19 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ
19.そそり立つゴブリン
しおりを挟むまるで暗い灰緑の壁だ。
貧相な痩せぎす体形だったゴブリンは、胴長短足でも人間では見ないくらいにモリモリ筋肉が盛り上がって、手足の爪が刃物みたいに鋭くなっている。
太い首の上には、凄い形相の顔。
毛の無い頭じゅうに血管が浮き出てて、耳のとんがりは鋭くなり、大きく見開かれている目は赤く血走って、唸り声をあげる口からはデカくなった糸切り歯が剥き出しで……。
それがギョロギョロ目玉を動かして、焦点が合ってない感じ。
急な変化にコイツ自身が混乱してるんだろう。
「ウヴヴヴゥゥ……ウガアアアアーッ!!」
「――っ!」
ゴブリンが短い脚を開いて、両腕と顔を上に突き上げて雄叫びを上げただけで俺の周りの空気までビリビリ震えた。
それより何より――。
俺の胸元くらいの高さにあるゴブリンの腰には腰蓑が無く……そこからアレが反り立ってる!
「何なんだよ、コイツ! 急にっ! どうして……」
もしかして、【性欲常態化】がレアスキルだからか?
ゴブリンにもいくつかの上位種がいるってのは知ってる。
駄(コモン)スキルしかないゴブリン。
コアスキルを持って生まれたか、身につけた? ホブゴブリン種。
これは剣とか弓とか魔法とかのスキル毎に、ソード・ゴブリンとかメイジ・ゴブリンって分類されてたな。
レアスキルだと……何てったっけ? ハイゴブリン種だ。
ユニークスキルだと、もはや王様、キングゴブリン種。
ってことは、コイツはハイゴブリン!
この辺には小集団しかいないから、ホブゴブリン種だっていないって話だったのに……。
どう考えても俺の所為だよな?
【性欲常態化】を移した直後だもんな……。
どっちにしろ、俺がなんとかしなくちゃ――。
「レオー! どこー?」
「――っ!」
位置的に俺、ハイゴブリン、木、その背後の自生地から飛んできたマリアの声に、俺は焦りハイゴブリンは耳をピクリと反応させた。
「ギャハ? ギュッフゥ♪」
その瞬間、ハイゴブリンの顔に不快な笑みが浮かんだ。
コイツっ!
こんな状態のゴブリンが考えることなんて、ひとつしかない。
俺がずっと必死に……必死の想いで押さえ込んでいたこと!
「マリアーーッ! 絶対にこっちに来るなぁっ!!」
――メキッ! ……ドォーンガサガサガサッ!
俺がマリアに叫び掛けるや、ハイゴブリンの野郎もマリアの方に振り返ろうとして木に腕が当たった。
たったそれだけで、木が上下真っ二つに分かれ、枝葉の部分が地面に落ちる。
幸運なことに、その枝葉がハイゴブリンの前を塞いだ。
それに、そのお陰でマリアからハイゴブリンの下半身は見えないだろう。
「キャーッ!! ゴブリンなの、それ?」
「ギュフゥ♪」
木が横倒しになったことで、マリアからはハイゴブリンの胸あたりから上が見え、ハイゴブリンからはマリアがはっきりと見えたはずだ。
野郎の声だけで、ニヤけたのが分かるし、涎をすする音もする。
「マリアーーッ! 絶対にこっちに来んなぁっ!!」
俺も少し横に逸れて、もう一度マリアに叫び掛ける。
――ヤバい!
ハイゴブリンの野郎が、枝葉などお構いなしに前に、マリアに向かおうとしてやがる!
どうする? どうすればいい?
まずはあっちに行かせないことだ!
野郎は枝葉を手折り、踏みつけ、真っ直ぐマリアに行く気だ。
野郎の背中には、俺の(剣の先っちょだけ刺さった)攻撃でついた小さい傷があったけど、閉じかけてる。
【自然回復】か【急速回復】が働いてるんだろう。
厄介だけど、傷が付けられる、ダメージを食らわせられるってことは分かった。
どっちにしろ、俺に気を惹かなきゃマリアが危ない!
なら、やることは一つ。
俺には全く関心が無いようで、相変わらず背中はガラ空きなんだから、存分に叩きこむぜ。さっきは使わなったスキルをよっ!
「うぉおおおー! 【刺突】ぅぅううう!!」
ほとんど塞がりかけているさっきの傷跡めがけて、地面を蹴って剣を突き出す。
「イギャッ!」
よしっ! 刀身の半分まで刺さったぞ!
喜んだのも束の間。
「うおおっ?!」
ハイゴブリンが体ごと振り返り、俺は剣を刺したまま凄い勢いで身体が振り回される格好に。脚まで浮いて、遠心力で飛ばされそうになるのを、剣を握る手に力を込めて耐える。
野郎も背中側に俺の存在を感じたのか、背中を右へ左へ大きく動かしてくる。
それも必死で耐える俺だけど、そこに野郎の肘が!
剣を離せば当たらないで済む。
でも武器を手放すわけにいかねえ! ……なら!
【硬化】っ!
ガァンッ!
野郎の肘が俺の肩にヒットする硬い音と一緒に衝撃が来て、身体が弾かれた。
人間の連中の蹴りや拳はほとんど痛くなかったのに、ジンジンとした鈍い痛みが俺に走る。
ついでに、衝撃で剣が野郎の背中から抜けて、身体がふわっと宙に浮いた。
俺は空中で姿勢を整えて着地。すぐに野郎を見遣る。
野郎は……肘を押さえて呻いていた。
何やってんだ?
――あっ! 肘から先が痺れてやがるんだ!
肘をどっかにぶつけた時にくる、あの痺れ! ゴブリンにもあるんだな……。
ハイゴブリンは、まだ苦悶の様子。
おかげで、俺は野郎との距離を取れた。
で、どうする?
俺には【注視】から進化した【洞察】ってスキルがある。
これまた用心深いウルフ系の魔物にあるスキルで、気配を消して物陰から相手を探る時のスキルだそうだ。
俺のはまだレベルが低くて、相手がどれだけの力量があるかまでは分からないけど、俺より強いか弱いか、強くても勝てそうかどうかが何となく分かる程度だ。
俺の目から見て、この野郎には勝ち目が薄い。
かといって必ず負けるっていう気はしねえ。やり方次第ってことだ。
でも――。
それは、何もねえ状況で、一対一でやった場合だ。
ここにはマリアがいる。
この野郎の視界にマリアを入れたくないから、それを考えながら戦わなくちゃならねえ。
待てよ?
そもそもの原因の【性欲常態化】を、俺が吸収しちまえば?
いやいやいやっ!
またあの地獄の日々に耐えろって? 無理無理無理。
それだけは御免だっての!
――っ!
「ウ、ウガアアアアーッ!」
ハイゴブリンが雄叫びを上げて、そして俺の方に向き直る。
血走った眼は俺をしっかりと捉えていて……俺を敵と認識したみてえだな!
好都合だっての!
やってやるよ。
その方がマリアを巻き込まなくて済むからな!
剣を構え直して、俺を睨みつけてくる野郎を睨み返す。
「さあ、来いよっ!」
俺をただの人間のガキだと思うなよ?
俺の持ってる全てを使ってでも……何をやってでもお前をブッ潰す!!
11
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
村から追放された少年は女神様の夢を見る
月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる