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第3章 カストポルクス、真の敵。
第118話 決着。-バハムートと聖剣技-
しおりを挟むバケモノの魔石を露出させた! 裂け目に落とした! バケモノはモヤに浮き、少しずつ沈もうとしている。
これは最大のチャンスッ! 逃すわけにはいかない!
「決めるっ!」
ミケの頸から再び飛び立って、裂け目の真上に飛ぶ。
ここなら、バケモノも裂け目も射線に入る!
「バハムートよ! 今こそアンタの力を借りるぞ!」
『ああ! 2人で思いっきりやってやろう!』
そう聞こえた気がした。
「小癪なっ! 何を企もうとワレが挫いてくれる!」
俺の眼下に伸びる裂け目の中のモヤが一斉に激しく波打ち、鋭くと尖ったモヤの槍先が形成された。
その数、1,000はあるか? いや、もっとだ! そしてバケモノは更に沈んでいく。
戦いの最中、裂け目を満たしていたモヤは減っていったが、それを更に減らして無数の槍と化し今にも俺に向かって射出されそうだ。
「さあ! くっくっく! 串刺しになるがいい」
「ユウト! 退くのじゃ! あの数は危ういぞ」
「いや、今しかない!」
「ユウト……」
「いくぞっ!」
『おうっ!』
まただ。俺の中のバハムートが呼応してくれている。
巨槌から刀に持ち替え、上段に構える。
俺の身体には、バハムートの身体が重なっている感覚……
「聖剣技奥義――――」
そして、バハムートが聖剣技の動きを導いてくれているような感触……
刀が光に包まれ、それがどんどん強く、大きく輝き始めた。
「なっ! なんだその光は!? ふ、ふざけるなぁー! そんなもの喰らってたまるかぁぁああああ!」
裂け目を埋め尽くすまでになったモヤの槍が、グッ、ググッ! と俺に狙いを向けてくる。
どっちが早いか勝負だっ! 腹は決まっている! いくっ!
「――サージ・オブ・ディバインクロスー!!」
「串刺しだーーー!」
俺は、刀をバケモノと裂け目に向かって振り下ろした。
刀に宿った白く、強烈な光が――聖なる光が、無限の波のように打ち出されていく。
裂け目からのモヤの槍も、重力などお構いなしに一斉に風切り音をあげて俺に向かって飛んでくる。
シュッ! シュシュンッ! シュシュシュシュ――――
パァーーーッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――
しかし、俺の放った【サージ・オブ・ディバインクロス】が、その槍をことごとく呑み込んでいく。その聖光がバケモノを一瞬で蒸発させ、更に勢いを落とすことなく裂け目深くまで進んでいく。
「なっ!? なんだとっ! や、やめろー! く、来るなーーー!」
そして、裂け目の奥に到達したのだろうか、今度は裂け目から光が戻ってきた。
「ぐおおおおグアアアアァァァァアアアアアアアーーーーーーーー…………」
“黒き大龍”の断末魔の叫びが途絶えると、裂け目の中から周辺の地面、更に大地そのものまで、禍々しい“黒”が抜けていき、荒涼とした土色へと変わっていった。
「……い、一撃でこの威力……。バハムートの記憶の技より強烈だったぞ?」
俺があまりの威力に呆気に取られていると、ニアが出てきた。
「これは……、2人分の威力ですっ!」
「お、俺とバハムートのか?」
「だと思います!」
「なんで?」
「バハムートの妻子に出会わせたお礼ではないですか?」
「……」
そうかもな。ありがとうバハムート!
