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10.キヨドールの屈辱
しおりを挟む国王陛下主催パーティー当日。
午前は通常業務を行い、午後は夜会に備えた特別態勢――交通規制――を敷く。
王都外からの招待客が通る正門から王城へのルートを、早いうちから規制して、他の衛視隊と一緒になって不審物がないか、不審者が潜んでいないかを捜索する。
そこに隊長が現われて、各持ち場の担当班と最終的な打ち合わせをしていき、最後に第4・第6・俺達第19班の打ち合わせ。
「正門側から王城前大通りに入る“入り口”はぁ、第6班ね。王城に最も近い“最後の砦”はぁ、第19班に任せる。間が第4班な」
隊長は、手持ちの書類に目を落としながら、淡々と読み上げたが……。
すぐにキヨドールが反応した。
「はぁっ!? なぜ俺様の班が中間なんだ! 俺様が“砦”を仕切るべきだろうがっ」
砦、砦と言葉が出ているが、これには訳がある。
この王城前大通りを過ぎれば、王城にしか続かない『一本道』に入るが、その道は途中でロータリーのように一方通行の登城・下城ルートに分かれる。
今日のようにパーティーが催されたり、宮廷行事が行われる際は、開始時間と終了時間に合わせて両方のルートとも登城だけ・下城だけと限定するわけだ。
それで、二本になったルートのうち、正規のルートを高位の貴族、臨時に設定したルートを下位貴族の通行に振り分ける指示を出すのが“最後の砦”の役割。
“入り口”でも各貴族家の馬車の紋章や徽章旗を早期に見分けて、あらかじめ走行させる車線を分ける手筈だけど、それが正しいか判断して最終的な振り分けをする大事な場所なのだ。
「――平民なんかに出来るはずあるまい! それに、俺様が平民の指図を受けるなど……どういうつもりだっ?! 隊長とはいえ許さぬぞ!」
相変わらずの言い様だな……。隊長に掴みかからん勢いだ。
第6班の班長と俺でキヨドールの腕を取って引き止める。
それにしても嫌味な副隊長は、隊長を庇うそぶりも見せない。キヨドールと同じ貴族至上主義なんだろうな……。
「離せこの平民がっ! 第6班長! 貴様も平民に肩入れするつもりか? 隊長も!」
キヨドールが腕を振り解こうと、身を捩りながら俺達に毒突く。
いや、普通の衛視として上官に危害が及ばないようにするのは普通だろ。ガキじゃあるまいし……。
そのキヨドールに隊長が近づき、片手をポンと奴の肩に添えながら声をかける。
「あのねぇ……こういう大事なことを俺が勝手に決められると思うぅ? この大通りから先を守る騎士隊と相談して、入城作業が円滑に進むように練るでしょ? 国の威信を守る為に」
肩に添えた手に徐々に力が入って行く。
キヨドールが顔を顰め、どんどん腰が折れていき、姿勢が低くなる。
「国の威信って事は、国王陛下の威信だねぇ。それをお前は、自分がどうこうで変更させられると思ってんの?」
俺達が腕を離しても隊長は力を掛け続け、遂にキヨドールの膝も折れて地面に着いた。
自分より体格のいい人間を片手で跪かせるとは……隊長凄い。
尚も力を抜かない隊長に、キヨドールが「わ、わかった!」と音を上げる。
「そう? 良かった良かった。じゃあ頼むね」
ポンポンと肩を叩いて庁舎に戻って行った。
悔しさに奥歯を噛み締めるキヨドールは物凄い形相だった。
気まずさが残りつつも、各班が所定の位置に就く。
大丈夫か? 先が思いやられるよ……。
王宮の開場時刻に合わせ、下位貴族を中心に登城の馬車が増えてきた。
貴族同士の会合を持ったり、旧交を温めに早めに王宮に入る高位貴族もいる為、気を抜けないが概ね順調に事が進んでいる。
だが――
時刻も深まり、招待客の登城がピークを迎える辺りで騒ぎが起きた。
キヨドールの野郎がやりやがった!
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