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第1章.物乞いから冒険者へ
15.殺されてた……?
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憎っくき【性欲常態化】を、床に伸びている青髪野郎に【スキル譲渡】してやろうとしてたのに、ベルナールに止められた。
胸元をざっくりはだけさせた白シャツに大剣を背負った裾の長い上着姿が、少しやつれている。
あれ? おっさんが出て行ってからせいぜい三時間くらいじゃないか?
「まだ行ってなかったのか?」
「はあ? 『帰って来た』って言ったばかりだろが」
三時間で往復って無理だろ?
そう思ったけど、おっさんの言う事には、強化した馬に騎乗してぶっ飛ばして行ったから、“向こう”でひと働きしてからでもこの時間で戻れたらしい。
そうか、俺らの場合は草臥れた馬一頭に荷車をひかせてたから、時間が掛かるもんなんだな。
「で、扉を開けて入った途端にデケエ音だよ。見りゃあお前が突っ立ってるじゃねえか。何やってんだ、お前は? んん? 転がってるのはヤセノとギススか……?」
やせぎすって……双子に一番似合わねえ名前!
ようやく気が付いたデブ双子が、頭や顎を擦りながら上体を起こすと、ベルナールから事の次第を尋ねられて気まずそうにする。
そこをマリアの肩を抱いた婆さんに「この子らにちょっかいを掛けて、返り討ちに遭ったのさ」と報告されて、余計に居心地悪そうにするけど、双子は足にキテるのか立ち上がれないでいた。
「へえ? やるじゃねえか、坊主。じゃあ、この場はヤセノとギススが弁償だな」
ベルナールが、酒場に散らばるテーブルや椅子の残骸に目を遣りながら、双子に告げる。
「で、だ。坊主たちには訊かなきゃなんねえことが出来たから、もう一回“上”に来い。フレーニもだ」
酒場と双子の始末を別の職員に引き継がせて、ベルナールとフレーニが階段へ向かったので、俺らもついて行く。
「あの! 屋敷の子ども達はどうでした? 無事だったでしょうか?」
マスターの部屋に入るなり、マリアが心配そうに尋ねた。
「ああ。ちゃんと全員保護したぞ。……まあ、座れや、どっこいしょっと!」
おっさんが俺たちにソファを勧めながら、自分も上着を着たまま腰を下ろす。
お茶を用意しようとした婆さんにも、茶は後でいいからここで聞いておくように促していた。
おっさんの返事を聞いたマリアは、凄く安心した表情になって続ける。
「よかったです。それで、みんなの焼き印とか今後は?」
「おう。それは……大丈夫だ。一時的な滞在場所も代官が手配してくれるだろうし、領主様にも報告が行くはずだ」
なんか引っかかる言い方だったな?
「ボス(ネイビスだっけか?)に、解除させたのか? よくも言うことを聞いたもんだな、抵抗しそうなのに……」
俺がボソッと呟くと、おっさんは言いにくそうに「あー、それなんだがな……」と洩らして頬を掻く。
「死んでた」
「は?!」「ええっ?」
「だから、死んでた。ていうか、殺されてた」
「なっ……」「う、そ」
「お前らが閉じ込めてた奴ら全員、な」
「「…………」」
俺もマリアも、言葉が出て来ない。なんで? って思いがグルグルと巡る。
でも、これって……俺とマリアが疑われないか?
