1 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ
1.捨てられ、放置され、追い出され、連れ出される
しおりを挟む
『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』
俺は、親に捨てられたそうだ。
生まれたばかりの姿で、薄い布に巻かれて教会の前に置かれていたらしい。
『アンタはこの辺じゃ見ない黒髪に黒い瞳。気味悪いったらありゃしない』
教会には小さな孤児院があって、俺はそこに入れられた。
貧しい国の、男爵が領主の小さい町のこぢんまりした孤児院。
そこにはひとりの婆さんシスターがいて、子どもが数人、死なない程度の世話を受けていた。
生まれたばかりの俺は、当然最年少だったけど、年上でもそんなに大きい奴はいない。
みんな五歳を基準にいなくなっていったから。
いい【スキル】を持っているからと、五歳になるよりも早く寄付金と引き換えに“売られる”奴は、最初から貰える飯が多かったり身綺麗に世話をされる。
俺は、最初に言われたように【スキル】がないみたいで、死なない程度の世話しかされなかった。
死なない程度って飯だけってことで、他はほとんど放置で、服も売れていった奴のをもらえりゃいい方だ。
『来月から、アンタをここに置いていても領主から金が出なくなる。生きたければ一人でなんとかしな』
五歳になるときに、ヨボヨボなシスターから孤児院を追い出された。
『食べ物を恵んで下さい』
この言葉を覚えさせられ、この言葉が書かれた板きれだけ持たされて追い出されたっけ……。
「食べ物を恵んで下さい」
初めて孤児院を出た俺は行く当てがあるはずも無く、人がいっぱいいる場所に座って覚えた言葉をただ繰り返して食べ物がもらえるのを待つ。そして、暗くなったら細い路地で隠れるように寝る。
恵んで下さいって言ったところで、ほとんどの奴は知らんぷりだ。
何日かに一回、食べ物をくれる婆さんがいたりするけど、何日も同じところにいると大人達に「目障りだ」「よそに行け」って怒鳴られたり殴られるから、何日かごとに違う所にいくしかなかった。
そんな俺の世界に、『色』なんて無かった。
見るもの全てがくすんで見え、全てが俺から遠退いて行く感覚の中、俺はただただ『死んでいない』だけ……。
そんな生活が何年経ったか、わからないけど――。
ある日、道端で食べ物を待っていた俺の前に怖そうな大人が立った。
何日も食っていなくてフラフラだった俺が吹き飛びそうなくらいの迫力の男が、伸び放題でボサボサの俺の髪を片手で身体ごと吊り上げて聞いてくる。
『おい、小僧! 俺の言うことを聞くって誓やぁ、今の今から寝床と食いモンだけは面倒見てやる! 来るか?』
頬に切り傷のある色黒スキンヘッドの大男の鋭い眼光に、俺は「はい」と言うのがやっとだった。
そして、馬車の荷台に放り投げられ、俺と同じようなガキ数人と一緒にその町を連れ出され、もっと大きい町に運ばれた。飯は硬いパン一個だけだった……。
町はずれ、魔物のうろつく深い森に囲まれている上に、周りを木の柵で覆われているだけの拓けた土地、ひとつのデカイ家と幾つかの小せえボロ小屋が建つ場所で馬車が止まる。
荒れているけど、農場だった? みたいで、森と柵に囲まれた広い土地だった。
『いいか? テメエらは飯が食えるから自分の意志で俺に着いてきた。そうだな?』
荷台から下ろされる時、男が俺達を見ながら凄んできた。
俺も他の子も頷くのを確認した男は、ただでさえ大きな体を両腕をひろげて更に大きく見せて続けてくる。
『俺の言うことを聞くって誓ったからには、俺に逆らったら殺す。ここは俺の“帝国”で、俺が“皇帝”だ。それを忘れんな』
それだけ言い残して男はデカイ家に消え、出迎えの男どもが俺達の肩にヘビの焼き印を入れる。
そして、ひとりひとり値踏みするように調べ上げ、その結果によってそれぞれ違う小屋に放り込んでいく。
『コイツは男だし、スキルなしだ。“クズ小屋”に突っ込んどけ』
『お前は今日この瞬間から、ボスのための道具だ。余計なことを考えずに黙って言うことを聞いとけ!』
暗い小屋の中、地面に藁が敷かれただけの床に転がされ、入り口を鎖で封じる音が聞こえた。
“クズ小屋”って言われたボロ小屋には、俺みたいなガキが十人くらい押し込まれていて、他の小屋もそんなものらしい。
そうか……あの男はボスっていう名前か……。
俺には名前なんて無い。
俺は、親に捨てられたそうだ。
