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第3章 カストポルクス、真の敵。
第117話 決戦。-追い込んだっ!-
しおりを挟むギルガンドのバケモノは、首から上が無い代わりにそれまで以上の大きさ、質量になったようだ。
あのモヤからどうやって物質化するんだ? これが“呪い”なのか?
バケモノの身体は尻尾もしっかりしたものとなり、翼にも膜が作られていて、飛べそうだ。
そして、頭が無いから当然目は無いが、視覚というか知覚しているようで、尻尾や腕を俺達に向けて振り回してくる。
「まるで見えているみたいだな」
「うむ。我らの動きを感じておるな」
更に、俺達は空中にいても油断できない。裂け目のモヤもだが、バケモノが高くジャンプするのだ。
翼は、飛ぶというよりもジャンプした後の滑空や方向転換に使う程度だが、機動がよくなったので俺達は上手く的を絞れない。
バケモノは、その巨体とスピードで空中に散る俺達の1人を狙い、あっという間に距離を詰めて攻撃してくる。
「キャッ!」
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「う、うん。アニタありがと」
3人で同時に攻めかかっても左右の腕と尻尾で対応されるので、4人目5人目の攻撃が大事なのだが、裂け目からのモヤの触手もあって攻めあぐねている。
バケモノに傷を負わせても回復される。
「雷も効きにくくなったのう」
「クハハッ! どうした? 5人もいてワが分体相手に手も足も出んか?」
「ふんっ! 声しか出せない奴は黙ってろ!」
まあ、モヤも出しているとは思うが、いい煽り文句にはなるだろう。
ミケはピルムと一緒にバケモノに取り付き、俺が光魔法、アニカとアニタが隙を狙う。
それでバケモノに傷を負わせても、すぐに修復される。
ムカつく事だが、要は俺達は苦戦しているのだ。
そんな中でも《ピュリフィケーション》と《エクソシスム》は、モヤの除去やバケモノの修復阻害に効果を上げている。
「よし! 翼が潰れたぞ! 」
「いいぞ! そこに我の雷を――おおっと! 邪魔な尻尾じゃ!」
[ユウト様ぁ! また棘を出します! 地面の浄化をお願いします!]
「おう! ち、ちょっと待ってくれ、よし! ほれっ」
[ありがとうございます! ――上手くいきました!]
しばらくの苦戦の後に、少しずつ少しずつペースが掴めてくる。
そして新たに気付いたのだが、バケモノは自分の正面から胴体に向けて放たれた光魔法には、腕で防ぐようになったということだ。
だから腕や手の修復が鈍り、そこに俺達の攻撃が加わって、腕や手の骨が露出してきていた。
「ちまちまとご苦労な事だな。ワが分体を削るのに、貴様らも擦り減っているぞ?」
確かにな……。だが、これでいい!
「攻撃を集中できれば、斬り落とせそうだ!」
「そうじゃな」
「胴体を庇うという事は、そこに何かあるという事だよな?」
「うむ。じゃが、庇うぶん、そこまでの道のりは長くなるぞ」
「だけど、やるしかないだろ?」
現状打破の突破口を見い出せそうになっていた時だった。
「キャーーッ! ガハッ!」
「アニターーーーー」
アニタの悲鳴と、アニカの叫び声がした。
――アニタがやられた! どこからか血飛沫を上げながら吹き飛んでいく!
「「アニタッ!」」[アニタ様ぁ!]
バケモノを見ると、露わになった指の骨が砕けていて、鋭利になった骨がアニタを斬ったようだ。
あれはヤバい!
「アニカ! すぐに行ってやれ! ――早く!」
「は、はい!」
アニカはすぐさまアニタの元に飛んで行った。
今行けば間に合う! アニタは助けられる! アニタは助かるっ! 助かってもらわないと俺は……!
「ピルム! お前も行け! 2人を守るんだ。必ずだ!」
[で、でも! ここは?]
「俺達なら大丈夫だ! な? ミケ」
「おうっ! 早う行ってやれ! 2人を守り抜くのじゃ! 死んでもな」
[はい! 命に代えても!]
