9 / 16
9.隊長との付き合い
しおりを挟む隊長の恫喝とも取れる“囁き”後に、キヨドールは黙り込んでそれ以上異議は唱えなかった。
おかげですんなり打ち合わせを終えられ、解散となる。
「あ~。マーティン君は残ってなぁ」
うげぇ……。
隊長室に二人きりになり、隊長から応接セットを指され向かい合って座る。
「な、なんでしょう……?」
「なんでしょうなんて、マーティンもつれないなぁ。僕が班長だった時代に同じ班にいた仲じゃないかぁ」
そう。俺はかつて隊長の班にいたのだ。
彼は、エドガー・アビエース。
俺が入ったばかりの頃から、彼が副隊長に昇進するまでの十数年間、一貫して彼の班にいた。
容貌は今よりもだらしなく、ボサボサ髪を肩まで伸ばし、無精髭もなかなか剃り落とさない人だったな。
当時は18班までしかなく、平民の班長なんていなかった。
実は今でも18班しかないのだけど、彼が隊長に昇進し、その際に俺が平民出身初の班長になるに当たり『第18班』を欠番とし、ひとつ飛ばした『第19班』を新設して貴族達の不満を抑えたそうだ。
で、エドガー班は、更新の度に第8~第10辺りの序列を行き来していた。
俺は間近で見ていたから分かるけど、彼は狙ってその序列になるように調整していたのだ。目立たぬように、突出しないように。
面倒くさいから、だそうだ。
「……じゃあ聞きますけど、どうして俺――第19班を担当なんかに? 周りが騒ぐでしょうに……」
俺の方から尋ねると、エドガー隊長はソファに背を投げ出し、背もたれに片肘かけて頬杖をついて応える。
「さっきカンタスの勘違い坊主に言ったこと、聞こえてただろぉ?」
「……事故が少ない、から?」
「そぉう! それでいて目立ってないから! 上手くやってるじゃないのぉ」
俺もエドガー“班長”の薫陶を受けて、日頃から目立たない事を念頭に置いている。
俺なんか特に平民だし、出れば潰され、失敗を犯せば叩き潰され……どっちにしろ潰されてしまう。
大きな失敗は犯さないし事故も起こさせないけど、本来報告義務のないような現場解決した事案を、「多少揉めてしまったので、後で申し立てが来るかもしれない」と報告をするのだ。
そして隊長や副隊長から小言をくらえば、周りの隊員は俺らを取るに足らない班だと認識してくれる。
まあ、副隊長は嫌味が酷いしキヨドールみたいな奴もいるけどな……。
「残念ながら1~3班を引っ張られてしまったから、君に王城前の難所を切り盛りして欲しいんだ」
うげぇ……。
面倒だけど……新人で平民の俺を、衛視としてやっていけるように鍛えてくれたし――
ミミィさんのご飯にほとんど消えるけど、班長に引き上げてくれて手当てで給料も多くなった恩もあるし――
「……分かりました」
俺が返事をすると、隊長はパンと手を合わせて身を乗り出して大袈裟に喜ぶ。
「良かったぁ! いや実はさ、その日に何か起こりそうなんだよねぇ~?」
「え……?」
「君と、君の班員の“力”が必要になるかもしれないから、よろしくねぇ~!」
「は? ええっ! な、何があるんですかっ?」
「さあ? 知らない。僕の勘だよ。いやぁ、備えが出来て良かったぁ」
「えっ!? え?」
訳が分からず混乱していると、夜も更けてきたからと半ば追い出されるように隊長室から出されてしまった……。
遅くなったことで食堂で晩飯を食べ損ね、ミミィさんのご飯の肉屋さんは閉店したところを無理に頼みこんで割増料金で肉を買うはめになり、ミミィさんはご機嫌斜めだし……散々な目にあった。
そして日が流れ、国王陛下主催パーティー当日を迎える。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる