8 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ
8.町に向かうんだけど、それより女の子のマリアが可愛い!
しおりを挟む帝国崩壊から一夜。
俺もマリアも、家捜しで見つけた多少マシな服に着替えて、幾ばくかの金と護身用のナイフだけでキューズの町へ向かう。
いつもは荷台に乗せられて物乞いに向かう馬車を、俺が操って。
マリアは、スキルのおかげで大丈夫って言ってたけど、昨日具合が悪かったんだからと、今日も荷台で休んでてもらうことにした。
「ここには二度と戻って来るもんか」
「うん。行こう?」
実は、屋敷に残してきた連中には悪いけど、俺とマリアにはもう一つ町でやることがある。
物乞い――ではなく、冒険者になる!
昨日、こっそり話し合ったんだ。
俺にもマリアにも、自由の身になったら探し出してぶっ殺――制裁したい奴がいるけど、それは良くないって一致した。
それぞれ許せない、忘れようにも忘れられないって思いはあるけど、そういう思いに囚われるのは過去を乗り越えられないのと一緒だって思うから。
自分たちが強くなって、稼いで良い暮らしして、そいつ等を超えて見返すんだ!
そして、身寄りのない十二歳と十一歳のガキでも、己の力次第で金を稼げて、(一部余計なのもあるけど)いいスキルを手に入れた俺とマリアならやっていけそうなのが冒険者って結論になった。
そういうことで、一緒に冒険者になることにした。
自分たちのことに集中することにしたんだ。
「わたしは魔法のスキルを覚えたいなぁ」
「そ、そうだな。俺は、やっぱり剣だな。ははは……」
町に向かう道すがら、荷台のマリアとそんな話をする。
昨夜のうちに、女性陣に体の変調について教わったマリアが、彼女らのお下がりのスカート姿で俺に笑いかけてくる。
隠す必要が無くなった胸のふくらみがシャツの奥に“ある”し、ポニーテールに出来るまで伸びた金髪が風に揺れている。
辛い……。てか、ずっと辛い。
俺は体が変になって、昨日からマリアにドキドキ、ムラムラしっ放しで大変だった。
ただでさえゴブリンのクソスキル【性欲常態化】のせいでマリアにドキドキしてるのに、女の子っぽい格好を見ると……つらい! 頑張れ俺の理性!!
今もシャツを何枚も重ねてスカートみたいに巻いてないと恥ずかしいし、マリアは顔を赤くするし……。
なんとかできるスキル、無えかなぁ?
早朝に帝国を発ったことで、朝のうちにキューズの外周部に着いた。
「よし、使えるっ! 良かったな……。早く入ろうぜ」
壁に囲まれているキューズへの正式な出入りは、北と南の二つの門からしかできない。
さらに外の人間の場合は通行証や身分証明、それに金がいるので、金は預かっているけど身分証の無い俺らは、物乞いの時に使っていた“壁の抜け穴”を使うことにした。
もしかして、町の中にも帝国の息のかかった奴がいて、異変を察知されて塞がれてるかもしれないと不安だったけど、大丈夫みたいだな。
抜け穴の先は、ボロボロの集合住居やバラックが建ち並ぶ貧民街。そこかしこに汚物があって臭いが充満している。
「レオ、これからどうする?」
「そうだな……思ったより早く着いたから、ギルドはめちゃくちゃ混んでそうだな……。昼くらいまで街を見て、先に必要そうな物を買おう」
「買い物!? うんうん! そうしよう」
マリアが、その青い目を輝かせて同意してくる。
かわい過ぎる! ツライ! 周りは臭いけど、マリアが可愛い!