ピルムに2人の守護を厳命して、バケモノとは俺とミケの2人で戦う事になった。
「さて、きつくなるぞ?」
「望むところじゃ!」
「よいのか? ワが分体を相手に2人など……。軽く捻ってやろうぞ」
「1人で言ってろ!」
ピルムは、ぐったりしているアニタと懸命に回復魔法をかけているアニカを手に乗せて、裂け目から伸びるモヤから離れていっている。
このまま遠ざかって行ってくれていい! 治ってくれよアニタ!
俺は、この短い間に考えた事をミケに伝える。
“俺は2人で分散するより、一緒になった方がいいと思う。《ライトフィルム》を1つで済ませられるし、俺達に的を絞らせたい。その為にお前に乗ってもいいか? ミケ”
“賛成じゃ! 我に乗れ。我を盾とし、機を見て魔法をブチ込むのじゃ”
白狐姿のミケの頸に立ち乗りし、しなやかなミケの毛を掴んで踏ん張る。
《ライトフィルム》を張り直し、ミケに《フィジカルブースト》と《センスブースト》をかけ、アニタから離れる方向に転移する。
シュンッ!
「《ピュリフィケーション》! 《エクソシスム》!」 ドッシャーーーーン!
俺とミケは裂け目からのモヤにも対応しつつ、バケモノに光魔法と雷を撃ち込んでは、修復の出来ていない部位へ物理的に攻撃を叩き込む。
「やっぱり胴体を庇っているな?」
「うむ。少しずつ腕も削れておる。あと一押しで胴体が露わになる!」
その一押しか……
俺はストレージからガンダーの槌を取り出し、《ピュリフィケーション》を付与して刀と持ち替えた。
胴体を守ろうとするバケモノの腕は、この槌で砕く!
“ミケ! バケモノに雷を連発で当ててくれ。動きが鈍ったところに俺が胴体に向けて突っ込んで腕を砕く! 上手く行ったら転移で戻るから合体技だ”
“わかった! 無理するでないぞ?”
“おう!”
俺はミケの頭の上に移動し、雷を待つ。
「ゆくぞっ! くらえい!」
ドッゴ―ーンッ! ピシャーーン! バ―ーン!
ミケの雷の直撃でバケモノの動きが鈍くなったのを見計らって、俺はミケの頭を蹴ってバケモノに飛びかかる。
「《エクソシスム》!」
バケモノの胴体に向かって魔法を放つと、バケモノは案の定腕で胴体を守りにかかった。
これを待っていた!
「くらえー!」
ドンッ!
バキッ! メリメリボキッ!
魔法を受けて脆くなった腕が両肘辺りを含めて砕けた。
「よしっ! 今度は――《ピュリフィケーション》!」
ガラ空きになった胴体に浄化魔法をかけ、ミケに戻る。
バケモノの胴体はうっすらとアバラ骨が透けて見えて、その内側には魔石があった。
「魔石かっ! いいかミケ? いくぞ!」
「うむ」
「《フレイムストーム》じゃ!」
ボワ! ボワッ! ボワァァアアアアアアアア!
「それに……これじゃあ!」
ミケが自分で出した火炎の嵐に雷を合わせる。雷炎だっ!
ダンジョンのアイスドラゴン戦で、俺とミケがやった事を1人でやりやがった!
バチバチ! ブワッ! バリバリ!! ボボボピシピシ!! ボワァァアアアアアアアアアアー!
「よし! じゃあ俺は……《メテオライト》だ!」
ミケの雷炎がバケモノを覆うのに合わせて、隕石群を打ちつける!
ブワァァアアアバチバチボボボピシ! ドドドドドドドドドドドドッ!!
雷炎を纏った隕石がバケモノに立て続けに降り注ぎ、バケモノの骨を砕き身体をどんどん押し流していく。
そして! バケモノの魔石を露出させ、ついでに身体を裂け目に落とす事ができた。
最大のチャンスが訪れた!
「決めるっ!」
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