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第2章 とんでもない異変!編
27.六年も黙っていてごめんなさい
しおりを挟むキアオラ翁による呪術解除の儀式を終えて、わたしとエドで乾杯をしたのはいいけれど――
エドは何ごともなかったのに、私はワンちゃんになってしまった!
ワンちゃんになってしまった私は、人間の姿に戻ると、すぐにエド達と一緒にキアオラ翁の小屋に掛け込み、呑気に本の手入れをしていた翁を問い詰める。
『もしや……オリヴィア様は元から(呪術の)対象者ではなかったのでは?』
聞くところによると、確かに、エドに呪術を掛けた時は、あの小屋の地下でお酒の浸み込んだ地面を使っていたけれども、その小屋に移される以前――三年以上前――に呪術行使した時は、木製の床でお酒の浸み込みも無かったそう。
私とエドは、同じ“症状”なのに……
そして――
わたしが翁に『六年前』という具体的な数字を挙げて、彼の記憶を喚起しようとしたけれども、逆に六年も前では無かったと言われる始末。
拘禁生活が長く、時間や日付の感覚は狂っていたでしょうけど、呪術を掛けた当人にそう言われては……
時期については詳しく確認しなければならないし、何よりも、わたしの変身問題については、確実に振り出しに戻ってしまったわ!
わたしは衝撃は受けているけれど、落ち込んでいる場合ではないし、これからどうすべきか考えを巡らせる。
腕組みをし、時には肘掛けで頬杖をついて思案していると、小部屋の壁にもたれて話を聞いていたエドがポツリ。
「六年……って?」
いや~ん!
聞こえてたみたいー!
そ、そうよね……私のすぐそばにいるんですものね……
エドが自身の変身に気付いたのが大体三か月前、私の場合は六年以上前。既にエドと婚約が結ばれていた。
これまでに何度も言う機会はあったけれど、結局言わず終いだったのよね……
この期に及んで、しらを切ってはいられないわ!
わたしはキアオラ翁の対面のソファを立ち、ソファの斜め後ろに立っているエドに向き直る。
「あのね? エド」
「オリヴィー?」
「……エド、今まで黙っていてごめんなさい。わたしがワンちゃんに変身するようになったのは……六年も前からなの」
「そ、そんなに?!」
エドが、もたれ掛かっていた壁から跳ねるように前のめりになって驚く。
「隠すつもりは無かったの。言い出す機会が無かっただけで……」
いいえ、やっぱり機会はいくらでもあった。言う勇気が無かったのよ……わたしもお父様も。
エドは前のめりになった体勢のまま、目にも驚きの色が出ている。
「本当にごめんなさい! 貴方に隠し事をして……信頼を裏切るような行いをしてしまって」
幼少時、王太子妃教育を受けていた時に『王妃にお成りあそばせば必要なくなる作法で、それまでにも使う事の無い方がよろしい作法ですが……』と、教授された謝罪の作法通りに、右手を鳩尾に左手を腰に添わせてカーテシーよりも深く膝を折り上体を屈めて謝罪の意を表す。
「申し訳ございませんでした、エドワード殿下」
「オリヴィー……」
「殿下からお叱りを受けても仕方の無いことです」
最悪この婚約も……
少しずつ心臓の鼓動が速くなり、呼吸も浅く早くなっていく。
「オリヴィー」
「――そうだ、臣下の身でありながら真実を伏せていたことを、陛下にもお詫び申し上げなければ!」
私の所為でお父様に、カークランド公爵家に迷惑をかけてしまって……
「オリヴィー!」
「アン? 急いでお城に行くじゅ――」
「――オリヴィーッ!!」
エドがこれまで聞いたことの無いような大きな声でわたしを呼び、わたしの前に進み出てわたしを起き上がらせて、わたしの肩をガッシリと掴み、わたしの目を見据える。
「エド?」
そして、今度は優しい声色で囁くように――
「オリヴィー、落ち着いて。一人で背負いこまないで。ほら、オリヴィーの目の前には僕がいるよ。僕は怒っていないし、君には僕がついているよ。……大丈夫、落ち着いて。ゆっくり息を吸って、そう。吐いて」
エドの包み込むような囁きで、わたしに少しずつ呼吸が深くなって冷静さが戻ってくる。
エドが掴んでくれて、わたしの肩が震えていたのが分かった。両手もまだ小刻みに震えている。
「オリヴィー? 僕は怒っていないよ? 驚いただけだよ」
エドは目を合わせてくれたまま、右手でわたしの左肩を擦ってくれる。
それはとても温く、とても優しく、わたしを安らげてくれる。
「エド……ありがとう」
思わずエドの胸に飛び込んでしまった。
「陛下にも一緒にお伝えしよう。僕は怒っていないし、もしもオリヴィーやカークランド卿に処分があるのなら、僕も一緒に受けるから。ね?」
「はい」
エドの胸に顔を埋め、エドの大きな背中に手を回し、ギュウっと抱き締める。
彼もわたしの頭に左手を添え、右手でわたしの背中をポンポンと拍子をとるように軽く打ってくれた。
とっても幸せな時間……二人きりの世界……
「おっほん! お二人さんや」
――じゃなかった!
わたしだけではなくエドも“二人だけの世界”に入っていたようで、ひしと抱き合う腕をババッと離して声の主を見る。でも、エドはわたしの腰に手をまわして、わたしを引き寄せてくれる。
キアオラさんが、ソファに座ったまま鼻先をポリポリ掻いて、気まずそうにしていた。
「邪魔してすまんのぉ……」
「そ、そんなこと無いわ! ね? エド?」
「そうです。こちらこそあなたの前で申し訳ない」
「お恥ずかしい姿を見せて、ごめんなさいね」
そこにいたことを忘れてたとは言えない……
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