禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

文字の大きさ
上 下
18 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ

18.最後まで糞スキルだな、おい!

しおりを挟む

 俺とマリアは二日で訓練を終えた。
 まあ、武器や防具を身につけた状態の重さに慣れるのと、その状態での動きの確認だったからな。

 俺は意地で慣れたけど、マリアも俺に付き合って頑張ってた。
 【瞬間回復】は、怪我や傷痕は直すけど、体力が一瞬で回復するわけじゃないから、大変だったと思う。


「最初は薬の素材の採取依頼だね」

 フレーニ婆さんが言い捨てる。

「草…………」

 耐えろ、俺。
 冒険者らしく魔物を倒したいのと、一刻も早くこの糞スキルから解放されたいのに……。

 いや、待て。
 どうせ外には魔物がうろついてるんだ。草の生えてるとこにもいるだろ。
 魔物に遭遇して戦わないなんてありえない、そのチャンスを待つんだ、俺!

「特別にアタシが連れてってあげるから、安心しな」

 ババアがついてくるのかよ!!
 怪しいとは思ってたんだ。
 服装が制服じゃなくて細身のズボンにブーツでローブ姿だったし、細眼鏡まで外してるし、腰が伸びてやがるし……。
 ぐぬぬ~……やる気出してんじゃねえ、ババア!


 今回は南北にある門のうち、北側の門から外に出る。
 冒険者証と見習い証っていう身分証があるとはいえ、通る時は少し緊張したぜ。

 北門の外は、人や馬車が往来する街道以外はまばらに低木が散在する草原地帯。

「や、やるじゃねえか、バ――フレーニさんよぉ」
「凄いです、フレーニさん!」

 街道を少し進むと、右っ側に小さな林があり、その奥に薬の素材になる薬草の自生地ってのがある。
 街道を外れたら魔物がぽつぽつといたんだけど、全部婆さんが倒しやがる。こぶしで!

 憎っくきゴブリンもいたから、俺にもやらせろって文句を言いたかったけど、あの撲殺シーンを見せられたら何も言えないって……。

「ぶ、武器は使わねえのか……ですか?」
「なんだいその聞き方は?」
「いや、なんで殴るのかな? って」

 聞けば、婆さんは武器なんてまどろっこしい物を持たずに戦う拳闘士だったらしい。

 マジかよ……そんなの聞いてねえって!

 昔は殴打に特化した籠手を着けてたらしいけど、この辺りの魔物には素手でもお釣りがくるってよ……。
 最盛期は、拳での殴り合いに限っては男女問わず最強だったそうだ。
 魔物の紫っぽい血を拭って、俺らにシャキーンって拳を見せてくる。

「そ……」

 そんな拳で俺にゲンコツを落としてたのかよ!
 死んでもおかしくなかったんじゃねえか、俺? マジで。

 そんな事実に冷や汗を流しながら、マリアと薬草を採取して戻る。

「依頼分以上は採るんじゃないよ? 将来、自分で使う分を採るにしても採り過ぎは駄目だ」

 ここを枯らしてしまうと、もっと遠くて危険な場所に行かなくちゃなんなくなるって。


 婆さんとベルナールが交互に付き添って、遠足みたいな採取依頼や町の壁際に張り付いたスライムの除去依頼をこなすこと一週間。
 遂に俺とマリアだけで外に行く許しが出た!

 やっとだぜぇ!

 なんでも、キューズの町で俺らみたいな十二歳ギリギリから冒険者になる奴は本当に珍しくて、更にネイビスの件で余計に神経を使ってくれたらしい。

 スライム退治の時はもちろん、薬草採取の時にもたまにゴブリンと戦わせてもらったけど、ずっと見守りの視線があったから【スキル譲渡】する隙が無かったんだよ……。

「過保護だったかもしれないけどさ。おかげでこの町の周辺では、やっていける力も知識もついたはずさ。頑張りなよ」
「おうよ! 二人とも油断さえしなけりゃ、一つ上のEランクの依頼なんぞ楽勝でこなせるようになってるぞ! まあ、頑張れや」

 朝早くにもかかわらず、フレーニ婆さんとベルナールが受付の向こうから見送ってくれる。

 よし。……よし、よしっ! よぉーし!!
 ようやくこの時が来たぜ!

 林の奥での薬草採取の依頼を、俺とマリアで二つ受けた。
 あとは、マリアの目を盗んでゴブリンにスキルを突き返すのみ!
 ゴブリンの糞スキルはゴブリンに!
 そしてぶっ飛ばす!!
 完璧な作戦だ……。

「レオ? 何か変なことを考えてないでしょうね?」

 ギクッ!

「か、考える訳ないだろ?! け、怪我しないでああ……安全に依頼をこ、こなすことだけ考えてたんだよ」
「そう?」
「あ、当たり前だろ? 二人で協力して頑張ろうな、マリア」

 マリアが手強てごわいけど、いざ出発だ!!


