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第3章 カストポルクス、真の敵。

第99話 首輪と鎖。

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 魔王の間でハウラケアノスが消え去って、茫然ぼうぜんとしそうになったが、龍人とドラゴンが来ている事を思い出した。

「――アニカ達の方にドラゴン!」

 だが……メルガンとメルティナも気になる。
 メルガン達に目をやると、2人とも気を失っているのか死んだのか、ぴくりとも動かない。

「ふむ。我が見て来よう」
「……頼む。ヤバそうだったら呼んでくれ。――おい! ちょっと待て」

 よく見ると、白狐姿のミケが顔や前脚辺りから血を流していた。
 急いで回復をかける。

「気づいてやれずにすまなかった。大丈夫か?」
「何のこれしき! しかし、向こうの攻撃は我に効くのに、我らの攻撃は効いておらんかったのだろうか?」
「どうだろうな? アレは龍人じゃないんじゃないか?」
「まぁ、それよりも今はアニカ達じゃ。行ってくる」

 ミケは巫女姿に戻って、城外へ向かった。

「さて……」

 俺はメルガン達の元に向かい、鎖を触らないようにしながら観察する。
 2人とも死んでるわけではなさそうだ。


「ほれ、こっちじゃ」
「――ん? 早いな!」

 ミケがもう戻ってきた。
 扉の方を見るとアニカとアニタも来た。ピルムも人化し、バスタオルを巻いた姿で入ってきた。

「おいピルム! そこでストーップ!」
[えっ?]

 ボワンッ!

「やっぱり!」

 ピルムが魔王の間に入ったところで人化が解けて、部屋にハマった形になった。

[ど、どうしましょう?]
「面倒だから、そのままな?」
[は……はい]

 アニカ達が心配でミケを向かわせたが、ドラゴン20体と魔人族4人を3人で相手にし、既に撃退していたそうだ。

「すごいなぁ! アニカ、アニタ、頑張ったな! ピルムはどうだった?」
「はい、ピルムのひと吠えで18体のドラゴンが帰っていきました」
「ぎゃるる~! って、すごかったよ!」
「そうか~、ピルムも頑張ったな」
[ユウト様……ありがたきお言葉です]

 ドラゴンが現れる前の魔人達との戦いについても聞き、改めて3人を褒めてやる。

「カブトムシみたいなモンスターの大群か……ゴキブリじゃなくて良かったな」
「はい! ゴキブリだったら逃げ出してるところでした……」
「ユウトなんぞ、ネズミどもを見て『ギャーーーーー! ネズミ~!! 助けて~』って叫んでおったぞ?」
「「ホント!?」」
「もういいだろ! 結局倒したんだからさぁ。それに、『助けて~』とは言ってないぞ!」

 俺はアニカとアニタに、ここで聞いたこと話したことを伝える。

「――ってことで、あそこら辺に頭のつぶれた死体が転がってるのがテミティズだ。ソイツが、このメルガンを誘導して転移門を作らせたらしい」

 床に突っ伏しているメルガンを指差すと、アニカ達もメルガンを見た。

「ただ、そのテミティズも、ハウラケアノスって奴の手の平で踊らされていただけのようだがな」
「……そうですか。なんか複雑ですね」
「アニタわかんなくなっちゃった!」
「俺がテミティズが殺されるのを防げて、生け捕りに出来ていれば良かったんだがな……」
「そんなことありません! 教えてくれてありがとうございます」

「……で、コイツらどうする?」

 2人とも鎖を持つ者の支配から解放されて気を失っているが、メルガンは俺の刀を受けて首から出血している。
 アニカとアニタは黙ってしまった。アニカは2人を見つめて、何か考えている。

「この鎖も厄介そうなんだ。叩き斬ろうとしても斬れなかったんだよなぁ。……ニア、なんか知ってるか?」
「これは……禁呪きんじゅの感じがプンプンしますね」
「禁呪?」

 初めて聞く言葉だな?

「はい。闇属性魔法と、かつて存在した“まじない”を組み合わせたようなモノです」
「かつて存在した?」
「はい。カストポルクスに今の様な人類が生まれる前の、大龍と神の時代の……」

 ニアがそこまで言ったところで、「うぅ!」と、先にメルティナが意識を取り戻しそうになった。

 念の為アニカ達を俺の後ろに下げて、刀を構える。
 メルティナはゆっくりと目を開けた。
 目の前には首から血を流しているメルガン。

「――!! お姉様ぁ!」

 メルティナが肘を支えに起き上がろうとするが、身体に力が入らないようで、ガクッと倒れる。
 それでも腕を使い、腹ばいでメルガンに向かい、回復魔法をかけようとする。

「うっ! お、おねえさ……ま」

 メルティナは、これまでのダメージなのか、操られていた弊害なのか、力尽きて再び気絶してしまった。
 俺はメルガンとメルティナから目を離さないようにし、ニアに話の続きを求めた。

「かつて、人類が誕生する以前。このカストポルクスにはモンスター、それも巨大なモンスターが溢れていました」

 地球で言う恐竜の時代みたいなものかな……

「そこは、今のピルムさんよりももっと巨大で、より知能の高い、黒き大龍が支配していたのです」

 ある時、その黒き大龍が暴走を始め、多くのモンスターを狩り、喰らって肥大化していった。
 自分で動けなくなるくらい肥大化すると、今度は他のモンスターを操ってモンスターを殺させ、自分の元に運ばせて喰らっていたという。
 その時に、モンスターを操る為に使っていたのが、禁呪と呼ばれるモノらしい。

「この鎖に、その禁呪の雰囲気があると?」
「はい。この鎖には、ユウトさんのスマホに掛けた無属性魔法の《アンブレイカブル 不 壊 》と似たような不壊効果があるようで、首輪には更に支配や隷属の効果があるみたいです」
「闇魔法と“まじない”を組み合わせたようなモノで、不壊や、支配・隷属?」
「そうです……今では絶対に使われていないはず――あっ!」

 ニアが何か思い出したように言葉を続ける。

「――ユウトさん! 先程ハウラケアノスのステータスを《アナライズ》できないと仰っていましたね?」
「ああ、ニアもすぐには分からんって言ってたな」
「はい。……ユウトさん、私を《アナライズ》して下さい」
「あ、ああ」

 言われた通りにニアを《アナライズ》する。

「……お、同じだ。文字化けしてるって言うか……見えない……」
「でしたら、ハウラケアノスは……カストポルクスの生命とは『違う段階』の者かもしれません」
「――神だってか?」
「……それか、全く逆の存在です」

 ニアがそこまで言った瞬間。

 ヴオオオオオオオオオオオオオ――――

 くぐもった叫び声のような音が、大音量で魔王城全体をビリビリと振動させながら通り過ぎて行った。

「な、何だ一体?」
「嫌な響きじゃったぞ?」

 アニカとアニタも、不気味な音と振動に不安げな表情で辺りを見回している。

「ユウトさん! 私の本体のディスティリーニアが私と代わるそうです」
「はっ?」

 俺が聞き返す間もなく、キースの宮殿にある女神の間で起こったように、ニアが光を纏い始めた。
 そして、いつものニアよりも畏まった口調になった。

「ここからはわたくしがお話しましょう」
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