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第21話 王太子とベルントの対話
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マクシミリアンの手招きに、エミリアは路地の奥へ向かう。
早く辿りつきたいという気持ちと実際の足の運びが釣り合わず、もつれそうになりながら駆け寄る。
「で、殿下! ご、ご無事で良かったです」
息切れ混じりに話すエミリアに、マクシミリアンは優しく微笑む。
「ありがとう。君の情報とメモのおかげで、最小限の被害で収める事ができたよ」
「で、でも……セイン様がお怪我を! それに、ベルント様のお命も……」
(『ベルントを生け捕りたい』という殿下の望みが叶わなかった……)と、浮かない表情のエミリアに、マクシミリアンは落ち着いた口調で告げる。
「あいつは生きているよ」
「えっ? え?」
エミリアは彼の言葉の意味が飲み込めないでいる。
「ベルントは生きているよ」
◆◆◆セインの剣が元締めの喉元を突き刺した後
「ゴフッ!」
元締めの身体からは力が抜けて、ベルントからズルズルとずり落ちていく。
カラッカラン!
セインは剣を元締めの首元から抜き地面に転がすと、自分もドサッと地面に尻をつき手足を広げた。
「はぁっはぁっ! へ、へへ! 勝ったぜ? はぁっはぁっ」
マクシミリアンの方に首をひねり、誇るセインに、「ああ、見事だ」と彼は応じた。
セインは首を戻すと、今度はベルントに話しかける。
「今なら俺を殺れるぜ? そのあと逃げ切れるとは思えねぇが」
「ふふっ! 私は武器を持っていませんよ。それに……コイツの首ではなく心臓を刺せば、コイツごと私も始末できたでしょうに?」
「ハッ! 腕に防具を着けてるような奴が、心臓を守ってねえわきゃ無えだろ」
「……それもそうですね」
ベルントは軽く笑みを浮かべ、覚悟を決めるように息を深く吐く。
「さあ、私も覚悟はできています。殿下、セイン、どちらでも構いません。どうぞ私の首をお討ちください」
マクシミリアンが抜剣してベルントに向かっていく。
ベルントも前に出る。
「何か言い残すことはあるか?」
「では……サンディーに『すまない』と」
「……わかった」
すると、いつの間にか立ち上がっていたセインが、ベルントの背後から首に腕を回し、締め付けた。
「ヴッ! うう……」
「後で話を聞かせてもらうよ。ベルント」
マクシミリアンの言葉を聞き、ベルントは気絶した。
◆◆◆
「――という事で、元締めの血を塗って、ベルントも死んだように見せかけたのさ」
「そうだったのですね? では病院に?」
セインは、傷の手当ての為に病院へ運ばれるが、ベルントは違うらしい。
「ベルントは警備隊に変装した皇子の手の者に頼んで、別の場所に運んでもらっているよ」
そう言うとマクシミリアンは、「そこには君にも来てもらいたいんだ。いいかな?」と聞く。
エミリアは戸惑ったが、(深夜の宿での密談を証言するのかな?)と考え、承諾した。
エミリアとマクシミリアンが来たのは、学舎の敷地内にある建物。
校舎や研究棟が並ぶ区画を抜けて、森に囲まれた古い屋敷。
外には屈強な男達が見張りに立ち、侵入者がないか目を光らせている。
エミリアの肩にはルノワが腹ばいに寝そべって、手足をだらんと垂らしている。
(ルノワったら……よく落ちないわね)
ルノワは声の代わりに(フワ~)と、あくびで答える。
建物内は外観とは違い手入れされていた。
「ここは、帝国の皇族が学舎に在籍している時の警備基地だそうだよ」
「そうなのですね? 皆さんの目が恐いです……」
「ははっ! この人達は皇族だけを護るのが仕事だからね。他国の王子だろうが、女性だろうが、皇族に危害を加えないか睨みを効かせているのさ」
エミリア達は地下に案内された。
鉄製の扉で、壁も床も石組み。細い採光窓が一つしかない殺風景な暗い部屋。
辛うじて椅子が数脚用意されているのが見える。
「牢屋みたいですね……暗いです」
「牢だろうね。今、蝋燭を灯してもらうから待ってて」