「お、俺たちじゃないぞ!」
咄嗟に隣のマリアを腕で庇いながら、おっさんに否定する。
確かにボスの腕を噛み切ったり、逃げる手下の脚に噛み付いたりもしたけど、死ぬほどじゃない! ……はず。
そうだよな、止血もしたし? と、頭の中で確認していると、おっさんは俺の不安を見通したように頷いて同意してくれた。
「お前らを疑っちゃいない。全員、正確に心臓を一突きで殺されていたし、なにより死後まもなくだったしな」
おっさんがCランク冒険者のパーティと、帝国唯一の門を破り入ると、中には魔物が入り込んでいたそうだ。
それを聞いたマリアは、テーブルに身を乗り出しておっさんに問い質す。
「ええっ?! 子ども達は?」
「だから無事だ。屋敷に火が放たれていたけどな」
軽く放ったおっさんの一言に、俺もマリアも血の気が引いた。
けど、おっさんはすぐに言葉を繋ぐ。
「一緒に連れてった冒険者に【水魔法】所持者がいたから、ボヤ程度で済んだ。子ども達は屋敷の一室にまとまって隠れて、息をひそめてたよ」
おっさん達は火を消し、魔物を倒しながら周囲を探ると、柵の一部が壊されていたらしい。
そして屋敷に入り、子ども達を保護。
次に小屋の捜索をしてネイビス達の死体を見つけたって流れだそうだ。
「詳しい調査はこれからだが、オレの見立てでは、プロの殺し屋が侵入して連中の口を封じたって感じだな。柵は侵入する時に壊したんだろう。魔物が入り込んで死体を喰うなり、現場を撹乱してくれるだろうからな。……で、屋敷に火を放ったところでオレという想定外の来訪者があって、慌てて退散したんだろう」
そんな感じだろうな。
で、ボスが死んだから他の子どもらを“外”に連れ出せるってことだな。
とにかく、アイツらが無事なのと、俺らに疑いが向かないことは良かったぜ。
「おっさんの到着が遅かったら、屋敷の子どもらも危なかったんだな」
「まあな。坊主たちが早めに来てくれて良かったってことだ」
ホントは買い物してたけどな……。
「それにしても誰がそんなことをしたんだ?」
俺が呟くと、おっさんは上着の懐から書類の束を取り出して渋い顔をする。
「お前らが持って来たこの書類。アンブラに依頼を出してた連中の誰か、だろうな」
「そっか……。でも、そんな書類は、屋敷にいっぱいあっただろ?」
「ああ。子どもらが纏めておいてくれてたぞ。後でオレ達か領主様が改めて家捜しするだろうが、随分助かる」
昨日の夜のうちに、ボス達の悪行の証拠になりそうなのを集めておいて良かった。
でも、一歩遅ければ子どもらも書類も消されてた……かもしれないんだよな?
そんなことを考えていたら、身震いがした。そうならなくて本当に良かった。
それから、ゆっくりとお茶を飲みながら、改めてどうやってボスらを捕らえたのか、順を追って訊かれる。
まさか魔物のスキルを取り込んだとか、そのスキルを使ってボスの腕を噛み千切ったなんて言えない。
だから、気が動転してたからと理由を付けて、ゆっくり考えながら返答していく。
マリアを守る為に屋敷で暴れ、手下どもは二階や外に散っていて中には少なかったことにする。
そして、外に出たボスは泥濘に足を取られまくって、体重の軽い俺はその隙を突いて手下から奪った手斧で襲いかかった。
「無我夢中で手斧を振り回してたから、いつ腕を斬り落としたかは解からないけど、マリアに止められて我に返ったんだ」
「そうかぁ。しかし、“女”を守る為に立ち向かうたぁ、やるじゃねえか坊主!」
「お、おう。その後はみんなに手伝ってもらったけどな」
俺に都合のいいように話したんだけど、通じたか?
もしかしたら後から蒸し返されるかもしれないけど、そん時はまだ十二歳ってことを利用させてもらおう。
あと、オレとマリアの焼き印について、つっこまれなくて良かった……。
そして、今回の口封じ染みた暗殺を受けて、オレとマリアの関与は出来るだけ伏せるようにしてくれるらしい。
領主様も冒険者ギルドとはいい関係らしく、ベルナールが話を通してくれるそうだ。
被害者である俺たちへは、帝国から没収する財産から見舞金が出るらしいから後で呼び出しがあるって。
夜の帳が下りてきたところで、聴取は終了し、俺らは婆さんと一緒に下に降りる。
おっさんは、領主様対応が残ってるということでまだまだ帰れないらしい。
「アンタら、泊まる当てはあるのかい?」
他の子どもが保護されている滞在場所には行かないことを告げると、婆さんが宿の心配をしてくれた。
そんなに金を持って来たわけじゃないので、安くて飯の美味い宿を紹介してもらえて、そこに泊まることにする。
ようやく長い一日が終わる。
いや、俺もマリアもみんなも、悪夢のような生活が完全に終わるんだ。
胸元をざっくりはだけさせた白シャツに大剣を背負った裾の長い上着姿が、少しやつれている。
あれ? おっさんが出て行ってからせいぜい三時間くらいじゃないか?
