結婚を控えた公爵令嬢は、お伽噺の“救世の神獣”と一心同体!? ~王太子殿下、わたしが人間じゃなくても婚約を続けてくださいますか?~

柳生潤兵衛

文字の大きさ
上 下
9 / 56
第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編

9.実験を経て……

しおりを挟む
 
 あの日、王宮の会議室では実際の捜索に至るまでの工程も、綿密に練られました。
 それ以降はわたしもエドも、人前には極力出ないように念を押されているので、わたしは基本的に屋敷に籠っていたし、彼は非接触で済む公務をこなしていた。

 ただし、捜索に出る為の条件検証の為に、毎日のように例の“王家の隠れ家”に集まって実験をさせら――繰り返した。
 時には泊まり込みでの実験もありましたね……

 まぁ、エドと毎日お会いできたので、ある意味幸せな日々でした。

 実験とは、王国で入手可能な一番強いお酒の瓶一本での変身時間の確定作業。
 一日に可能な変身回数や、回数と時間の相関関係。解除方法の再模索。気象などの周辺条件によって変動するかの調査等々。

 結果は――
 そのお酒の瓶一本で、何回目でも四時間近くは変身したまま。回数制限は特に認められず。
 解除方法も発見に至らず、諸条件下での変化も認められなかった。

 回数制限がないと言っても、ワンちゃんの状態で運動すれば疲れるわけで、結局は一日二~三回、八~十二時間が限度だろうと落ち着いた。
 成犬のわたしと、子犬のエドに時間の大差は無かったけれど、体力差はあって、小さなエドは大変そうだったわ……

 それだけにとどまらず、四時間での大まかな移動可能距離を、実際の犬を使って割り出す試験も重ねられた。
 まあ、散歩や駆け足で検証するくらいでしたけれど。

 それら諸々の結果を纏め、提出した上で、ようやく国王陛下のご裁可が下されました。
 国王陛下も慎重ね……。いいえ、王太子が関わるのだから当然よね。


 そして、ひと月近い検証期間を経て、とうとうこの日がやってきました!


「エド? 今日からキアオラの捜索ですけれど、段取りは大丈夫ですか?」
「ああ、陛下とも入念に打ち合わせたし、僕たちも時間に気をつけつつ頑張ろう」

 これまでは“王家の隠れ家”という、これも王都郊外の大きな山荘風のお家に集まっていましたが、キアオラ捜索は王都中心部から始めることに。
 中心部は、言わば貴族の邸宅が連なる区画なので、カークランド家の屋敷を拠点にする事に。
 敷地にあった小屋を改装して、その中で変身します。

 小屋は殺風景で、入ってすぐの広いスペースと、奥に今回の為にしつらえた小部屋が二つだけ。

 わたしとエドは、小さく区切られた仕立て屋のフィッティングルームのような小部屋に分かれる。
 そこで着用していたドレスを脱いで肌着になり、侍女のアンが手際よくドレスを片付ける。

「よろしいですか? お嬢様。いきますよ?」
「ええ、お願い」

 肌着姿で、低い姿勢になったわたしの背中に、アンが強いお酒をドバドバとかける。
 常温の物をアンが自身の体温で温めていてくれたので、人肌ほどのお酒が背中を伝う。

「何回やっても、やっぱり慣れないものね……」
「申し訳ございません! お嬢様」

 アンは実験の間もわたしにお酒をかける担当だったのだけれど、いつも抵抗感を持っていて、毎度わたしに謝りながらかける。
 こんな事、アンにしか頼めないの。あなたに辛い思いをさせてごめんなさい……

 ドクドクと背中にお酒がかかり続ける。
 お酒がかかり続けている間は変身しないということが分かって、お酒を飲むよりかける方が効率がいいという検証結果に基づいたもの。
 効率って……

 瓶のお酒が全てかかり終わる。

「お嬢様……ご無事で」

 ヒュウ!
 フワッ!

 初めて犬になった時から不思議だったけれど、変身に使われたお酒は、匂い諸共消えて無くなるの。

「お嬢様……」

「ウォン!」
(変身完了!)

 わたしが重い鳴き声で変身完了の合図を送ると、隣の小部屋から「キャンッ」(僕も)と返事。
 アンと小部屋を出て、みんなと合流する。

『みんな』とは、家主のお父様、心配で見に来たお忍び姿の陛下、アン、そしてもうひとり……陛下の手の者の『シド』。偽名でしょうね……

 アンがいるのは当然として、なぜシドなる者がいるか?
 まさか街中を犬だけで歩くわけにはいかないので、散歩を装うのと、護衛も兼ねてのこと。
 アンとシドで、使用人“若夫婦”が主人の犬のお散歩をしているという体裁をとる。
 だから、彼女は普段のメイド服ではなく、シドと一緒に小綺麗な身なりに整えている。

 シドは、わたしやエドよりも年齢が上で、二十二歳のアンと同じかそれ以上に見える。引き締まった身体に中背で、濃いブルーの髪にミントガーネットのような透明感抜群の瞳。しかも物凄いイケメン!
 イケメン過ぎて目立ってしまうからと、長い前髪で目元を隠してもらって、何とか注目は浴びないようにしてもらっている。

「シ、シド様。よろしくお願い致します」

 アンが頬を染めて上目遣いでシドに挨拶すると、彼は黙って頷く。
 彼女ったら、シドのお顔が好みど真ん中なので、舞い上がっちゃってるの!

 アン。あなた……相当な面食いだったのね? でも少し明るい栗毛で、女性の中では長身なアンとシドが並ぶとお似合いなのよねー。
 ま、わたしはエドの方が可愛――かっこいいと思うけれどね!


 さて、それはさておき、次にするのは気の進まない作業なのよねー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...