明かりの灯った部屋の壁際には、麻袋を被せられた男が椅子に縛り付けられて座っている。
マクシミリアンが麻袋を取り払うと、ベルントだった。
布で目隠しと猿ぐつわをされているが、落ち着いていて暴れるそぶりも無い。
「意識がありますね?」
「気絶させたままだと、命の危険があるからね。ここに運ぶ時に起こしておいて貰ったんだよ」
マクシミリアンが、ベルントの目隠しと猿ぐつわを取りながら話す。
彼を縛っていたロープも解いた。
明るさに目の慣れたベルントが口を開く。
「ここは? それに……エミリア嬢まで」
「それについては順を追って話そう。まずはこちらの聞く事に答えてくれ」
「わかりました」
マクシミリアンは、扉を閉じてもらい、ベルントの正面に椅子を移して座った。
これで室内には三人だけになった。
エミリアは(お二人の邪魔にならないように)と、二人が見える離れた場所に座る。
「サンデリーヌ嬢は人質に取られているのか?」
マクシミリアンの唐突な質問に、ベルントが目を見開いて驚いた。
「な、なぜそれを?」
「人質に取られているのだな?」
「……はい」
「お前の父、ワグニス財務卿に、だな?」
「……はい。ですが、なぜご存知なのですか?」
マクシミリアンは、エミリアが宿場町での深夜の密会を目撃し、それと会話の内容をマクシミリアンに伝えた事。
そして、彼も短期間だが調査した結果が『この数か月間、サンデリーヌの目撃情報なし』で、その疑いが濃厚と判断した事を理由に挙げた。
「それで脅されていたのか? なぜ私に相談しなかった?」
「父は狡猾な人間です。――」
ベルントは、父親の黒い噂は聞き及んでいて、自分でも調査したが証拠は掴めなかった事。
けれども、他の貴族よりも桁外れに金回りも良く、野心的な発言や王家に対する不敬な発言も多々あったので父に対する不信が募った事。
そして、国王が病がちになると、今度は王国を陰から支配すると言いはじめ、ベルントにもその片棒を担がせようとしてきた事。
ベルントは淡々と話していく。
「私は反抗し諫めもしたのですが、父は聞き入れず、遂にはサンディーを人質にとって脅してきました」
「相談してくれれば力になれたかもしれないのに……」
「どこに囚われているかも分からず、とにかく彼女の身の安全を確保したくて……。幼き頃より仕える、でん――あなたを裏切ってしまって申し訳ございません」
マクシミリアンは、深く息を吐いた。
「私よりもサンディーを取った……と?」
「申し訳ございませんっ! 私の命を以って償います! ですがっ! どうか……どうかサンディーをお助け下さい」
ベルントが必死に訴える。
「ベルント……。お前とセインは、私と幼い頃から一緒だったな。そんなお前の頼みは聞こう。サンディーの事は任せてくれ」
ベルントの顔に安堵の色が浮かんだ。
だが、マクシミリアンは真剣な表情のまま、ベルントの方に身を乗り出して続ける。
「だからこそ……この襲撃があると知った時は信じられなかった。いや、信じたくなかった! セインもそうだ。『ベルントがそんな事をするはずがない』の一点張りで、今日実際に馬車が襲撃されるまで『あるわけない』『無駄足だ』と、たかを括っていたくらいだ」
「そうだったのですね……。ですが、今日の襲撃への対応は読めませんでした。あれほど用意周到に待たれているとは思いませんでした」
「そうだろう。今日の襲撃を知った時から、綿密に対応策を練ったし、皇子にも協力を頼んだしね」
「皇子殿下に!? ……一体いつお知りになったのですか?」
「十日程前かな?」
「と、十日!?」
ベルントは明らかに狼狽している。
「今日決行すると決めたのは三日前ですよ? 立案したのも五日前です。ありえない!」
「だが、知っていた」
ベルントは、わけが分からないといった様子のままだ。
「ど、どうしてですか?」
「教えてもらったからさ」
「誰から?」
「……エミリア嬢さ」
ベルントがエミリアにバッと視線を移す。マクシミリアンも彼女を見る。
二人を見ていたエミリアは、二人の急な視線に戸惑った。
(えっ?)
