王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~

柳生潤兵衛

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12.敵襲

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 ドォオンッ!

 轟音が耳をつんざく。
 な、なんだ?! どこから?
 耳鳴りをこらえながら、音の方向を探ると、大通りに面する建物――あれは王都エーバスの執政官庁舎!?
 五階建ての庁舎の上層の窓が吹き飛び、内部から黒煙が上がっている。

 そっちには確か……いた!
 近くの歩道を走っていたベルジャナが尻もちをついて庁舎を見上げている。
 あんな至近距離で轟音を喰らったのか、もしかしたら風圧も凄かったかもしれないな。

 キヨドールがやったのか?
 奴に目を遣ると――口をあんぐりと開けて棒立ちになり、唖然としている……。

 違うのか? アイツが企ててやらせたなら、あんな反応はしないはずだ。
 じゃあ誰が?

 ドゴォオンッ!
 ――っ!

 同じところからもう一度、さっきより大きい爆発音だ。
 二回目! 建物が保たないんじゃないか?

 見ると――
 案の定三階の一部と四階以上の角が、ズズズと大きな三角錐の塊でずれ動いているのが分かる。
 ズズズ……ゴゴゴゴゴ――
 落ちるっ!

 そこにはベルジャナが! まだ尻もちをついたまま……。

「ベルジャナぁーっ!」

 俺の声なんか届かないだろうけど……『あれ』を使え!
 でも、滅多なことでは使うなって言い聞かせてるからな……仕方ない俺が行くか!

 その時、ベルジャナの身体が仄かな光に包まれ、その光がブワッと強くなり、分厚い膜のように彼女の身体を覆った。

「んん~……んにゃろぉ~っ!」

 無口な彼女が大声と共に立ち上がり、両手両足を大きく広げ、落ちてくる塊を見上げる。
 あ、もう大丈夫だな。

 そして、建物が彼女に当たろうかと言う時、その膜が更に急激に膨らむ。

「まげでたまっかぁ~!」(負けてたまるか~!)

 バァアアアンッ!

 膜の方が加速度をつけて落ちてきた建物の巨大な塊を弾き、吹き飛ばした!

 大きな砂煙が上がり、破片があちこちに飛んでボトボトゴロゴロ転がるが、ベルジャナは全くの無傷。
 多少肩で息をしている様子が窺えるが、大丈夫だろう。

 多くの馬車の御者や客車の窓から顔を覗かせていた貴族達が呆気に取られている中、彼女は俺の方に振り向き、何ごとも無かったかのようにいつも通りヨタヨタ走ってくる。

「はぁ、良かった。あの子にしかできない対処法だけど、上手くいったな……」

 ベルジャナは魔法を使ったとかではなく、ただただ自分の魔力を放出しただけ。
 魔力をそんな風に使うなんて、騎士も他の衛視連中も考えたことが無いだろう。
 しかも、強力な魔力結界の内側でこんなに大量の魔力を出せるのもベルジャナしかいない。
 俺の援けも要らないほどだったもんな。
 訓練頑張ってたし……ベルジャナ、よかったな。

「それにしても……」

 二発も爆発。あれは魔法だよな? 魔道具か?
 魔力結界が想定以上に強くて、二発目を撃たざるを得なかったとか?
 いずれにせよ、別の隊が駆けつけるまで庁舎を包囲したほうがいいな。

 指示を飛ばそうと考えていると、今度はけたたましい指笛の音が響いてきた。
 500モーテー以上先の第6班班長からだ!
 異常を知らせる符号!

 大通りを走っていた馬車が足を止めている中、一台の6頭立て大型馬車が客車を左右に揺らし、他の客車にぶつかったりしながら向こうの交差点を曲がって大通りに侵入してきた!
 盾になって止めようとしていた警邏けいら衛視隊を弾き飛ばし、引き摺りながら、ドンドンと速度をあげてくる。

 あの馬車が掲げる旗は、国境を接する小国テキストゥーン?
 そう言えばかの国の王族も招待されていたが……様子がおかしい。
 そして、その馬車の後を、剣を抜き身で持った黒装束の集団が追従している。

 どんどんこちらに迫って来る!

 ……そうか! あの爆発は陽動。
 俺達の周囲をそちらに向けて、その隙にこの大通りを突破するつもりだったんだ!

 案の定、第4班も素通りを許してしまった。

 ……仕方ない! 俺達で止めるしかない!

「第19班っ! 総員全力で敵を滅するぞっ!」
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