『こちらこそありがとう……』
「ユウト! 心配かけおってぇ! ――何じゃ今の技は!? 我まで吹き飛ばされかけたぞ?」
「ミケ……。――あっ!」
ミケが白狐姿のまま駆け寄って来て、安心したら俺の全身の力が抜けていった。ミケが慌てて支えてくれる。
体力も魔力も限界に近かったようだ。
「ユウト! 大丈夫なのか?」
「ち、ちょっと、……動けそうにない」
「わ、わかった! 我に乗っておれ! とりあえずアニタの容態じゃ!」
そうだ。アニタ! 無事でいてくれ……
ミケがピルムの元へ着いてすぐ確認する。
「アニカ! アニタはどうじゃ?」
「な、何とかなりました~」
アニカもヘロヘロになりながら答えた。
アニタは、ピルムの手の上でアニカの膝枕で眠っている。
俺も頑張ってミケの頸からピルムの手に乗り移って、アニタの様子を窺う。
「傷は?」
「ちゃんと塞がりました」
俺の問いにアニカが答えてくれたが、求めていたのはソレじゃない。
「いや、あとだ。 傷痕!」
「あっ! それも残っていません」
「そうか……。よ、良かった~」
またしても体の力が抜けて、立っていられなくなった。
「アニカ、ありがとう! アニタに傷痕が残ったら……2人をここに連れてきた俺は、どう責任を取ればいいか分からなかったよ」
「そんなっ! ユウトさん。ここに来たのも私達が自分で決めた事なのに……」
「でも、よかった。本当にありがとうな。ピルムも2人を守ってくれてありがとう」
[とんでもありません。ご指示を全うできてよかったです]
よく見ると、ミケもピルムもアニカも傷を負っていた。
俺も含めてスマホの《エリアヒール》で回復する。
一息ついたところで、アニカが「最後のあれは凄かったですね?」と驚いていた。
[離れていた私でも飛ばされそうになりましたよ]
「ああ、あれはかつての英雄の聖剣技の奥義だ。使わせてもらったら、手伝ってくれて想像以上の威力になった」
そして、姿を現しているニアに聞く。
「これで“黒の大龍”は、封印状態に戻ったのか? またちょっかい掛けてこないだろうな?」
「ユウトさん。封印どころか、消滅しました」
「――へっ!?」
思わず声が裏返ってしまった……
「消滅?」
「はい。大地もただの“普通の大地”に戻りました」
「いや、消滅って……」
俺が戸惑っていると、ニアが光に包まれた。
今度はニアと入れ替わるとかではなく、空中にステータスボードのようなモノが現れて、その中にテレビのようにディスティリーニアが映し出された。
ディスティリーニアの胸には、泣きはらした天使が1体抱かれている。他の天使たちはディスティリーニアの周りを嬉しそうに飛んでいる。
「馬場勇人さん。あなたと――いえ、あなた方とバハムートのおかげで、カストポルクスは救われました。これは女神である私が認める事実です」
「本当に?」
「はい。それに、あなたが“黒き大龍”を消滅させた後、この子が大泣きし始めました……。おそらくこの子は、神格と記憶を失ったもう一柱の神・アレアルティスでしょう」
ディスティリーニアは、改めて“黒き大龍”消滅を認め、俺達に感謝の言葉を言い残して消えた。
俺は少し動けるようになったので、巫女姿に戻ったミケやみんなを連れて、裂け目の近くに転がっているギルガンドの頭蓋骨を拾いに行った。
サリムドランと一緒に“ドラゴンの巣”に葬ってやるぞ……
「……しかし、頭蓋骨もだけど、ギルガンドの魔石……デカかったよな?」
「うむ。デカかった!」
ギルガンドの胴体ごと消滅してしまった……
[それは、あれほどのドラゴンですからね?]
「惜しかったな……ドラゴンの魔石」
「うむ。惜しかった!」
「そんなに大きいなら、凄い価値だったでしょうね」
俺とミケとアニカは、ピルムに目をやる。
じぃー。じとー。ジ―。
[……えっ? 皆様!? その視線、ちょっと怖いんですけど? あれ? 私、死ぬんでしょうか? こ、殺される?]
「――冗談だよっ! 冗談」
「……」
「そうです。誰もピルムを大きい魔石だとか、そういう風に見ていませんよ!」
[で、でも! ミケ様の視線だけ本気のよう……な?]
「……」
[いやぁーーーーー! 助けて下さい~~!]
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