ギィーー
そこへ急に鉄扉が開き、聞き慣れない声がした。
「ほぉう? 未来を教える令嬢か……面白いなっ!」
(えっ? どなた?)
早く辿りつきたいという気持ちと実際の足の運びが釣り合わず、もつれそうになりながら駆け寄る。
「で、殿下! ご、ご無事で良かったです」
息切れ混じりに話すエミリアに、マクシミリアンは優しく微笑む。
「ありがとう。君の情報とメモのおかげで、最小限の被害で収める事ができたよ」
「で、でも……セイン様がお怪我を! それに、ベルント様のお命も……」
(『ベルントを生け捕りたい』という殿下の望みが叶わなかった……)と、浮かない表情のエミリアに、マクシミリアンは落ち着いた口調で告げる。
「あいつは生きているよ」
「えっ? え?」
エミリアは彼の言葉の意味が飲み込めないでいる。
「ベルントは生きているよ」
◆◆◆セインの剣が元締めの喉元を突き刺した後
「ゴフッ!」
元締めの身体からは力が抜けて、ベルントからズルズルとずり落ちていく。
カラッカラン!
セインは剣を元締めの首元から抜き地面に転がすと、自分もドサッと地面に尻をつき手足を広げた。
「はぁっはぁっ! へ、へへ! 勝ったぜ? はぁっはぁっ」
マクシミリアンの方に首をひねり、誇るセインに、「ああ、見事だ」と彼は応じた。
セインは首を戻すと、今度はベルントに話しかける。
「今なら俺を殺れるぜ? そのあと逃げ切れるとは思えねぇが」
「ふふっ! 私は武器を持っていませんよ。それに……コイツの首ではなく心臓を刺せば、コイツごと私も始末できたでしょうに?」
「ハッ! 腕に防具を着けてるような奴が、心臓を守ってねえわきゃ無えだろ」
「……それもそうですね」
ベルントは軽く笑みを浮かべ、覚悟を決めるように息を深く吐く。
「さあ、私も覚悟はできています。殿下、セイン、どちらでも構いません。どうぞ私の首をお討ちください」
マクシミリアンが抜剣してベルントに向かっていく。
ベルントも前に出る。
「何か言い残すことはあるか?」
「では……サンディーに『すまない』と」
「……わかった」
すると、いつの間にか立ち上がっていたセインが、ベルントの背後から首に腕を回し、締め付けた。
「ヴッ! うう……」
「後で話を聞かせてもらうよ。ベルント」
マクシミリアンの言葉を聞き、ベルントは気絶した。
◆◆◆
「――という事で、元締めの血を塗って、ベルントも死んだように見せかけたのさ」
「そうだったのですね? では病院に?」
セインは、傷の手当ての為に病院へ運ばれるが、ベルントは違うらしい。
「ベルントは警備隊に変装した皇子の手の者に頼んで、別の場所に運んでもらっているよ」
そう言うとマクシミリアンは、「そこには君にも来てもらいたいんだ。いいかな?」と聞く。
エミリアは戸惑ったが、(深夜の宿での密談を証言するのかな?)と考え、承諾した。
エミリアとマクシミリアンが来たのは、学舎の敷地内にある建物。
校舎や研究棟が並ぶ区画を抜けて、森に囲まれた古い屋敷。
外には屈強な男達が見張りに立ち、侵入者がないか目を光らせている。
エミリアの肩にはルノワが腹ばいに寝そべって、手足をだらんと垂らしている。
(ルノワったら……よく落ちないわね)
ルノワは声の代わりに(フワ~)と、あくびで答える。
建物内は外観とは違い手入れされていた。
「ここは、帝国の皇族が学舎に在籍している時の警備基地だそうだよ」
「そうなのですね? 皆さんの目が恐いです……」
「ははっ! この人達は皇族だけを護るのが仕事だからね。他国の王子だろうが、女性だろうが、皇族に危害を加えないか睨みを効かせているのさ」
エミリア達は地下に案内された。
鉄製の扉で、壁も床も石組み。細い採光窓が一つしかない殺風景な暗い部屋。
辛うじて椅子が数脚用意されているのが見える。
「牢屋みたいですね……暗いです」
「牢だろうね。今、蝋燭を灯してもらうから待ってて」
明かりの灯った部屋の壁際には、麻袋を被せられた男が椅子に縛り付けられて座っている。
マクシミリアンが麻袋を取り払うと、ベルントだった。
布で目隠しと猿ぐつわをされているが、落ち着いていて暴れるそぶりも無い。
