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第2章 とんでもない異変!編

40.銀狼様の片割れって?

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 わたしの頭よりも大きい爪が、爪の垢?
 わたしもみんなも目を白黒させていると、銀狼様は前脚の爪で器用に頬を掻きながら続ける。

「それは、アタイがガル坊の防御の鍛練に付き合ってやった時に欠けた爪さ。国一番の硬い盾だって言うから思いっきり引っ叩いたら、先っちょが欠けちまったのさ……盾は切り裂いてやったけどなっ! ガル坊も目を白黒させてたっけな」

 盾を切り裂くって……

「アタイの爪の先の先、ほんの小さな爪だから、垢っちゃあ垢だろ? ……そんなモンでも、ガル坊は大事に取っておいてくれたんだなぁ。嬉しいじゃねえか」

 銀狼様は自分のだった爪を見ながら、しみじみとガルフ様の事を思い浮かべているようだった。
 銀狼様が気にも留めないような物を、ガルフ様は大事に保管していらしたのね……。それに欠け目を綺麗に研いで、全体を磨き上げていらっしゃるのは、銀狼様の事をお想いになっていた証拠。両想いでらしたのね……

「でも、これが爪の先の先だとすると……ねえ?」

 わたしはエドと顔を合わせ、そして手元に目を落とす。
 手元の爪と今の銀狼様を見比べる。どう見ても尺の辻褄が合わないような?
 銀狼様は「フンッ」と鼻を鳴らし――

「アタイは大きさを自在にって言ったろ?」

 さっきもそう言ってらしたけれど、違和感があるので聞いてみる。

「あの、銀狼様? 『変えられた』とは、どういうことですか?」
「ん? そうさねぇ……この屋敷はデカ過ぎだけど、男爵に成りたてん頃のガル坊の屋敷くらいにはなれたさ」

 貴族の屋敷と言っても、領地の規模や財力によって様々だけれど、ガルフ様の場合は平民から騎士・騎士爵と身分を高めて、貴族位の男爵となったはず。
 今のカークランド公爵家王都邸よりは大分小さいはず。それでも総二階建てで十~二十室程度はあったはずだから……
 銀狼様はそこまで大きくなれたの!?

「今は起きたまんまの大きさだけどさぁ、馬くらいの大きさにはなれると思うぜ?」

「……その制限が付いたのと、わたしに銀狼様の半身が入って……銀狼様の片割れだということと関係があるのですか? ――それに、片割れってどういうことですか?」

 わたしの矢継ぎ早の質問に、銀狼様は「ふむ」と頷き、答える前にようやく温くなった紅茶で喉を潤した。

「どうも何も、オリヴィア。アンタはあのままだと珠月しゅげつに命の全てを吸われちまって、早晩死ぬところだったんだ。それをガル坊の名に掛けて助けるには、アタイの身を……生命力を与えるしか無かったってだけさ」

 そこまで酷い状態だったんだ……わたし……

「でも、それ――命を永らえたことと、わたしが“丈夫”なことは結びつくのですか?」
「あるに決まってんだろぉ? アンタにアタイの半身が入るってことは、『神が創った動物』すなわち神獣の力が宿ったってことだ。つまり人間よりも高みに昇ったってことさ」
「えっ……」
「自覚は無いかい? たとえば痛みに耐性があるとか、回復が早いとかさぁ?」

 耐性? 回復?
 ――そう言えば! 寝台の脚に足の小指をぶつけた時、瞬間の痛みに悶えているうちに何ともなくなったり、扉に手の指を挟まれた時も結構早く痛みが引いた気が……
 だけど、それは比較対象が無いから……でも、アンは「もう痛みが引いたのですか?」って驚いていたしお医者様も骨にひびすら入ってないって怪訝な顔をしていたわね?

「……それがどういう痛みかはアタイは知らないけど、怪我も少ないんじゃねえか?」
「はい……したことありません……」

 わたしがそういう反応をしていると、お父様もお母様も「確かにオリヴィアはお転婆しても怪我を負ったことは無かったような」と、過去を振り返る。

 エドまで――

「そう言えば、幼い時に『きのう、お庭の木から落ちちゃったの』とか『階段で転んじゃって、ゴロゴロ落ちちゃったー』なんて元気に笑ってたことが結構あった!」

 ……外堀から裏付けが取れていくわね。
 本当に丈夫だったってことよね?

「――でもっ! 『高み』って?」
「いいかオリヴィア? ここが人間達の暮らすアーカスだとする。人間はテーブルと同じトコにいる」

 銀狼様が、応接セットのローテーブルをパシパシと叩く。
 そして、出来るだけ高い位置に右前脚を出して「ここが神」、続けてテーブルと右前脚の中間あたりに左前脚を出して「ここがアタイら神獣」と示す。
 器用ね……
 更に銀狼様は……もっと器用に自分の尻尾を動かしてテーブルと左前脚の間をブンブンと行ったり来たりさせる。

「アタイの片割れたるオリヴィアはここだ。な? もう人間じゃねえだろ?」

 ろ、論理は強引だけれど……言わんとしていることは何となく理解できた。
 でもっ! 人間じゃないって言われるのはなんか嫌っ!

「わたしは人間ですっ! 家族とおんなじ人間です! エドとおんなじ……」

 エドになんと思われるか……「人間じゃないオリヴィアとは結婚できない」って、破談も覚悟しなきゃ……

 恐る恐るエドの方を向く。
 以外にもエドは衝撃を受けているでもなく、引いているでもなく、平然としていた。
 そして、不意に手を打って、ひとり何かを納得したような表情になった。

「エド、どうしたの?」
「うん? 銀狼様にお目にかかってから、ずっと引っ掛かっていたんだ。どこかで見たことがあると思ってね……」
「そ、それで?」
「気付いたんだ。オリヴィーが変身するワンちゃんにそっくりなんだよ! 銀狼様は」

 わたしと銀狼様が?!

 ―――い、犬だとぉ~?
「アタイとオリヴィアが似てんのは当然だけどさ……アタイと犬とを一緒にすんなっ!」

 銀狼様ったら……
 あれ? でも、お父様が調べて『冷涼な山岳地帯で牧羊犬として活躍するような犬』って……?
 お父様に目を向ける。
 あ~っ! 目を逸らしたぁ! 知らんぷりしたぁ!

 ――あ、これで思い出した。
 エドとわたし……変身する原因が違うのに、どうして“お酒”で“同じ時間”変身したのかしら?
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