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第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編
8.僕も行くよ
しおりを挟む「――! 鼻!」
「鼻がどうした?」
「あー、やっぱり!」
わたしの身振り手振りの意味に……エドは気付いて、陛下はあとひと押し、お父様は嫌な予感が的中した、という感じね。
「陛下、鼻です鼻! わたしは何になってしまうのでした?」
「……犬?」
「そうです! ワンちゃんです。犬は鼻が利くと言いますよね?」
「ああ」
「そのお弟子さんに、キアオラという方の私物を貸してもらい、犬になったわたしがその匂いを覚えて探せば、見つかると思うのです!」
忽然と消えたのなら、森の奥に私物だって残っているはず!
彼らだって、師匠の物を勝手に捨てたりしないでしょう。
「甘いぞ、オリヴィア! 十年も経っていれば、匂いなど追えるはずがない!」
「そうだよオリヴィア……」
お父様とお兄様は揃って否定的ね。
というか、やっとしゃべりましたね? お兄様。
「確かにそうですが、やってみなければ分かりませんよ? 失敗してもともと。試す価値はあります!」
「それはそうだが……」
「ほら、商いで成功を収めた方がおっしゃっているではありませんか、『やってみなさい』『見ていてください』の精神ですよ」
…………
白けたのか困惑しているのか、みんな黙り込んでしまいました。
どうしてしまったの?
やってみましょうよ!
この沈黙の中、口を開いてくれたのはエド。
「僕もやる」
エドのこの言葉に、室内にいるみんなが「えっ?」と一斉に目を向ける。
「僕もやる」
「兄上! 何をおっしゃるのです!」
「そ、そうだぞ? エドワード……」
バートン殿下と陛下がビックリして、止めにかかる。
わたしも、もちろん反対!
「エド、ワード様は王太子であらせられます。この国にとっても、わたしにとっても大事なお方です! 殿下を危険に晒すわけにはいきません!」
心の底からの本心をエドにぶつける。
けれど――
「だったら、オリヴィーはその僕の大事なひとだ。僕も愛おしい君を危険に晒すわけにはいかない」
エドぉ……嬉しい。自然と口元がゆるんでしまう~。
いやいや、エドの気持ちは置いておいて、本当に止めなければ。
「ですが……殿下は子犬ですよね?」
可愛いかわいい、ね!
「だけど“猟犬”の、だ。小さくても、牧羊犬の君よりも鼻は利くはずだよ?」
「ですが! ……先日拝見した限りでは、あまりに可愛――幼かったので、体力は無いのでは?」
「そうだぞ? エドワード。気持ちは分かるがやめなさい」
「そうです。王太子殿下に、もしものことがあれば……」
エドは、陛下の諭す言葉や父の諫言に――
「いざとなれば、この国にはバートンがいる」
と、バートン殿下の背に手を当てる。
「兄上! その様なことをおっしゃらないでください!」
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今のバートン殿下の言葉も、心の奥底からの本音です。
それを分かっているエドは、弟を安心させるように続ける。
「万が一の話さ。実際に動く段には、きちんと陛下の指導・協力の元で綿密に計画を立てて動くさ」
「兄上……」
エドの言葉に、表情に、彼も陛下も渋々引きさがります。
子や兄を心配し、それを分かりつつ自分の意思を通そうとする親子・兄弟の愛、いいわ~。
「――いやいや、お三方! 解決しておりませんよ? エドワード様、貴方も一緒って……どうやってですか?」
王家の愛に流されそうになっていたけれど、ハッと思い直して尋ねる。
「オリヴィー。僕たちはパーティーの日に一度やっているじゃないか」
やっているって……咥えるの?
エドに目で問えば、彼も頬笑みを浮かべて頷く。
「あれは、結構安定感があったし、なにより安らげていたんだ」
わたしは必死でしたけど? あの時!
私は必死でしたと目に力を込めて訴えかけるわたしを余所に、エドは自身の案を陛下と父に披瀝する。
「オリヴィーが機動力を活かして、僕が鼻を活かす。オリヴィーが大きいとはいえ、人間が隠れるよりも何倍も目立たないはずだし、僕と彼女の間で会話もできるから、二人で力を合わせれば必ずや成果を挙げることができるはずです!」
エドの提案に、私以外の男連中は絆されてしまったようです……
詳細を詰める男連中の熱が高まり身を寄せ合って話をする姿を、わたしは席に着いてすっかり温くなった紅茶を頂きつつ見守るのでした。
「……はあ」
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