生まれたばかりの姿で、薄い布に巻かれて教会の前に置かれていたらしい。
『アンタはこの辺じゃ見ない黒髪に黒い瞳。気味悪いったらありゃしない』
教会には小さな孤児院があって、俺はそこに入れられた。
貧しい国の、男爵が領主の小さい町のこぢんまりした孤児院。
そこにはひとりの婆さんシスターがいて、子どもが数人、死なない程度の世話を受けていた。
生まれたばかりの俺は、当然最年少だったけど、年上でもそんなに大きい奴はいない。
みんな五歳を基準にいなくなっていったから。
いい【スキル】を持っているからと、五歳になるよりも早く寄付金と引き換えに“売られる”奴は、最初から貰える飯が多かったり身綺麗に世話をされる。
俺は、最初に言われたように【スキル】がないみたいで、死なない程度の世話しかされなかった。
死なない程度って飯だけってことで、他はほとんど放置で、服も売れていった奴のをもらえりゃいい方だ。
『来月から、アンタをここに置いていても領主から金が出なくなる。生きたければ一人でなんとかしな』
五歳になるときに、ヨボヨボなシスターから孤児院を追い出された。
『食べ物を恵んで下さい』
この言葉を覚えさせられ、この言葉が書かれた板きれだけ持たされて追い出されたっけ……。
「食べ物を恵んで下さい」
初めて孤児院を出た俺は行く当てがあるはずも無く、人がいっぱいいる場所に座って覚えた言葉をただ繰り返して食べ物がもらえるのを待つ。そして、暗くなったら細い路地で隠れるように寝る。
恵んで下さいって言ったところで、ほとんどの奴は知らんぷりだ。
何日かに一回、食べ物をくれる婆さんがいたりするけど、何日も同じところにいると大人達に「目障りだ」「よそに行け」って怒鳴られたり殴られるから、何日かごとに違う所にいくしかなかった。
そんな俺の世界に、『色』なんて無かった。
見るもの全てがくすんで見え、全てが俺から遠退いて行く感覚の中、俺はただただ『死んでいない』だけ……。
そんな生活が何年経ったか、わからないけど――。
ある日、道端で食べ物を待っていた俺の前に怖そうな大人が立った。
何日も食っていなくてフラフラだった俺が吹き飛びそうなくらいの迫力の男が、伸び放題でボサボサの俺の髪を片手で身体ごと吊り上げて聞いてくる。
『おい、小僧! 俺の言うことを聞くって誓やぁ、今の今から寝床と食いモンだけは面倒見てやる! 来るか?』
頬に切り傷のある色黒スキンヘッドの大男の鋭い眼光に、俺は「はい」と言うのがやっとだった。
そして、馬車の荷台に放り投げられ、俺と同じようなガキ数人と一緒にその町を連れ出され、もっと大きい町に運ばれた。飯は硬いパン一個だけだった……。
町はずれ、魔物のうろつく深い森に囲まれている上に、周りを木の柵で覆われているだけの拓けた土地、ひとつのデカイ家と幾つかの小せえボロ小屋が建つ場所で馬車が止まる。
荒れているけど、農場だった? みたいで、森と柵に囲まれた広い土地だった。
『いいか? テメエらは飯が食えるから自分の意志で俺に着いてきた。そうだな?』
荷台から下ろされる時、男が俺達を見ながら凄んできた。
俺も他の子も頷くのを確認した男は、ただでさえ大きな体を両腕をひろげて更に大きく見せて続けてくる。
『俺の言うことを聞くって誓ったからには、俺に逆らったら殺す。ここは俺の“帝国”で、俺が“皇帝”だ。それを忘れんな』
それだけ言い残して男はデカイ家に消え、出迎えの男どもが俺達の肩にヘビの焼き印を入れる。
そして、ひとりひとり値踏みするように調べ上げ、その結果によってそれぞれ違う小屋に放り込んでいく。
『コイツは男だし、スキルなしだ。“クズ小屋”に突っ込んどけ』
『お前は今日この瞬間から、ボスのための道具だ。余計なことを考えずに黙って言うことを聞いとけ!』
暗い小屋の中、地面に藁が敷かれただけの床に転がされ、入り口を鎖で封じる音が聞こえた。
“クズ小屋”って言われたボロ小屋には、俺みたいなガキが十人くらい押し込まれていて、他の小屋もそんなものらしい。
そうか……あの男はボスっていう名前か……。
俺には名前なんて無い。
12
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
村から追放された少年は女神様の夢を見る
月城 夕実
ファンタジー
ぼくはグリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰ったのだが。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる