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第3章 カストポルクス、真の敵。
第108話 モンスター素材。
しおりを挟むリーファから逃げるようにオーサクに転移する。
ホカイドゥンのダンジョン氾濫の件を一応報告しておくためだ。
俺達がダンジョンを出て数時間しか経っていないから、エニアのギルドマスターからの報告は届いていないだろう。
エティゴーヤの屋敷の上空にいるが、相変わらず屋敷内は忙しそうだ。
「おやおや、いいところにお戻りで。あれ? ドラゴンはおらんのでっか?」
屋敷に下りる時に、ピルムも行くか確認したところ、身震いしながら[空で待ってます~]とのことだった。
「ああ、上で待ってるってさ。ダンジョン氾濫の件で来たんだけど……、いいところに来たって何?」
「いや~、ウチの情報網になぁ、色々と異変の情報が来てますねん。――って、ダンジョン氾濫は解決してくれはったんでっか?」
「ああ。で、異変の情報って?」
「1つはエルフの大森林で噴火があってですな、灰やら噴煙やらがオーサクの北部に差し掛かっとるんですわ。あの山、もうすぐマグマ吹き出しよりますわ。こらアカンでぇ」
エティゴーヤが、「リーファはん、上手く治めてくれはるやろか?」と心配顔をしている。
それだったらさっき解決してきたと言ったら、エティゴーヤは小躍りしながら喜んだ。
「いや~助かりますわ~! 溶岩にやられたら、土地を元に戻すのにエライ時間掛かるとこでしたわ。ありがとさんです~」
農地は灰を被って今年はダメだろうけど、溶岩にやられるよりは百倍も千倍もマシだと胸をなでおろしている。
「他にもあるのか?」
「ええ、もう1つあるんです」
今度はホカイドゥンの北、キタクルスのもう1つ北、農業国家イビャラクと大河を挟んだ対岸のドワーフ国の近くの海で、モンスターが暴れているらしい。
「へぇ? 海のモンスターかぁ、見てみたいな」
「はんまでっか!? 行ったらよろし。ついでに解決してくれはったら尚よろしいな」
エティゴーヤは俺を便利屋だとでも思っているな……
でも、本当に見てみたい。
「他は大丈夫か?」
「あとは、キタクルスでも小規模ダンジョンの氾濫があったみたいやけど、暇な傭兵がウジャウジャいますから大丈夫でっしゃろ」
キタクルスは男も女も国民皆兵らしく、農家でも商人でも文官でも、いざという時は嬉々として戦場に行くらしい。
行った事のない場所なので、エティゴーヤの屋敷から北東に飛んで行く。
現場近辺に着くと、モンスターはドワーフ国側の海にいて、大きな水柱が上がっていた。
イビャラク側では、キタクルスの傭兵を中心に河口付近や海岸線の守りを固めている。
ドワーフ国側に移動する。
よく見るとゴダンが王都の城壁の上から、大声で海岸にいるドワーフ達に指示を飛ばしていた。
「ゴダン、モンスターが暴れてるって聞いて、様子を見に来たぞ。どうだ?」
「おうユウト! あのタコ野郎のせいで、ワシらの作業が止まっているのである。ワシらドワーフのモノ作りの邪魔をするなんぞ、許せんのである!」
タコ野郎……
海に目をやると、本当にタコだな。大ダコ。ただし、スーパーとかでたまに見かける鮮やかな赤い色の酢ダコみたいな真っ赤な大ダコだ。
足をバタつかせているので、何本もの水柱が上がっている。
「皆の者ぉ! さっさと仕留めて、自分の仕事に戻るぞー!」
「おう!」「へい!」
威勢のいい返事だったが、あまり上手くいっていないようだ。
「苦戦しているな?」
「うむ。ワシらドワーフは、太く見えるがほとんどが筋肉である。いくら海水と言っても、なかなか浮きにくいのである。泳げる者も少ないしのぉ」
それで海の中まで深追い出来ないんだな?
仕方ない。ドワーフの連中が戦いやすいように、少し手助けしてやるか。
「俺らが沖の方から攻撃して、あのタコ野郎を海岸に寄せてやる」
「“ら”? お主以外にも誰かいるのか?」
「ああ、上にな」
空を指差すと、ゴダンも上を見て、ピルムを発見した。ピルムの手の中にはメルティナもいるが、ゴダンには見えていないようだ。
「ドッ! ドラゴンなのである! 大きいっ!」
ピルムにも参戦させて、俺達は沖側からタコ野郎――何だっけ? ヴィランオクトパスを攻撃する。
「行くぞ?」
[はい]
ピルムは、海では大地の棘を出せないので、“爪撃”や尻尾での攻撃を、俺は火魔法の攻撃を叩き込む。
《フレイムブレード》や《フレイムランス》が当たると、ヴィランオクトパスの真っ赤な表皮が、生のタコのように白っぽくなるから不思議だ。
俺の火魔法の連発と、ピルムの両手での絶え間ない爪撃で、海岸に打ち上げたヴィランオクトパスを、ドワーフ達が袋叩きにして決着がついた。
「ふ~。よくやったな、ピルム。お疲れさん」
[いえ、ありがとうございます]
「いやー、ピルムの両手での爪撃の連打、あれは効いただろうな」
[とんでもありません。ユウト様の火魔法で弱ってたから出来たことです]
「まぁ、2人とも頑張ったということでいいな。でもさ、……な~んか忘れているような」
[どうしました?]
「ピルム……両手……爪撃? ――おい! メルティナは?」
[メルティナさんならこの手に……いないっ!]
慌ててメルティナを探しに行くと、沖の方で、うつ伏せで海に浮いて漂っていた。プカプカと……
恐る恐る拾いあげる。
「ぷは~! やっと来た……来ないかと思った」
腕を後ろ手に縛られて、うつ伏せで海に浮いてた割には元気だ。
「い、いつから浮いてた?」
「……戦いが始まって、割とすぐ」
[ご、ごめんなさ~い!]
「なんで忘れるんだよー?」
[戦いになると夢中になっちゃうんです~。私ドラゴンなんです~!]
……ドラゴン関係ある?
戦いの最中に切れたタコ足と、ヴィランオクトパスの魔石を報酬代わりに貰った。
そのほかの部分は、ゴダン達が何かの素材に出来ないか研究するそうだ。
「食べないのか?」
「――何を言うである! タコ野郎なんて食べる者はいないのである! 気持ち悪い!」
そうかなぁ? 美味そうだけどなぁ。まぁ、足を何本かは貰ってあるし、いいけど……
「そんな事よりである! ユウト! あのドラゴンは、お主の物か?」
「モノ? まぁ、モノっていうか、連れて歩いてるけど?」
「おお!」
地上に下りているピルムの周りをドワーフが取り囲み、何やらドワーフ同士であーでもないこーでもないと話している。
ピルムは、また動く場所が無くなって固まっているようだ。
「お主の物ならば頼みがある!」
「な、なんだよ?」
「あのドラゴンの鱗を数枚くれんか? ――あと、爪も!」
「はあっ?」
「それがあれば、いい武器や防具が作れそうだ! なっ? 頼むのである!」
「い、いや生きているだろ? コイツは」
「剥げばいいのである! 許してくれるならばワシらでやるが?」
聞いているだけでも痛そうな事を……よく平気で言えるな? 流石ドワーフ。
[ゆ、ユウト様ぁ~。この人達、だんだん不穏な事を言いはじめてます~。私、生きたまま鱗を取られそうです~!]
ピルムが涙目で必死に助けを請うので、ここから逃げる事にする。
シュンッ!
「ああー! ワシらの素材がー!」
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