禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛

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第1章.物乞いから冒険者へ

8.町に向かうんだけど、それより女の子のマリアが可愛い!

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 帝国崩壊から一夜。

 俺もマリアも、家捜しで見つけた多少マシな服に着替えて、幾ばくかの金と護身用のナイフだけでキューズの町へ向かう。
 いつもは荷台に乗せられて物乞いに向かう馬車を、俺が操って。

 マリアは、スキルのおかげで大丈夫って言ってたけど、昨日具合が悪かったんだからと、今日も荷台で休んでてもらうことにした。

「ここには二度と戻って来るもんか」
「うん。行こう?」

 実は、屋敷に残してきた連中には悪いけど、俺とマリアにはもう一つ町でやることがある。
 物乞い――ではなく、冒険者になる!

 昨日、こっそり話し合ったんだ。
 俺にもマリアにも、自由の身になったら探し出してぶっ殺――制裁したい奴がいるけど、それは良くないって一致した。
 それぞれ許せない、忘れようにも忘れられないって思いはあるけど、そういう思いに囚われるのは過去を乗り越えられないのと一緒だって思うから。

 自分たちが強くなって、稼いで良い暮らしして、そいつ等を超えて見返すんだ! 

 そして、身寄りのない十二歳と十一歳のガキでも、己の力次第で金を稼げて、(一部余計なのもあるけど)いいスキルを手に入れた俺とマリアならやっていけそうなのが冒険者って結論になった。

 そういうことで、一緒に冒険者になることにした。
 自分たちのことに集中することにしたんだ。

「わたしは魔法のスキルを覚えたいなぁ」
「そ、そうだな。俺は、やっぱり剣だな。ははは……」

 町に向かう道すがら、荷台のマリアとそんな話をする。
 昨夜のうちに、女性陣に体の変調について教わったマリアが、彼女らのお下がりのスカート姿で俺に笑いかけてくる。
 隠す必要が無くなった胸のふくらみがシャツの奥に“ある”し、ポニーテールに出来るまで伸びた金髪が風に揺れている。

 つらい……。てか、ずっと辛い。
 俺は体が変になって、昨日からマリアにドキドキ、ムラムラしっ放しで大変だった。

 ただでさえゴブリンのクソスキル【性欲常態化】のせいでマリアにドキドキしてるのに、女の子っぽい格好を見ると……つらい! 頑張れ俺の理性!!
 今もシャツを何枚も重ねてスカートみたいに巻いてないと恥ずかしいし、マリアは顔を赤くするし……。

 なんとかできるスキル、えかなぁ?


 早朝に帝国を発ったことで、朝のうちにキューズの外周部に着いた。

「よし、使えるっ! 良かったな……。早く入ろうぜ」

 壁に囲まれているキューズへの正式な出入りは、北と南の二つの門からしかできない。
 さらに外の人間の場合は通行証や身分証明、それに金がいるので、金は預かっているけど身分証の無い俺らは、物乞いの時に使っていた“壁の抜け穴”を使うことにした。

 もしかして、町の中にも帝国の息のかかった奴がいて、異変を察知されて塞がれてるかもしれないと不安だったけど、大丈夫みたいだな。

 抜け穴の先は、ボロボロの集合住居やバラックが建ち並ぶ貧民街。そこかしこに汚物があって臭いが充満している。

「レオ、これからどうする?」
「そうだな……思ったより早く着いたから、ギルドはめちゃくちゃ混んでそうだな……。昼くらいまで街を見て、先に必要そうな物を買おう」
「買い物!? うんうん! そうしよう」

 マリアが、その青い目を輝かせて同意してくる。
 かわい過ぎる! ツライ! 周りは臭いけど、マリアが可愛い!