 いたいた!
 街道を林側に下りて、中間あたりまで来たところで魔物発見。

 ベルナールや婆さんから教わったし、資料の魔物分布でも、このキューズの近郊――特に今の俺らの行動範囲には、スライムだのゴブリンだのホーン・ラビットといった小型の魔物が多い。
 もちろんフォレスト・ウルフやボア、ヴィラン・ディアっていう中型の魔物もいるけど、強さ的にそれほどではないらしい。
 俺に身についたスキルは、ほとんどがコイツらの結晶からだ。

 腰くらいまである草が揺れる奥にホーン・ラビット。
 ちょこまか動くけど、攻撃は正面でだけ。一本角を刺そうとしてくる。

 マリアと目配せをし、二人でちょっと間隔を開けて並んで進む。
 俺が腕に装着した小盾をゴンゴン鳴らして注意を惹き、俺に突っ込んできたところをマリアが杖を打ち据えたり、盾で角を受けた俺が剣で仕留めるってな具合で倒す。


「レオ! それ違う草だよ?」
「え? あ、ごめんごめん」
「……もう、間違うの今日何回目?」

 薬草の自生地に入った俺は、採取よりも糞ゴブリン探しに頭がいってて、何回も違う草を採りかけてしまう。

 だって、マリアと向き合ったり隣り合わせで採集しようとすると、どうしてもマリアに目が行っちまって……。
 シャツから覗く胸元とか首筋とか仄かな匂いとか……誘惑が多すぎる!

 だから、なるべく糞ゴブリンのことを考えて、姿も探しちまってたんだ。

 ――あっ!! あの灰色がかった緑の体は……見つけた!
 自生地から少し離れてて、林――それも何本かの木の奥に……一体だけ?

 ゴブリンは複数でうろつく習性だって習ったし、実際ベルナールとかと一緒の時は二、三体で行動してたけど、これはハグレか?

 でも、チャンスなのは間違いない!
 俺らの周りには、いま他の魔物はいない。ここは俺一人でこっそり、内密に、事を片付けよう……。

「ちょっと林で用を足してくる。林は俺が警戒するから、反対側はマリアが自分で警戒しててくれな?」
「わかった」

 よし。さりげなくマリアの視線を反対方向に誘導できた。
 サクッと移してサクッと倒して……いよいよ糞スキルともおさらばだっ!

 何気ない風を装い、けど、万に一つもゴブリンの姿をマリアの視界に入れないように、俺の体で隠しつつ林に向かう。

 よし! マリアはちゃんと反対を向いているな。
 ゴブリンも、ちょうど木の陰に入って、木の皮を剥ぐのに夢中になってる。

 奇襲ってか、不意打ちのチャンス!
 俺は【忍び足】から進化した【隠匿】を使って、遠回りにゴブリンの背後に忍び寄る。確か……フォレスト・ウルフが良くやる手だったな。

 よし。もう目の前。真後ろについた。
 木の皮で作った腰蓑こしみの姿で俺よりひと回り小さいくらい、マリアと同じくらいか? まあいい、いくぞ!

 せーのっ! 

「ギギェエエッ!」

 ゴブリンの後頭部を手の平で押さえつけて、目一杯の力で顔面を木に打ち付けつつ……【性欲常態化】を【スキル譲渡】っ!!

 地獄のような一か月半が頭をよぎったし、念願の解放が叶うっていうチャンスに手が震えてた。

 でも……手応えアリッ!!
 ゴブリンは顔面ごと木にブチ当たり、木に張り付く格好。

 あとは、一旦距離を取って、ガラ空きの背中に剣をブッ刺すのみ!
 サッと飛び退いて剣を構える。

 狙うは背な――えっ?! な、なんだ?

 メキメキッ……ミチ……ミチミチミチッ!

 おいおいおいおい!
 ゴ、ゴブリンが……デカく、ぶ厚くなっていく!

 背中の筋肉がミチミチと音を立てながらデッカく、腕も脚も首も! 太くなってる!
 背だってミシミシ鳴りながら伸びていく……。

 ――ヤバいっ!
 直感でそう感じた俺は、慌てて片手剣を両手で握り締めて、ゴブリンの背中――心臓目がけて突き上げるように飛び込む。

「なっ?!」
「ゴァ?」

 剣が刺さらない?
 いや、刺さった……けど先っちょだけ。浅すぎる! 

 その瞬間、巨大化したゴブリンの右手が、まるで背中の虫を払うみたいにスナップを利かせて迫ってきた。

「うおっ!」

 間一髪飛び退いて、すぐさま剣を構え直す。
 ゴブリンも俺に振り返る。

 ゴブリンは俺の倍、デブ双子やベルナールくらいになりやがった!
 上半身がデカく厚くなって、その割に脚は短い。
 でも何より……。

 ゴブリンのアソコ・・・がっ――!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

村から追放された少年は女神様の夢を見る

月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...