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第3章 カストポルクス、真の敵。

第110話 ディステと魔大陸。

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「ふわぁ~あ。よく寝た……おはようピルム」
[ユウト様、おはようございます]

 昨日はエンデランス王城での宴で、腹いっぱい食べさせてもらってから王都外の崖の上にキャンプした。
 女性陣は――って言っても俺以外全員だが、早起きで、俺の起床を待たずに朝食の用意をしてくれていた。

 アニタはピルムの人化トレーニングに付き合って、飛ばされて遊んでいたけど……
 メルティナまでもいつの間にか拘束が解かれていて、一緒に準備や片付けをしてくれた。

「今日は、まずディステの様子を見に行こう」


 グラン・ディステ大聖堂上空に転移する。
 やはり、いつ見ても綺麗な大聖堂と街並みだ。海の青と聖堂の白のコントラストが素晴らしい。

 俺は大司教の爺さんを訪ねて話を聞く。
 ミーナはゆっくりとではあるが、順調に回復しているらしいし、テレーゼもそれに付き添っているそうだ。

「異変については?」

 幸いディステ国内では、モンスターの凶暴化もダンジョン氾濫も起きていないらしい。
 だが、人心の変化は表われたらしい。と、言っても酷いものではないそうだ。
 元々不正に手を染めていた聖職者が、開き直ったり気持ちが大きくなったりしてボロを出し、はっきりと不正が認識できて良かったとの事。

「これもディスティリーニア様の思し召しです。ディステをお護り下さっておるのですなぁ」

“ニア、そうなのか?”
“いいえ、偶然でしょう。ディスティリーニアは直接手を下しません”
“ですよね~”

「その事後処理で教皇が不在でして、ご足労いただいたのにすみませんな」
「いいえ! かえって良かったです」

 ローレッタの被害に遭わなくて済むしな。
 爺さんに挨拶を済ませて、海岸で遊んでいるミケ達に合流して、今度は魔大陸に行く。


 魔王城では、ピルムの落とした橋の修繕作業が行われていた。

 ピルムは人化が少し長くなってきたので、人化して一緒に城内に入る。
 と言うのも、魔王城は広い空間が多く、魔王の間で人化が解けても前回同様嵌まるだけで済むし、エントランスに至っては魔王の間よりも天井が高いので心配は無い。

 メルティナを先頭に魔王城内を進む。メルティナが魔人に声をかけると、メルガンへの取り次ぎに駆けて行った。
 テミティズの軍団の死体は片付けられ、中にいる魔人達も屈強そうな魔人が多い。
 それでも魔人達は、俺達から距離を取って遠巻きに見ているだけだった。

「メルティナー!」

 2階の魔王の間から、メルガンが駈け出てきた。

「お姉様……」
「無事のようだな。メルティナを丁重に扱ってくれているようで、感謝する旦那様」

 ピシャッ!

「痛いっ!」
「今度旦那なんぞと呼んだら、メルティナを殺すと言ったはずだがのう?」
「わ、分かったから、そのチカチカを収めてくれんか」

 手に雷を蓄えながら脅していたミケは、とりあえず怒りを収めた。
 それに……メルティナも丁重には扱っていなかったがな。


 とりあえず魔王の間に向かうが、ピルムとアニタをホールに残していく。
 どうせピルムの人化は解けるだろうし、アニタは飛ばされたいだろうしな。
 魔王の間に入ると、メルガンは俺達を更に上階の私室へと案内し、中には5人だけになった。

「こっち――魔大陸では何か異変があったか?」
「ああ、南の方の湖に棲むクエイク・クエイと言う普段は臆病なナマズモンスターが大暴れしたり、一部の魔人が私を殺しに来たがどうということは無かった」

 いや、どうということあると思うけど?
 とにかく前回俺達が魔王城を出た後、メルガンは明らかに戦力低下している魔人族を何とかまとめているようだ。

「今日は異変に対応できたか聞きに来たついでに、メルティナを返そうと思ってな」
「何っ!? いいのか?」

 メルティナはメルガンの元に駆け寄って、何やら耳打ちした。

「何っ!? 絶倫?」

 一瞬でミケとアニカが俺を睨む。

「おい! 誤解を招くような言い方はやめなさい! 魔力の事だろ? 魔力量の!」

 メルティナが「うん」と頷いて、今度は暗い表情になって「私は……何か変」と、お腹のあたりで手をモジモジさせながらうつむいた。
 またミケとアニカが俺を睨む。

「魔力の事だ! メルティナの魔力の事!」

 メルティナは普段無口な分、一つひとつの言動が意味深になってしまうんだよな。

 俺は「その事についてだが……」と、メルティナに下された罰について2人に話す。

「私に魔力減少の罰……」
「なんと言うことだ! 私の決断が……メルティナを苦しめる事になるとは!」

 メルティナにも伝えていなかったからメルティナもショックを受けている。
 だが、自分の命を賭けてまで守ろうとした妹に、罰が下っていると知ったメルガンのショックも大きいだろう。

「メルガン、お前は今この事を知ったな。『魔人族は力こそ全て』の種族だとすると、いずれメルティナを切り捨てなければならなくなるぞ?」
「メルティナを……切り捨てる……」

「そうだ。この大陸の北の外れにある“捨てられた村”。お前はあそこの存在を許していたそうだが、テミティズの軍団に襲われて壊滅の危機に陥っていたぞ?」
「なっ! あの村が?」

「魔人族の『力こそ全て』という考え自体を変えなければ、お前以外の誰かが必ずメルティナを狙うだろう。そうなってもいいのか?」

 魔人族の戦力が著しく下がった今となっては、俺達にとって魔人族は集団としての恐さも無い。
メルガンにメルティナを返そうが返すまいが、大した差ではない。
 だけど、を変えるには、メルガンの元にメルティナを返した方が効果があるんじゃないか?
 メルティナの存在が、いい転換材料になるだろう。

 魔人族の生き方を変えるか変えないかは、メルガンが決める事だ。
 俺はするつもりもないし、するほどの知識もない。
 ミケはもちろん俺も、ここまでどちらかと言うと力で解決してきたからな……

「と言うことで、よく考えておくんだな」

 宿題を与えるような言い方をしたが、丸投げだ。それに、メルガンなら何とかできそうだしな。
 メルガンの私室を出て、アニタとピルムに合流した。
 ピルムは人化が解けてドラゴンの姿だ。同じフロアにいる魔人族がみんなビクついている。

「どうしたアニタ? 不満げな顔だな」
「あのね~、ピルムね~、なかなか大きくならないの! 今も2回しか大きくならなかったの!」
[な、長く人化できるのはいいことじゃないですか~]
「つまんないのっ!」
[ええ~]
「……」
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