「まだ行ってなかったのか?」
「はあ? 『帰って来た』って言ったばかりだろが」
三時間で往復って無理だろ?
そう思ったけど、おっさんの言う事には、強化した馬に騎乗してぶっ飛ばして行ったから、“向こう”でひと働きしてからでもこの時間で戻れたらしい。
そうか、俺らの場合は草臥れた馬一頭に荷車をひかせてたから、時間が掛かるもんなんだな。
「で、扉を開けて入った途端にデケエ音だよ。見りゃあお前が突っ立ってるじゃねえか。何やってんだ、お前は? んん? 転がってるのはヤセノとギススか……?」
やせぎすって……双子に一番似合わねえ名前!
ようやく気が付いたデブ双子が、頭や顎を擦りながら上体を起こすと、ベルナールから事の次第を尋ねられて気まずそうにする。
そこをマリアの肩を抱いた婆さんに「この子らにちょっかいを掛けて、返り討ちに遭ったのさ」と報告されて、余計に居心地悪そうにするけど、双子は足にキテるのか立ち上がれないでいた。
「へえ? やるじゃねえか、坊主。じゃあ、この場はヤセノとギススが弁償だな」
ベルナールが、酒場に散らばるテーブルや椅子の残骸に目を遣りながら、双子に告げる。
「で、だ。坊主たちには訊かなきゃなんねえことが出来たから、もう一回“上”に来い。フレーニもだ」
酒場と双子の始末を別の職員に引き継がせて、ベルナールとフレーニが階段へ向かったので、俺らもついて行く。
「あの! 屋敷の子ども達はどうでした? 無事だったでしょうか?」
マスターの部屋に入るなり、マリアが心配そうに尋ねた。
「ああ。ちゃんと全員保護したぞ。……まあ、座れや、どっこいしょっと!」
おっさんが俺たちにソファを勧めながら、自分も上着を着たまま腰を下ろす。
お茶を用意しようとした婆さんにも、茶は後でいいからここで聞いておくように促していた。
おっさんの返事を聞いたマリアは、凄く安心した表情になって続ける。
「よかったです。それで、みんなの焼き印とか今後は?」
「おう。それは……大丈夫だ。一時的な滞在場所も代官が手配してくれるだろうし、領主様にも報告が行くはずだ」
なんか引っかかる言い方だったな?
「ボス(ネイビスだっけか?)に、解除させたのか? よくも言うことを聞いたもんだな、抵抗しそうなのに……」
俺がボソッと呟くと、おっさんは言いにくそうに「あー、それなんだがな……」と洩らして頬を掻く。
「死んでた」
「は?!」「ええっ?」
「だから、死んでた。ていうか、殺されてた」
「なっ……」「う、そ」
「お前らが閉じ込めてた奴ら全員、な」
「「…………」」
俺もマリアも、言葉が出て来ない。なんで? って思いがグルグルと巡る。
でも、これって……俺とマリアが疑われないか?
