上 下
17 / 56
第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編

17.お話をしましょう? キアオラさん

しおりを挟む
 
 ヒュウっと変身が解けていく。
 ワンちゃんに見られながらっ!

 裸のわたしがワンちゃんを見ると……

(えー! なに? これ、なに?)

 といった感じで、目をキラキラさせながら驚いているのが分かる。
 尻尾のフリフリも強くなっちゃってる!

「こらー! ズレる! 布がはだけちゃうから、尻尾は振らないで!」

 布から頭を出して、強めに押さえながらドアの方を見ると――
 エドがわたしの方に振り向きたそうにウズウズしているのが見える。
 その間も、ワンちゃんは尻尾をブルンブルン振っている! ズレちゃってるぅ!

「エド! ゼッタイ振り返ってはダメよ?」
「わ、分かっているよ」

「あ! あと、このワンちゃんが遊びたがっているから、連れて帰る時に遊びながら帰るわね?」
「えっ!? ……」

 ワンちゃんの尻尾のせいでほぼほぼはだけてしまっている布に潜って、急いでお酒を被る。

 ヒュウ! フワー……

(ふうー)
(お姉さん! 今の遊びはなあに? ボクもやりたい!)

 違うのよ、これは遊びじゃないのよ……


 兵士の治療や、捕らえた男の応急処置を終えて、隠れ家まで帰還することに。

 街道までは、歩いて行かなければならないのだけれど――

(あはは! 待てぇー!)
(はやい速いっ! もうちょっとゆっくり来てー!)
(お姉ちゃん! 早く逃げないと追いついちゃうよ~?)
(きゃー!)

 わたしは『追いかけっこ』と称して、ワンちゃんから散々追いかけ回されたわ……

 本当は、布を玉みたいに丸めた物や動物の骨なんかを、無傷なエドやシドに投げてもらって、ワンちゃんが取ってくる遊びをさせたかった。
 でも、体力が衰え過ぎていたキアオラを歩かせるわけにはいかず、脚を壊したテーブルの天板に乗せて運ぶのに二人が割かれたので仕方ない……

 負傷をおして歩いている兵士達は、王太子にその様なことをさせて恐縮しきりだったけれど、過酷な環境下にいて強烈な臭いを放っているお爺さんを、直接おぶるよりはマシよね……

 だから、ワンちゃんの遊び相手はわたしが一人で務めているの。
 ……持つかしら? わたしの体力。


 何とか街道まで辿り着いて少し待っていると、数台の馬車が到着。
 馬車が来るまでの間もワンちゃんから追いかけ回されていたわたしは、息も絶え絶えに真っ先に客車に乗り込む。

(えー! もっと走らないの~?)
(ぜぇっぜぇっ! も、もう無理ぃー)

 兵士の人が用意してくれたお水……おいしっ! 生き返るぅー。


 隠れ家に着くと、お父様が鬼の形相でわたしのことを待っていた……
 これは怒られるわ……
 トボトボとお父様の元へ。後ろからはワンちゃんも尻尾をフリフリついてくる。

 事情を知らない兵士達がいる手前、お父様は大っぴらには怒らないけれど、首輪が装着されました……わたしだけ!
 アンもお父様の後ろに控えていて、着替えを持って来てくれたようね。

 屋敷に入ると、キアオラはお風呂に入れられることに。
 エドが、ついでにワンちゃんも洗うように指示していた。まあ、ワンちゃんも野性味あふれるニオイがしていたものね……
 ――と思っていたら、わたしまで連れて行かれそうになって、お父様やエドが慌てて止めてくれた。
 アンがクスクス笑っていたのは、しっかり見ていましたからねっ!


 キアオラは、入浴の際も本を手放そうとはせず抵抗したため、湯殿内の手の届くところに本も持ち込むことで納得させたよう。
 お風呂に入れられたキアオラは、身体の様子もくまなく検査された。

 彼は、体力の低下が著しく、事情聴取は後回しにして体力の回復を図ることに。
 そうよね……彼は監禁被害者であり、わたしとエドの問題解決の鍵になる人物ですもの。
 無理をさせて余計体調を崩されたら解決が遠のくものね。

 そう決断される頃には、わたしの変身が解ける時間になり、隠れ家の二階の個室で人間の姿に戻る。
 アンと共に着替えて部屋を出ると、お父様が腕組みしながら立ち塞がって「オリヴィア……」と、目に怒りを湛えていらっしゃる……

 別室で「勝手に無茶な事をしおって!」と、こってりとお叱りを受ける。
 ついでにエドからも小言を頂戴する。

「でも、おかげで犠牲者を出さずにキアオラを確保できた。ありがとう。卿も叱るのはこれくらいにしてあげて下さい」
「殿下……」

 これ以上長く絞られなくてよかった……。助け舟ありがとう、エド。


 ワンちゃんには、エドにお願いして約束通りお肉のご飯をあげると、美味しそうに食べてくれたわ。
 キアオラも、当面の間はこの隠れ家で静養に努めてもらう事になった。

 まだ追跡組の動向が分からないけれど、私達に出来ることは無さそうなので、お父様と一緒に王都に戻る。
 ワンちゃんも連れ帰って、飼う事にしました。

 帰りの車中でエドと相談して、この子の名前を『ブッチ』にする。
 だって、この子ったら尻尾を千切れそうなくらい振るんですもの……

 数日後、追跡班が突き止めた組織のアジトに一斉攻撃が行われたそう。
 捕縛した人員が多かったために、“王家の隠れ家”で拘留・聴取が行われることになった。
 キアオラを一緒にするわけにはいかないので、公爵邸の小屋で預かることに。


 でも……少し体力が回復してきたキアオラ翁から、エドやシドが話を聞こうとしても、頑として口を開かないらしい。
 恐らくこの十年間、組織の男連中から酷い目にあわされ続けてきたのでしょうから、エドやシドのことも怖いのでしょうね。

 という事で、わたしの出番かしら?

 ブッチを連れて、彼のいる小部屋へ。

「お話をしませんか? キアオラさん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...