俺たちは、冒険者ギルドに行く前に街をぶらつくことにする。
俺たちにはちょっと作戦があって、町の衛兵とかじゃなくて冒険者ギルドの奴らに帝国の件を教えることにしたんだ。
でも物乞いの時の経験で、ギルドは朝と夕方に大混雑するって知ってるから回避する。
「……まずは服だな」
「やったぁ!」
服は屋敷で見繕って、いま身に着けている物だけだから、替えを買いに中古服の店へ。
俺は、なるべく下半身の目立たない服を選ぶ。
魔物革のハイカットブーツに七分丈の黒ズボン。
シャツは、暑い国から伝わったっていう、サイドに切れ込みが入っていて裾が長く、膝まである色あせた青のプルオーバーシャツ。紐付き腰袋も買ってベルト代わりにする。
このシャツのおかげで、パッと見で下半身が目立たなくなって助かった……。
マリアも同じ店で、時間を掛けて選んだ。
膝下までのロングブーツに青いショートパンツ。
汚れの無い生成りのシャツに小さいリュックサックを背負い、それが隠れるような、憧れの魔法使いっぽさと動きやすさを考えた黒いハーフマント。
これまで、汚れが塗り重なったような暗いボロ着しか着られなかったから、ずいぶん楽しそうに選んでいたな。時間は掛かったけど、可愛いな。
幾つかの替えも買って、試着した格好そのままで店を出る。これで誰も俺たちが物乞いしてたガキだとは思わないだろう。
「次は……」
「あ、あのね、レオ? わたし……買いたい物があるんだ」
マリアが何故か言いにくそうに俺に伝えてくる。
必要なら、言えば一緒に行くのに。
「うん、いいよ。どこの店?」
「それが……」
「それが?」
まだ言いにくそうだな? 手をモジモジさせて……なんだろう?
「肌着……とか?」
「――あっ!」
そう言えば昨日、女性陣から色々聞いてたっけ! ただでさえ肌着とか、言い出しにくかったろうに……。
「ごめんごめん! 気が利かなかったな。俺もちょうど探したい物があったんだ。マリアをその店まで送ったらちょっと別行動にしよう」
「う、うん」
危ないから店から離れないようにマリアに言って、短時間だけ別行動。
マリアには『探したい物』って言ったけど、本当は物じゃない。
俺は街を駆け回って、それを探す。
“それ”を見つけて、急いで戻る。マリアは、買い物を済ませて店の前で待っていた。
「わ、悪い。待たせたな?」
「わたしも今出てきたところだよ。あれ? 買い物じゃなかったの?」
マリアは、息切れしながら戻ってきた俺に荷物が増えた様子が無くて不思議がる。
「ああ。マリアを連れて行きたい場所を見に行ってたんだ」
「場所? この街で?」
「うん。これから行こう! な?」
俺はマリアの荷物を預かって、手を取って目的地へ向かう。
「あったあった。ここだ」
「ここ? ――って、床屋さん?」
マリアがどうして? と、首を傾げる。
「いつもマリアに俺の髪を切ってもらってただろ?」
「うん」
どうしよう、緊張してきた。上手く言えるかな……。
「こ、これまでのお礼と……マリアには、髪買いじゃなくてちゃんとした店で髪を切らせてやりたかったんだ」
「レオ……」
「店の人に訊いたら、ここは女の人もいっぱい来る店だって……。だから、贈り物ってほどじゃないけど、ここで好きな髪型にしてこいよ……待ってるからさ」
なんとか伝えたいことを言うと、マリアはパァっと顔を綻ばせた。
「あ、ありがとう! ……レオは?」
「お、俺は、これからもマリアに切ってもらいたいんだ。あ、マリアさえ良ければだけど……」
俺の正直な気持ちを答えると、マリアはもっと嬉しそうに微笑んで、「じゃあ切ってもらってくるね!」と、床屋に入って行った。
しばらくして出てきたマリアは、髪の上半分を編み込んで纏めたハーフアップの髪型で出てきた。
「どう、レオ? 似合ってる?」
「お、おおう!」
髪の手入れもしてきたようで、いつも以上にキラキラなマリアを見て、俺のドキドキは限界を超えそうになった。……ツライ!
「じゃ、じゃあ、あとは小物類を見繕ってから冒険者ギルドに行こうか」
「うん! ……レオ、ありがとう!」
俺に微笑んでくれるマリアが、可愛くて可愛くてツライ!
21
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
村から追放された少年は女神様の夢を見る
月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる