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第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編
12.初めて聞くシドの声
しおりを挟むエドは確信を得ている。
(エドが言うなら決まりね)
(いや、僕たちは二人で捜索しているんだ。オリヴィーにも確認して欲しい)
わたしは大きいので、小屋には近づけない。だから、大きく回り込むように風下に移動して、草むらに伏せて潜みつつ鼻に神経を集中させる。
目を瞑って視覚情報を遮断し、風が小屋を撫でる音や草を揺らす音も気にならない程に鼻に集中する。
森からのニオイも意識して排除する。
窓やドア・壁の隙間から、筋のような空気の流れに乗って運ばれてくるニオイは、二人? の人間のニオイと一匹の犬のニオイ。
お酒と干し肉らしきニオイ。少し腐った臭いもするわね。
でも……このニオイの中からのキアオラ臭は極薄い。
風がふわっと揺れると、来た!
猛烈なキアオラ臭! 戻しそうになるほどの濃密なニオイ!
目を開き、懸命にニオイの出所を探す。
ニオイを嗅ぎつつ、小屋に目を凝らす……
(低いところから出ているわね……地下?)
(そう! おそらくあの小屋には地下があって、通気口からキアオラのニオイが漏れている)
(エドは通気口の場所も分かったの?)
(うん。気絶するくらいの臭いがしていたよ……)
またあのニオイをモロに嗅いだんだものね……ご愁傷様。
とにかく、エドに続いてわたしも確信を得たわ。
地面に降ろしていたエドとお互いに目を合わせて頷く。
エドの首を咥えたわたしは、音をたてないように、見つからないように、来た方向へ引き返す。
普段の捜索時には、けっして戻る動きはしなかったのだけれど、今回は戻る。
鬱々とした森を引き返していると……
まだ距離の残る遠くの巨木の陰から、シドが現れて、彼も周囲を窺いながら近づいてくる。
シドと目が合った気がするので、頷いてみせる。
勘付いてくれるといいのだけれど……
「殿下、オリヴィア様」
シドが喋った! 初めて声を聞いたわっ!
これまで、エドと話しているらしき姿は見ていたけれど、ついぞ聞く事の無かったシドの声!
アンと、どんな声色なのだろうと盛り上がっていたシドの声!
低いわけではないけれど、落ち着いた良い声ね。
「進展があったのですね?」
普段と違う行動を取ったわたし達の意図を読み取ってくれたのね?
地面に降ろしたエドもわたしも、シドに頷いてみせる。
「このまま“隠れ家”に戻りたいところでしょうが、間もなく時間です」
時間とは、もちろん変身の解ける時間……
シドは、背負っている袋からシーツのような大きな布を三枚取りだすと、一枚を地面に敷いて「オリヴィア様はこちらの上にどうぞ」とエスコートしてくださる。
「ありがとう」と頷いて布の上に進む。
犬だけどね!
エドは男性だから、草むらのまま。少しでもシド達の荷物を軽くする為に、敷物は断わっていた。
そして、もうひとりの護衛から瓶のお酒を二本受け取り、わたし達の足元へ丁寧に置いてくれる。
瓶を手渡した護衛の姿はもう見えなくなった。
「失礼します」
シドがそう言うと、残りの布を開いてわたしとエド、それぞれにふわっと被せる。
この状態で変身が解けるのを待つの。
解けたら、足元のお酒を自分でかけて、また犬に戻る。
けれど、今回はエドか私、先に解けた方がシドに伝える。「見つけた」と……
じっと時を待っていると、わたしの方が先に変身が解けた。
まずは、布に隙間ができて、外から見えていないか確認。
だって、裸よ? 見えていたら恥ずかしいじゃない?
……大丈夫。隙間は無い。
「シド? 聞こえますか?」
……返事がない。聞こえていないのかしら?
「……はい」
良かった! 聞こえているわね。
「この先の小屋に地下があって、そこにキアオラもいるわ」
「……はい」
「では、ワンちゃんになりますね?」
「……はい」
ワンテンポ遅いわね! 返事!
わたしがお酒を浴びていると、今度はエドの変身が解けたようね。
フワッと犬になって布から顔を出すと、エドは布を腰に巻いてシドに話しかけるところだった。
男性っていいわね? 上半身が露わになっても、それほど気になさらないものね……
それにしても、エドはお洋服を着ているとスラッとして見えるけれど……結構胸板が厚いのね。
見ていない振りをして、横目で堪能する。……役得ね!
「シド。オリヴィーが言った通りだ。確実にいる」
「はっ! すぐにキアオラ確保の検討に入ります。殿下、帰路は馬車もこちらに向かわせますので、途中まではご足労願います」
「わかった」
なぁに? シドったらスラスラ話せるじゃないのー!
わたしの時の返事の遅さは何だったの?
そして、エドもワンちゃんに戻って、足場の悪い中わたしの前に来て、ちょこんとお座り。
首を咥えてもらいたくてウズウズしている。
……かわいい!
渋々シドから予備の酒樽を首に着けられて、帰路に。
街道沿いの植物を掻き分けて進んでいると馬車が到着し、シド達が周囲の耳目無しの確認をするのを待ってから乗り込んで“隠れ家”へ帰る。
「お嬢様、殿下。お帰りなさいませ。……シド様も」
“隠れ家”にはカークランド家の馬車も待機しているので、二台に分かれてわたしの家の小屋に向かう。
途中で人間に戻っちゃうから、エドと同じ馬車に乗れないのは残念……
アンもシドと馬車が分かれるので残念そう。
そうだ! シドの声を聞いたことを伝えてあげなくちゃ!
うちの敷地の拠点に帰ったわたし達は、エドが陛下に報告をし、キアオラ翁の確保作戦の立案と実行をお任せする事にして、その日は解散となりました。
わたしがいくら作戦に参加したいと言っても、足手まといになるだけでしょうから、控えましょう……
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