「お、俺たちじゃないぞ!」
咄嗟に隣のマリアを腕で庇いながら、おっさんに否定する。
確かにボスの腕を噛み切ったり、逃げる手下の脚に噛み付いたりもしたけど、死ぬほどじゃない! ……はず。
そうだよな、止血もしたし? と、頭の中で確認していると、おっさんは俺の不安を見通したように頷いて同意してくれた。
「お前らを疑っちゃいない。全員、正確に心臓を一突きで殺されていたし、なにより死後まもなくだったしな」
おっさんがCランク冒険者のパーティと、帝国唯一の門を破り入ると、中には魔物が入り込んでいたそうだ。
それを聞いたマリアは、テーブルに身を乗り出しておっさんに問い質す。
「ええっ?! 子ども達は?」
「だから無事だ。屋敷に火が放たれていたけどな」
軽く放ったおっさんの一言に、俺もマリアも血の気が引いた。
けど、おっさんはすぐに言葉を繋ぐ。
「一緒に連れてった冒険者に【水魔法】所持者がいたから、ボヤ程度で済んだ。子ども達は屋敷の一室にまとまって隠れて、息をひそめてたよ」
おっさん達は火を消し、魔物を倒しながら周囲を探ると、柵の一部が壊されていたらしい。
そして屋敷に入り、子ども達を保護。
次に小屋の捜索をしてネイビス達の死体を見つけたって流れだそうだ。
「詳しい調査はこれからだが、オレの見立てでは、プロの殺し屋が侵入して連中の口を封じたって感じだな。柵は侵入する時に壊したんだろう。魔物が入り込んで死体を喰うなり、現場を撹乱してくれるだろうからな。……で、屋敷に火を放ったところでオレという想定外の来訪者があって、慌てて退散したんだろう」
そんな感じだろうな。
で、ボスが死んだから他の子どもらを“外”に連れ出せるってことだな。
とにかく、アイツらが無事なのと、俺らに疑いが向かないことは良かったぜ。
「おっさんの到着が遅かったら、屋敷の子どもらも危なかったんだな」
「まあな。坊主たちが早めに来てくれて良かったってことだ」
ホントは買い物してたけどな……。
「それにしても誰がそんなことをしたんだ?」
俺が呟くと、おっさんは上着の懐から書類の束を取り出して渋い顔をする。
「お前らが持って来たこの書類。アンブラに依頼を出してた連中の誰か、だろうな」
「そっか……。でも、そんな書類は、屋敷にいっぱいあっただろ?」
「ああ。子どもらが纏めておいてくれてたぞ。後でオレ達か領主様が改めて家捜しするだろうが、随分助かる」
昨日の夜のうちに、ボス達の悪行の証拠になりそうなのを集めておいて良かった。
でも、一歩遅ければ子どもらも書類も消されてた……かもしれないんだよな?
そんなことを考えていたら、身震いがした。そうならなくて本当に良かった。
それから、ゆっくりとお茶を飲みながら、改めてどうやってボスらを捕らえたのか、順を追って訊かれる。
まさか魔物のスキルを取り込んだとか、そのスキルを使ってボスの腕を噛み千切ったなんて言えない。
だから、気が動転してたからと理由を付けて、ゆっくり考えながら返答していく。
マリアを守る為に屋敷で暴れ、手下どもは二階や外に散っていて中には少なかったことにする。
そして、外に出たボスは泥濘に足を取られまくって、体重の軽い俺はその隙を突いて手下から奪った手斧で襲いかかった。
「無我夢中で手斧を振り回してたから、いつ腕を斬り落としたかは解からないけど、マリアに止められて我に返ったんだ」
「そうかぁ。しかし、“女”を守る為に立ち向かうたぁ、やるじゃねえか坊主!」
「お、おう。その後はみんなに手伝ってもらったけどな」
俺に都合のいいように話したんだけど、通じたか?
もしかしたら後から蒸し返されるかもしれないけど、そん時はまだ十二歳ってことを利用させてもらおう。
あと、オレとマリアの焼き印について、つっこまれなくて良かった……。
そして、今回の口封じ染みた暗殺を受けて、オレとマリアの関与は出来るだけ伏せるようにしてくれるらしい。
領主様も冒険者ギルドとはいい関係らしく、ベルナールが話を通してくれるそうだ。
被害者である俺たちへは、帝国から没収する財産から見舞金が出るらしいから後で呼び出しがあるって。
夜の帳が下りてきたところで、聴取は終了し、俺らは婆さんと一緒に下に降りる。
おっさんは、領主様対応が残ってるということでまだまだ帰れないらしい。
「アンタら、泊まる当てはあるのかい?」
他の子どもが保護されている滞在場所には行かないことを告げると、婆さんが宿の心配をしてくれた。
そんなに金を持って来たわけじゃないので、安くて飯の美味い宿を紹介してもらえて、そこに泊まることにする。
ようやく長い一日が終わる。
いや、俺もマリアもみんなも、悪夢のような生活が完全に終わるんだ。
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