「意識がありますね?」
「気絶させたままだと、命の危険があるからね。ここに運ぶ時に起こしておいて貰ったんだよ」
マクシミリアンが、ベルントの目隠しと猿ぐつわを取りながら話す。
彼を縛っていたロープも解いた。
明るさに目の慣れたベルントが口を開く。
「ここは? それに……エミリア嬢まで」
「それについては順を追って話そう。まずはこちらの聞く事に答えてくれ」
「わかりました」
マクシミリアンは、扉を閉じてもらい、ベルントの正面に椅子を移して座った。
これで室内には三人だけになった。
エミリアは(お二人の邪魔にならないように)と、二人が見える離れた場所に座る。
「サンデリーヌ嬢は人質に取られているのか?」
マクシミリアンの唐突な質問に、ベルントが目を見開いて驚いた。
「な、なぜそれを?」
「人質に取られているのだな?」
「……はい」
「お前の父、ワグニス財務卿に、だな?」
「……はい。ですが、なぜご存知なのですか?」
マクシミリアンは、エミリアが宿場町での深夜の密会を目撃し、それと会話の内容をマクシミリアンに伝えた事。
そして、彼も短期間だが調査した結果が『この数か月間、サンデリーヌの目撃情報なし』で、その疑いが濃厚と判断した事を理由に挙げた。
「それで脅されていたのか? なぜ私に相談しなかった?」
「父は狡猾な人間です。――」
ベルントは、父親の黒い噂は聞き及んでいて、自分でも調査したが証拠は掴めなかった事。
けれども、他の貴族よりも桁外れに金回りも良く、野心的な発言や王家に対する不敬な発言も多々あったので父に対する不信が募った事。
そして、国王が病がちになると、今度は王国を陰から支配すると言いはじめ、ベルントにもその片棒を担がせようとしてきた事。
ベルントは淡々と話していく。
「私は反抗し諫めもしたのですが、父は聞き入れず、遂にはサンディーを人質にとって脅してきました」
「相談してくれれば力になれたかもしれないのに……」
「どこに囚われているかも分からず、とにかく彼女の身の安全を確保したくて……。幼き頃より仕える、でん――あなたを裏切ってしまって申し訳ございません」
マクシミリアンは、深く息を吐いた。
「私よりもサンディーを取った……と?」
「申し訳ございませんっ! 私の命を以って償います! ですがっ! どうか……どうかサンディーをお助け下さい」
ベルントが必死に訴える。
「ベルント……。お前とセインは、私と幼い頃から一緒だったな。そんなお前の頼みは聞こう。サンディーの事は任せてくれ」
ベルントの顔に安堵の色が浮かんだ。
だが、マクシミリアンは真剣な表情のまま、ベルントの方に身を乗り出して続ける。
「だからこそ……この襲撃があると知った時は信じられなかった。いや、信じたくなかった! セインもそうだ。『ベルントがそんな事をするはずがない』の一点張りで、今日実際に馬車が襲撃されるまで『あるわけない』『無駄足だ』と、たかを括っていたくらいだ」
「そうだったのですね……。ですが、今日の襲撃への対応は読めませんでした。あれほど用意周到に待たれているとは思いませんでした」
「そうだろう。今日の襲撃を知った時から、綿密に対応策を練ったし、皇子にも協力を頼んだしね」
「皇子殿下に!? ……一体いつお知りになったのですか?」
「十日程前かな?」
「と、十日!?」
ベルントは明らかに狼狽している。
「今日決行すると決めたのは三日前ですよ? 立案したのも五日前です。ありえない!」
「だが、知っていた」
ベルントは、わけが分からないといった様子のままだ。
「ど、どうしてですか?」
「教えてもらったからさ」
「誰から?」
「……エミリア嬢さ」
ベルントがエミリアにバッと視線を移す。マクシミリアンも彼女を見る。
二人を見ていたエミリアは、二人の急な視線に戸惑った。
(えっ?)
ギィーー
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(えっ? どなた?)
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