 俺は表面に魔物革を張って周りと縦と横を鉄で補強してるカッコイイ盾を、マリアは将来を見越して魔力を通しやすい長杖を、それぞれ買ったからな。しかも新品で!

 そんで、また俺とマリアの二人で外に行く依頼を受けようと思ったら――。

「レオ……わたし、しばらく町の外には行かない。一人で行ってきて」
「え……?」

 マリアが外に行かないって言い出して、さらに街なかでのFランク依頼もセーブした。

 ハイゴブリンに出会ったことがトラウマになってるのかと心配になったけど、そうでもないらしい。
 それで彼女が何してたかって言うと、フレーニ婆さんやベルナール、それにギルドで知り合ったっていう女冒険者に頼み込んで、何やら訓練に精を出していた。

 あ、精で思い出したけど、俺の興奮は治まった!
 でもマリアにだけは、ドキドキバクバクビンビンする。

 そんな俺は、一人で外の依頼をこなして、たまにベルナールの気晴らしに付き合わされたりしていた。
 おっさんにとって俺は、「ちょこまか避けやがるからいい運動になる」そうだ……。

 マリアの別行動が一か月も続いたもんだから、俺が理由を訊いても「ちょっとね……」くらいしか返事がない。
 それに俺たちの手持ちの金を気にすることが多くなっていた。

 まさか、俺と組むのを辞めて一人で冒険者をするつもりか?
 もしかして他の奴と組む算段でもしてるんじゃ……?

 なんて疑い始めた頃、「レオ、話があるの……」って呼ばれてさ。
 思わずビクッとしちまった。

 誰もいないギルド二階の資料室で二人きりになる。
 俺は最悪の事態を思い浮かべながら恐る恐る、でも……もしその時は、マリアの好きな通りにさせてやろうって覚悟を決めて話を聞く。

 嫌だけど、離れたくないけど、マリアがそう望むなら……。

「レオ。あと半月経ったら、わたしが見習いを卒業して、外に――遠くに行けるようになるよね?」
「お、おう」
「そうなったら、わたし……」

『レオとは別の人と組みたい』

 そんな言葉がマリアの口から出てきそうで、俺は怖くて目をギュッと瞑って続きを待った。

「大きい町に行きたいの」
「…………ん? え?」

 思ってたのと全然違う言葉に、一瞬混乱した。そこにマリアが繰り返す。

「大きい町に行きたいの」

「……町? ……一人で?」
「えっ? レ、レオと……だけど?」

 混乱したまんまの俺の返しに、マリアも戸惑ったみたい。
 ふたりして頭に疑問符を浮かべて見つめ合った。

「俺と?」
「そうだよ? だって二人で頑張るんでしょ?」

 何を言ってるの? ってな感じのマリアの表情を見て、俺が取り越し苦労をしてたんだと気付く。

「ハッ! そ、そうだな、二人で冒険者を頑張るんだよな!」
「そうだよ?」

 俺が捨てられるんじゃない、これからも一緒にいられるんだってことに気付いて、一気に安心する。

「おう! で、大きい町に行きたいって……なんでだ?」

 俺が訊くと、マリアは「今まで別々に行動してたでしょ?」って、これまでの約一か月間のことを話し始めた。

「“帝国”にいた時から、ずぅっとレオに助けてもらってばかりだし、ハイゴブリンの時もレオの邪魔をするっていうか迷惑を掛けることになっちゃったし……このままじゃ駄目だと思って――」

 依頼を受けるのを控えて、婆さんやおっさんから杖術の訓練をしてもらっていた。
 そして、二人以外にも魔法スキルを持っている冒険者に相談したりしていたそうだ。

「それでね? 魔法使いになるには、魔法スキルを身に付けなきゃいけないんだけど」
「うん」
「そのスキルって、特別なスキルを持った人が作った“魔法の巻物スクロール”が無いと身に付かないんだって」
「ほう」

 なんか……帝国の【隷従】とかギルドの【登録】が込められたこてみたいな物か?

「その巻物は、大きい町でしか買えないみたいなの。なかなかキューズにまでは出回らないし、種類が違ったりするって聞くし……」
「それで、大きい町か」
「うん……駄目かな?」

 マリアは、後々スキルを覚えた時の為に、魔法スキルのある冒険者に身体の魔力の動かし方とかは習ったりしてるそうだ。
 あの女冒険者と話してたのはその為か……。

 マリアが俺の返事を窺うように上目遣いで見てくる。

「いいぞ。マリアが冒険者登録を済ませたら、そういうデカイ町に行くような依頼を探そうぜ」
「――うんっ! ありがとう!」

 マリアの顔が一気に明るくなり、弾けるような笑顔で俺に抱きついてくる。
 おいおい、二人きりの空間で抱きつかれたら……堪らんって!

 しかし、最初は俺がマリアから何を言われるか不安だったけど、マリアも俺に望みを聞き入れてもらえるか心配だったんだな……。

 彼女がいろいろ考えて、一生懸命努力もしてるんだ。
 一番近くにいる俺が、マリアのしたいことをサポートしてやりたい。


 そんな日から数週間。
 マリアが十二歳を迎えて『見習い』が取れて、晴れて冒険者登録を済ませた。

 しかも、登録したその場で俺らに遠征依頼が来た。
 と言っても、同じ領主様が治める領都に行く依頼だけどな。

 フレーニ婆さんに聞いたところ、領都はキューズの何倍も大きい町――都市らしい!
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