結婚を控えた公爵令嬢は、お伽噺の“救世の神獣”と一心同体!? ~王太子殿下、わたしが人間じゃなくても婚約を続けてくださいますか?~

柳生潤兵衛

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第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編

20.術を解こうか?

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 キアオラ翁からの聴取はわたしが対面でする事になったけれど、安全面を考慮して、エドやシドがいない時には行わないように言われている。

 エドは未だに王城へは赴かずにいるけれど、王太子宮殿で非接触で済ませられる公務をこなしてからコチラに来るので、翁からの聴取は基本的には午後から。

 午前中はブッチのお散歩と遊び相手を務める。この子が家に来て以来、毎日のお散歩もわたしが担当しているの。
 使用人も大勢いるけれど、ブッチはわたしの元を離れないので、わたしもアンと運動がてらお散歩。
 捜索ではないので我が家の敷地内で済ませるのだけれど、敷地は広いので庭園をぐるりと周るだけでもひと苦労なの。わたしの方が息切れしてしまうわ……
 いっその事、わたしも犬の姿になった方が楽な気すらする。……やらないけどね。

 午後になってエドが来てから最初にすることは、彼とわたしのお茶会。
 せっかくエドと会えるんですもの、二人の時間は作りたいわ!
 もちろん、その後の聴取の打ち合わせも兼ねてですけれど……

「さて、どうやって本を調べようか」

 今日は日差しが強いので、ガゼボでのお茶会。

「そうねぇー。キアオラさんは本を抱えて手放さないし……昨日はようやく膝の上に置いたぐらいですからね」
易々やすやすとは貸してくれないだろうね」

 翁の持つ本を思い浮かべる。
 それはわたしの胴体なんかすっぽり隠れるほど大きくて、老齢の彼では持ち運ぶだけでも苦労しそうなほど。
 装丁は黒くくすんでいて、表紙や背表紙には何かが書かれているのかも分からない。それに、表紙側には真っ黒になった金具のような突起があり、ベルトが通っていた。だから、てっきり鍵付きだと思っていたのよね……
 そんな開くことができない本を、なぜ大事に持っているの?


「あの本、真っ黒だけれど……元から黒かったと思う?」
「え? どういうこと?」
「もし、王室の記録に書かれていた“本”と、翁が持っている本が同じだった場合――」
「うん」
「六十年以上あまり良くない保管状態だったはず……。しかも、最低でもここ十年程は翁が手放さなかったから、汚れていると思うの」

 汚れを取り除ければ、もしかしたら表紙に何かが描かれているかもしれない。
 ということで今日の目標は、『キアオラ翁に本の手入れを受け入れてもらう』ことに設定するわ。


「キアオラさん、こんにちは」
「おお、お嬢様」

 アンにお茶を用意してもらい、ソファで寛ぎながらお話をする。
 天気の話題や体調の話、他愛のない世間話を経て、昨日の続きを聞く。

「その御本の事だけれど……」

 そう切り出すと、翁は膝に置いた本に乗せた手に力が入った。警戒された?

「何の本か分からないし開くこともできないのに、大事に持ち続けているのはどうして?」
「それは……ワシの唯一の財産だからだ」
「財産?」
「そうだ。ワシは幼い頃に家族――デュルケーム一家を失くし、何もかもを失ったらしいが、この本だけはワシの物らしい」

 やっぱり赤ん坊だった翁を守った本に違いない! 
 その本が彼の財産だと伝えたのは? バクスター侯爵? いや、まだ突っ込んで聞かない方がいいわね。

「そうですか……それは大事にしないといけませんね」
「う、うむ」
「十年以上囚われていた間にお手入れとかは?」
「させてもらえなんだ……。それ以前は偶にやっておったが……」
「まあ! そうでしたのね? それは大変! すぐにお手入れの道具を用意させましょう」
「い、いいのか?」
「もちろんです」

 なんと自然な流れ! 流石わたし! 目標達成ね。

 エドとシドを通して革の手入れ道具を手配してもらい、翁が手入れするところを見ながらお話を続ける。
 キアオラはわたしには目もくれずに、オイルで浮かせた汚れをふき取ったり、馬の毛で出来たブラシを優しく動かしている。
 汚れのしつこさから、一日二日では終わらないだろうけれど、唯一の財産を綺麗にできるとあって、翁は嬉しそうだ。

「ところで、その本を使っていないのだとしたら……呪術はどうやって勉強していたのです?」

 翁の機嫌の良さに便乗して、軽い感じで聞いてみる。

「んー? それは、口伝が主じゃな。ごく稀に狩猟民族が記した雑記帳や備忘録のような物も見られることはあったが、それも昔の話じゃ」
「それでよく呪術を使えるようになりましたね?」
「そうじゃなー。ワシの場合、考えが浮かんでくるというか……もちろん経験の積み重ねはあるぞ? 何度も試しては失敗しての繰り返しを経て、やっと上手くいったりするのじゃ」

 話してくれる! このまま何気なく続けるわよ。何気なく!

「へ、へぇー? な、何回くらい成功したのぉ?」

 ぎこちないっ!
 向こうのスペースにいるエドがずっこけた気がする!

「二度かのぉ。じゃが、他人から強制されてやらされたから不本意じゃった」
「いっ! いつごろぉ~?」

 ダメだ……緊張して声が上ずっちゃう!

「だいぶ以前と……この一年以内かのぉ? 長いこと閉じ込められておって、日にちの感覚なんぞとうに無くなっておったから、分からん」

 いいえ。わたしとエドに当てはまっている気がする!
 それだと、他に被害者がいないことも意味する。その点は良かったわ。

 次に何を聞こうか考えを巡らせていると、翁が疲れた表情であくびをした。
 外も暗くなってきている。

「もうこんな時間なのね……。万全の体調じゃないのに、長々とごめんなさい。続きは明日にしましょう」

 後ろ髪を引かれる思いでキアオラ翁に別れを告げて帰ろうとすると――

「そうじゃ! もし呪術に掛けられた人間が健在ならば、解こうか?」
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