 俺たちは、冒険者ギルドに行く前に街をぶらつくことにする。
 俺たちにはちょっと作戦があって、町の衛兵とかじゃなくて冒険者ギルドの奴らに帝国の件を教えることにしたんだ。

 でも物乞いの時の経験で、ギルドは朝と夕方に大混雑するって知ってるから回避する。

「……まずは服だな」
「やったぁ!」

 服は屋敷で見繕って、いま身に着けている物だけだから、替えを買いに中古服の店へ。

 俺は、なるべく下半身の目立たない服を選ぶ。

 魔物革のハイカットブーツに七分丈の黒ズボン。
 シャツは、暑い国から伝わったっていう、サイドに切れ込みが入っていて裾が長く、膝まである色あせた青のプルオーバーシャツ。紐付き腰袋も買ってベルト代わりにする。

 このシャツのおかげで、パッと見で下半身が目立たなくなって助かった……。

 マリアも同じ店で、時間を掛けて選んだ。

 膝下までのロングブーツに青いショートパンツ。
 汚れの無い生成りのシャツに小さいリュックサックを背負い、それが隠れるような、憧れの魔法使いっぽさと動きやすさを考えた黒いハーフマント。
 これまで、汚れが塗り重なったような暗いボロ着しか着られなかったから、ずいぶん楽しそうに選んでいたな。時間は掛かったけど、可愛いな。

 幾つかの替えも買って、試着した格好そのままで店を出る。これで誰も俺たちが物乞いしてたガキだとは思わないだろう。

「次は……」
「あ、あのね、レオ? わたし……買いたい物があるんだ」

 マリアが何故か言いにくそうに俺に伝えてくる。
 必要なら、言えば一緒に行くのに。

「うん、いいよ。どこの店?」
「それが……」
「それが?」

 まだ言いにくそうだな? 手をモジモジさせて……なんだろう?

「肌着……とか?」
「――あっ!」

 そう言えば昨日、女性陣から色々聞いてたっけ! ただでさえ肌着とか、言い出しにくかったろうに……。

「ごめんごめん! 気が利かなかったな。俺もちょうど探したい物があったんだ。マリアをその店まで送ったらちょっと別行動にしよう」
「う、うん」

 危ないから店から離れないようにマリアに言って、短時間だけ別行動。

 マリアには『探したい物』って言ったけど、本当は物じゃない。
 俺は街を駆け回って、それを探す。

 “それ”を見つけて、急いで戻る。マリアは、買い物を済ませて店の前で待っていた。

「わ、悪い。待たせたな?」
「わたしも今出てきたところだよ。あれ? 買い物じゃなかったの?」

 マリアは、息切れしながら戻ってきた俺に荷物が増えた様子が無くて不思議がる。

「ああ。マリアを連れて行きたい場所を見に行ってたんだ」
「場所? この街で?」
「うん。これから行こう! な?」

 俺はマリアの荷物を預かって、手を取って目的地へ向かう。

「あったあった。ここだ」
「ここ? ――って、床屋さん?」

 マリアがどうして? と、首を傾げる。

「いつもマリアに俺の髪を切ってもらってただろ?」
「うん」

 どうしよう、緊張してきた。上手く言えるかな……。

「こ、これまでのお礼と……マリアには、髪買いじゃなくてちゃんとした店で髪を切らせてやりたかったんだ」
「レオ……」
「店の人に訊いたら、ここは女の人もいっぱい来る店だって……。だから、贈り物ってほどじゃないけど、ここで好きな髪型にしてこいよ……待ってるからさ」

 なんとか伝えたいことを言うと、マリアはパァっと顔を綻ばせた。

「あ、ありがとう! ……レオは?」
「お、俺は、これからもマリアに切ってもらいたいんだ。あ、マリアさえ良ければだけど……」

 俺の正直な気持ちを答えると、マリアはもっと嬉しそうに微笑んで、「じゃあ切ってもらってくるね!」と、床屋に入って行った。
 しばらくして出てきたマリアは、髪の上半分を編み込んで纏めたハーフアップの髪型で出てきた。

「どう、レオ? 似合ってる?」
「お、おおう!」

 髪の手入れもしてきたようで、いつも以上にキラキラなマリアを見て、俺のドキドキは限界を超えそうになった。……ツライ!

「じゃ、じゃあ、あとは小物類を見繕ってから冒険者ギルドに行こうか」
「うん! ……レオ、ありがとう!」

 俺に微笑んでくれるマリアが、可愛くて可愛くてツライ!
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