禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

17.外に行かせてくれよー!

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 ほどなくして――。

「喜べ、領主様の許しが出たぞ」

 闇組織アンブラの捜査が終わった、と。

 朝に冒険者ギルドへ行くと、マスター室に呼ばれて執務机に就くベルナールからそう伝えられた。
 サブマスターのフレーニ婆さんは、今日は下で仕事だそうだ。

 俺とマリアはソファに座って成り行きを聞く。

 殺人や誘拐・人身売買など、重大な犯罪を中心に捜査されたそうだけど、ボスのネイビスもほとんどの構成員も死んでいるので、書類だけでは全面的な解決には至れなかったそうだ。
 ネイビス達をった奴についても、迷宮入りだとさ。

「特に、スキル強奪絡みの殺人なんぞは、まず豪商や貴族が関わってるだろうからな……一地方領主では踏み込めねえだろ」

 領主様とは、直接だったり代官を通したりで接触していたベルナールが、頬杖をついて苦々しく零した。

 そして、このひと月の間、捜査と並行して子ども達の保護施設を警戒していて、狙われている形跡も無く子どもらは安全と判断したそうだ。

「子ども達には全員に、解放と同時に見舞金が支給されるとよ」
「おおっ! 」

 期待してはいたものの、いざ言葉として聞くと嬉しいもんだ。
 よっしゃ、ラッキー!

 そして、なんと!!

「レオとマリアには、情報料も出るぞ」

 金額の多い『報奨金』まではいかないものの、俺らのもたらした情報には価値を付けてくれるらしい。
 捜査の終了と保護の終了ってことは、これから自力で宿代を稼がなくちゃなんねえってことだ。
 この一か月間、少しずつ金は貯めていたけど、高が知れる金額だから、正直大助かりだ。

 よっしゃ、ラッキー!

 見舞金は、囚われていた期間によって多少の差が付けられている。
 俺は金貨五枚。これは今回の平均的な金額らしい。
 マリアは金貨五枚に大銀貨七枚。

 屋敷を出るときに持って来たのが、銀貨が数枚と大銅貨・銅貨ばかりで、大銀貨すら見たこと無いのに……金貨5枚って、どれくらいだ?
 俺たちが泊まっている宿は、一泊二食付きで銀貨五枚、婆さん=ギルドの紹介割引(一割引き)で銀貨四の大銅貨五枚だから…………えー……。

「宿に一〇〇日以上泊まっていられるくらいよ」

 俺が両手の指を折ったり開いたり、頭をガシガシ引っ掻いたりして数えていると、見兼ねたマリアがこっそり耳打ちしてくれる。

「ひっ、ひゃく?! すげえ……」
「いやいや、ずっと囚われていた割には3か月ちょい分だぞ? 渋いだろ?」

 内心ラッキーと喜んでいたのは俺だけで、ベルナールはしぶつらのまま。
 マリアもおっさんに同意して頷いていた。

「子どもの人数が多かったから仕方ないっちゃあ仕方ないんだがな……。まあ、その代わりに帰郷の手配や仕事の紹介っつうか斡旋はするように代官に指示してたから、すぐに路頭に迷うって事はねえだろう……代官も大変だな」

 俺たち以外でこの領に残る子どもには、住人としての籍や仕事の手配まで面倒見てくれるらしいから、見捨てるってことではないみたいだな。

「レオとマリアは冒険者登録してあるから、それは受けられない。――だが、」

 ズジャンッ!!

 ベルナールが執務机に就いたまま、テーブルに革袋を投げて寄越した。すっげえ重そうな音が響いた。

「それが情報料だ。金貨十枚分を金貨五枚と大銀貨五〇枚で用意してある」

 うひょ~!
 えーっと……? と、指折り答えの出ない計算をしていると、諦めろってマリアがそっと手で制してきた。

「レオ……お前は今、指折り何やら数えていたが、宿代の計算だったらお門違いだ。これで武器を買うだの防具を作るだのの遣り繰りに頭を回さなきゃいけねえぞ? “冒険者”なんだから!」

 宿代数えてた……すまん!


 マスター室を出た俺は、今もらったばかりの情報料と、俺とマリアの見舞金を【体内収納】に仕舞う。

 これ、スライムのスキルみたいで……物を体の中に仕舞うことが出来る。
 体のどこに入っていくのか分からないけど、確かに入ってる感覚があって、出そうと思うだけで取り出せる。

 何を入れたかを覚えておかないといけないし、大きな物は入れられないし、量もそんなに入らない。食べ物とかは、外と同じで時間が経つと悪くなるし、生きてる物は入れられない。
 でも何故か、体形が変わることなく収納できる。

 最初は、入れたとしても取り出せなかったり無くなったりが心配で、恐る恐る実験した。
 宿の狭い部屋でマリアと実験。ある意味地獄だった……理性の面で。

 【硬化・軟化】の軟化で、何とは言わないけど“柔らかく”できないか、こっそり試したけど全身柔らかくなって失敗した件は内緒だ。

 さて、マリアには悪いが、さっそく今日から“外”に行かせてもらおう!


「まだ外には行かせられないよ!」
「はあああああっ?!」

 ギルド一階に下りて、窓口で婆さんに「俺は今日から外の依頼を受ける」と伝えたら、これだよ……。
 いやいやいや! 領主の許しも出たし、ベルナールも駄目とは言ってない。

「なんでだよ?! マリアは見習いだから仕方ないにせよ、俺は外に行かせてくれよっ、バ――」

 思わず“ババア”呼ばわりしそうになったところで、婆さんのゲンコツが飛んできた。

 痛ってえ~!
 ベルナールに訓練つけてもらってるから動きが良くなっちまって、脳天直撃コースをけようとして頭の側面から耳にかけてゲンコツを食らってしまった!
 脳天で受けた方がマシだったぜ……。

 耳を押さえる俺を見ながら、婆さんはため息交じりに訊いてくる。

「ベルナールに言われなかったのかい?」
「何をだよ?」
「武器とか防具のことだよ! 外には魔物がいるんだよ、ナイフ一本でどうする気さ」
「あ……言われたな……」

 結局、今日はいつもの街なか依頼をこなした後に、武器と防具を買いに行かされた。

 わざわざフレーニが案内してくれたのは、ベルナールお勧めの中古武具店。
 俺はそこで短かめの片手剣と木の小盾、それに革の胸当てを、マリアは大人の拳くらいあるコブがついた身の丈もある長い杖――スタッフ――と革の手甲と胸当てを買い、さらに愛用の黒いハーフマントの裏に鎖帷子くさりかたびら用の鎖を縫い合わせた。

 これが俺とマリア、それぞれに合わせた“最低限”の装備らしい。
 マリアには俺の倍くらい金が掛かったけど、それでも怪我されるよりは全然いい。


「よし! 今日こそは外に行くぞ!」

 俺は珍しくマリアよりも早く起き、気持ちがはやったままギルドに行く。

「武器と防具に慣れるまでは外に行けないよ!」
「はあああああっ?!」
「二、三日は訓練しな」
「ぬぉぉおおおおっ! そ・と・に・い・か・せ・ろーっ!!」
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