17 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ
17.外に行かせてくれよー!
しおりを挟むほどなくして――。
「喜べ、領主様の許しが出たぞ」
闇組織アンブラの捜査が終わった、と。
朝に冒険者ギルドへ行くと、マスター室に呼ばれて執務机に就くベルナールからそう伝えられた。
サブマスターのフレーニ婆さんは、今日は下で仕事だそうだ。
俺とマリアはソファに座って成り行きを聞く。
殺人や誘拐・人身売買など、重大な犯罪を中心に捜査されたそうだけど、ボスのネイビスもほとんどの構成員も死んでいるので、書類だけでは全面的な解決には至れなかったそうだ。
ネイビス達を殺った奴についても、迷宮入りだとさ。
「特に、スキル強奪絡みの殺人なんぞは、まず豪商や貴族が関わってるだろうからな……一地方領主では踏み込めねえだろ」
領主様とは、直接だったり代官を通したりで接触していたベルナールが、頬杖をついて苦々しく零した。
そして、このひと月の間、捜査と並行して子ども達の保護施設を警戒していて、狙われている形跡も無く子どもらは安全と判断したそうだ。
「子ども達には全員に、解放と同時に見舞金が支給されるとよ」
「おおっ! 」
期待してはいたものの、いざ言葉として聞くと嬉しいもんだ。
よっしゃ、ラッキー!
そして、なんと!!
「レオとマリアには、情報料も出るぞ」
金額の多い『報奨金』まではいかないものの、俺らのもたらした情報には価値を付けてくれるらしい。
捜査の終了と保護の終了ってことは、これから自力で宿代を稼がなくちゃなんねえってことだ。
この一か月間、少しずつ金は貯めていたけど、高が知れる金額だから、正直大助かりだ。
よっしゃ、ラッキー!
見舞金は、囚われていた期間によって多少の差が付けられている。
俺は金貨五枚。これは今回の平均的な金額らしい。
マリアは金貨五枚に大銀貨七枚。
屋敷を出るときに持って来たのが、銀貨が数枚と大銅貨・銅貨ばかりで、大銀貨すら見たこと無いのに……金貨5枚って、どれくらいだ?
俺たちが泊まっている宿は、一泊二食付きで銀貨五枚、婆さん=ギルドの紹介割引(一割引き)で銀貨四の大銅貨五枚だから…………えー……。
「宿に一〇〇日以上泊まっていられるくらいよ」
俺が両手の指を折ったり開いたり、頭をガシガシ引っ掻いたりして数えていると、見兼ねたマリアがこっそり耳打ちしてくれる。
「ひっ、ひゃく?! すげえ……」
「いやいや、ずっと囚われていた割には3か月ちょい分だぞ? 渋いだろ?」
内心ラッキーと喜んでいたのは俺だけで、ベルナールは渋っ面のまま。
マリアもおっさんに同意して頷いていた。
「子どもの人数が多かったから仕方ないっちゃあ仕方ないんだがな……。まあ、その代わりに帰郷の手配や仕事の紹介っつうか斡旋はするように代官に指示してたから、すぐに路頭に迷うって事はねえだろう……代官も大変だな」
俺たち以外でこの領に残る子どもには、住人としての籍や仕事の手配まで面倒見てくれるらしいから、見捨てるってことではないみたいだな。
「レオとマリアは冒険者登録してあるから、それは受けられない。――だが、」
ズジャンッ!!
ベルナールが執務机に就いたまま、テーブルに革袋を投げて寄越した。すっげえ重そうな音が響いた。
「それが情報料だ。金貨十枚分を金貨五枚と大銀貨五〇枚で用意してある」
うひょ~!
えーっと……? と、指折り答えの出ない計算をしていると、諦めろってマリアがそっと手で制してきた。
「レオ……お前は今、指折り何やら数えていたが、宿代の計算だったらお門違いだ。これで武器を買うだの防具を作るだのの遣り繰りに頭を回さなきゃいけねえぞ? “冒険者”なんだから!」
宿代数えてた……すまん!
マスター室を出た俺は、今もらったばかりの情報料と、俺とマリアの見舞金を【体内収納】に仕舞う。
これ、スライムのスキルみたいで……物を体の中に仕舞うことが出来る。
体のどこに入っていくのか分からないけど、確かに入ってる感覚があって、出そうと思うだけで取り出せる。
何を入れたかを覚えておかないといけないし、大きな物は入れられないし、量もそんなに入らない。食べ物とかは、外と同じで時間が経つと悪くなるし、生きてる物は入れられない。
でも何故か、体形が変わることなく収納できる。
最初は、入れたとしても取り出せなかったり無くなったりが心配で、恐る恐る実験した。
宿の狭い部屋でマリアと実験。ある意味地獄だった……理性の面で。
【硬化・軟化】の軟化で、何とは言わないけど“柔らかく”できないか、こっそり試したけど全身柔らかくなって失敗した件は内緒だ。
さて、マリアには悪いが、さっそく今日から“外”に行かせてもらおう!
「まだ外には行かせられないよ!」
「はあああああっ?!」
ギルド一階に下りて、窓口で婆さんに「俺は今日から外の依頼を受ける」と伝えたら、これだよ……。
いやいやいや! 領主の許しも出たし、ベルナールも駄目とは言ってない。
「なんでだよ?! マリアは見習いだから仕方ないにせよ、俺は外に行かせてくれよっ、バ――」
思わず“ババア”呼ばわりしそうになったところで、婆さんのゲンコツが飛んできた。
痛ってえ~!
ベルナールに訓練つけてもらってるから動きが良くなっちまって、脳天直撃コースを避けようとして頭の側面から耳にかけてゲンコツを食らってしまった!
脳天で受けた方がマシだったぜ……。
耳を押さえる俺を見ながら、婆さんはため息交じりに訊いてくる。
「ベルナールに言われなかったのかい?」
「何をだよ?」
「武器とか防具のことだよ! 外には魔物がいるんだよ、ナイフ一本でどうする気さ」
「あ……言われたな……」
結局、今日はいつもの街なか依頼をこなした後に、武器と防具を買いに行かされた。
わざわざフレーニが案内してくれたのは、ベルナールお勧めの中古武具店。
俺はそこで短かめの片手剣と木の小盾、それに革の胸当てを、マリアは大人の拳くらいあるコブがついた身の丈もある長い杖――スタッフ――と革の手甲と胸当てを買い、さらに愛用の黒いハーフマントの裏に鎖帷子用の鎖を縫い合わせた。
これが俺とマリア、それぞれに合わせた“最低限”の装備らしい。
マリアには俺の倍くらい金が掛かったけど、それでも怪我されるよりは全然いい。
「よし! 今日こそは外に行くぞ!」
俺は珍しくマリアよりも早く起き、気持ちが逸ったままギルドに行く。
「武器と防具に慣れるまでは外に行けないよ!」
「はあああああっ?!」
「二、三日は訓練しな」
「ぬぉぉおおおおっ! そ・と・に・い・か・せ・ろーっ!!」
11
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
村から追放された少年は女神様の夢を見る
月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる