禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

16.ぜんぜん冒険者じゃない?

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 外の通りに人のにぎわいが出始めた頃、俺たちも朝食を済ませて宿を出る。

 朝食もだけど、昨日の温かい夕食も部屋の寝床も、俺には初めての体験でぐっすりと眠れた。
 安宿とはいえ、婆さんお勧めの宿で飯も美味かったし、ボロ小屋はもちろん屋敷での雑魚寝とは比べ物にならないほど寝心地がよかった。
 マリアとは別々の部屋にしたから、俺の糞ゴブリンスキルもほんの少しは我慢できたぞ。

「よし! じゃあギルドへ行こうか、マリア」

 俺やマリアも見慣れた、定番の物乞い場所……だった・・・場所。
 でも、今日は――今日からは違う目的で行く場所。

「うんっ。わたし達の冒険者生活の始まりだね!」



 おい。冒険者らしいことなんて何ひとつ出来てないんだが?
 あれからひと月近く経つけど、町の外に行く依頼を受けられていない。
 マリアだけじゃなく、俺も!

 結局、屋敷の捜査や処理が終わるまで町から出るなってことになって……。

「レオとマリアはまだマシだよ。冒険者登録して仕事が出来るんだから。他の子らは、まだ施設からも出してもらえてないんだよ?」

 ばあ――フレーニさんが、そう言ってしょっちゅう俺をなだめるけど、俺は外で魔物を倒したいんだ!

 ☆
 あの日、冒険者生活に胸を膨らませてギルドへ行った俺とマリア。

 朝の混み合ったギルド内で、俺らはすぐに婆さんに捕まった。
 あの人集りの中から、他よりも身長の低い俺らをよく見つけたもんだ……。

「代官から領主様のお言葉を預かったんだよ」

 “ヒューズの町から出るな”って。

「捜査が終わるまでは、身元も定かじゃない子ども達を外に出すわけにはいかないんだよ」
「おっ、俺は冒険者証があるだろ?! 俺とマリアは宿代だって稼ぎたいんだ!」
「そんなことを言われてもねえ……。領主様は坊や達の心配をしてくれてるんだよ。例の口封じの件もあるから危ないしね」

 そういうことで、冒険者と見習いという身元証明のある俺とマリアは、保護施設に行かなくてもいい代わりに、ギルドで婆さんが指示する街中の依頼だけ受けさせられることになった。

 まあ、ごねて宿代を代官に出してもらうことになったから、まだマシになったけど。
 ☆

 以来、俺らは毎朝ギルドに通うことになる。

 受付には婆さんが待っていて、今日はどこそこの商人の荷積みだとか、今日は水路の泥の掻き出し、果ては世話になってる宿屋の修繕まであったな……。
 商人や住人の依頼や、代官を通した町の為の仕事ばかりだ。

「おい、ばあ――フレーニさん! 何でも屋みたいな仕事ばかりじゃねえかよ!」
「当たり前だろ! 前にも言ったけど、冒険者ってのは普通の生活をできない連中ばかりの社会の底辺の仕事だ。そんなアタシ達を頼って依頼を出してもらえることに感謝しな!」
「またそれかよ……」

 依頼を聞く度に文句を垂れる俺は、何度も婆さんから説教をくらう。

 あ、俺が婆さんを“フレーニさん”なんて呼ぶようになったのは、婆さんって呼ぶ度に頭にゲンコツが飛んでくるからだ。
 代わりに、俺らのことも“坊や”“お嬢ちゃん”では無く、名前で呼んでくれるようになったけど。

 デブ双子のパンチや帝国のネイビスの腕はかわせたのに、なぜか婆さんのゲンコツは躱せないで脳天に食らっちゃうんだよな。

「言ったろ? アタシも昔は冒険者だった。今でも、そんな自堕落な生き方してる奴なんかよりは強いだろうさ」

 デブ双子は冒険者だろ……?
 でもやっぱり、真面目にっていうか、真剣に冒険者をやってたっていう婆さんは強い。ギルドマスターのベルナールだって相当な手練に見える。

 更に、俺とマリアはただ依頼をこなすだけじゃなくて、依頼を済ませてからは二階の資料室に通っている。
 婆さんから「知識は武器だ」と言われたってのもあるけど、スキルについてや、植物や鉱物、魔物の特性とかを知っておく為だ。

 外に行けるようになったら、採取依頼や討伐依頼を受けられるからな。
 マリアが「失敗しないように勉強しておこう?」なんて言うから、断われるわけない。

 それと、たまにベルナールから戦闘の手解きを受ける。
 なんとギルドの地下には、柱が邪魔で広くは感じないけど訓練場があった!

 ベルナールの空き時間、短時間の気晴らしに俺らが利用されてる感じだけど、凄え為になる。
 だって、めちゃくちゃ強えーんだもん。
 俺もマリアもナイフしか持ってないけど、俺は木剣、マリアは杖で、それぞれ剣術と杖術を習っているんだ。

「レオはネイビスを倒したとはいえ、聞いた限りじゃ偶然勝てたとしか思えねえ。がらもまだ小せえしパワーも無え、武器の扱いだって素人以下だ。せめて剣術は死ぬ気で覚えろ」
「おうっ!」

 俺には魔物のスキルがあって、そうそう体勢が崩れないし硬化すればダメージも少なくなるし、噛み付くっていう攻撃手段もあるけど、確かに純粋な力は小さいし攻撃の知識もテクニックも無いからな……やってやる。

「魔法のスキルを覚えたいっつうマリアだって、坊主に守られてばかりじゃ冒険者として上に行けねえからな。自分の身は自分でも守れるようになれ」
「はい!」

 おかげで俺もマリアも、少しずつだけど強くなれてる手応えがある。

 宿代は領主様(代官)持ち、毎日仕事はある。
 知識も増えているし、強くなってきてもいる。

 でも、何ひとつ変わっていないことがある……。
 そうっ!

 クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】だ!!

 マリアには俺がこのとんでもないスキルを持っていることは、表示板室でも隠せたと思うし、資料室でも誤魔化し通せたと思う。
 でも、俺の身体に出ちまっている症状はバレてると思う。
 何も言ってこないでいてくれるマリアには感謝しかない。

 前に考えた通り、魔物に【スキル譲渡】したいんだけど、その魔物がいる町の外に行けねえんだ!
 よくよく考えれば、デブ双子のような碌でもない人間に移しても、本人以外に被害者が出るかもしれない。
 いや、確実に出る! それは俺の本意じゃない。

 実は、魔物のスキル結晶自体は手に入れた事がある。
 マリアが訓練後に着替えている隙に、他の冒険者が窓口で売る前に交渉して売ってもらったんだ。
 タダでくれって言うのは、物乞いに戻ったみたいで嫌だったからな。

 けれど、魔物のスキル結晶には一つのスキルしか入らないみたいで、どうやっても移せなかった。
 入ってるスキルを【スキル吸収】で取り出そうとすれば、『取り込む』と見做されて結晶はサラサラと消えてしまった……。
 だから、生きてる魔物に【スキル譲渡】して、倒すしかないんだ!

 あああーっ! 外に行きてえええーーーー!!



「喜べ、領主様の許しが出たぞ」
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