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第3章 カストポルクス、真の敵。

第96話 テミティズ。

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「ああ! コイツが前魔王のメルガンだ」

 メルガンと呼ばれた女魔人は、テミティズに踏みつけられていても、うつろな目を床に向けるだけで何も抵抗しない。
 まるで廃人か抜け殻のようだ。だが、俺の攻撃を止めるような動きも出来る……
 メルティナもそうだ。

「お前……何をした?」
「何をしただぁ~? 力でねじ伏せただけだ。魔人族らしくなぁ!」


******ガンダー軍の次元転移門突入後


 魔王軍第3席<謀略>のテミティズが、奴隷を引き連れていた自身の配下に命じ、巨大な転移門を閉じた。
 テミティズは後ろに振り返り、周囲を確認した。
 メルティナを含め、第2軍2,000は魔力を使い果たしボロボロの状態。
 魔王メルガンは、多少の余力はあるものの、護衛部隊1,000は気を抜いている。

 テミティズは、この状況に自身の計画の成功を確信し、あらかじめ潜ませていた第3軍に合図を送った。
 この地に乱立している大小さまざまな岩山、その全てに少数ずつ潜んでいた第3軍が蜂起し、毒矢の雨を降らせた。

「何事だ!」
「メルガン様を! 魔王様をお守りしろ!」
「メルティナ! 私のところへ来い!」
「お姉様!」

 メルガン親衛隊は慌ててメルガンの護りに走り、周囲は怒号に包まれた。
 メルガン達は辛うじて、親衛隊と防御魔法に守られている状態だ。

「テミティズ! 何をしている! 貴様もメルガン様をお守りしろ!」

 親衛隊の連中が、毒矢の雨の外にいるテミティズに向かって声を張り上げるが、テミティズは反応しない。
 テミティズは、不敵な笑みを浮かべて配下に指示を出す。

「そろそろいいだろう。始めろ!」

 テミティズの指示により、そこかしこから指笛が吹かれた。

「ピーー!」「ピィッピィッ!」「ピュ~ピュイッ!」

 指笛の合図が鳴ると、岩山の死角に潜ませていたモンスター達が一斉にメルガン達に襲いかかった。
 スタブタートルやホーンドフライは空から襲いかかり、視界や行動範囲を奪い、スティングマウスは足元の自由を奪っていく。

「うわぁ~!」
「ぎゃー!」

 モンスターはメルガンを取り巻く親衛隊に取りつき、1人また1人と皮を剥ぎ肉を喰らい尽くしていった。
 メルガンは妹のメルティナを守りつつ、身体に魔力を纏わせ懸命にモンスターを潰し続けたが、遂に魔力が尽きた。

「ピュゥッ!」

 テミティズが指笛を強く鳴らすと、、モンスター達が一目散に散って行った。
 その場で生きていたのはメルガンと、その腕に抱かれたメルティナだけだった。

 テミティズは生き残った2人の元へ歩みを進める。

「テ、テミティズ……貴様……」
「お前の時代は終わりだ。これからは俺様が魔王だ。だが……お前達2人には、まだまだ俺様の役に立ってもらうぞ」

 テミティズの手には、鎖のついた首輪が握られていた。


******ユウト


「お前が魔王になったのは、門ができた後か?」

 どちらにせよ3人とも倒すつもりだが、アニカ達の仇は捕らえなければならない。

「ああ、そうだ。だが、その門を作るように仕向けたのは俺様だがなぁ! くっくっく」
「どういう意味だ?」


******テミティズ


「いいだろう。教えてやる」

 お前は、ここには俺様達3人しか残っていないと思っているようだが、もうすぐハウラケアノスがドラゴンを引き連れて援軍に来るだろう。
 それまで時間を稼がせてもらう。くっくっく。

「貴様も見て分かるとおり、俺様の髪はコイツらとは毛色が異なる。角もな。……それは、俺様が魔人の親父とヒト族の女の間に生まれた半魔だからだ」
「半魔?」
「親父がユロレンシア大陸から攫ってきたヒト族の女を孕ませ、生まれたのが俺だ」

 俺様は、ヒト族の血が混じったことで、赤紫の髪色で紫の瞳だった。魔人族の青い髪や赤い瞳を持たなかったのだ。
 そして、魔人族の赤子にはある角の芽も無かった。

「魔人族と何もかも違う俺様を見た親父は、俺様と女を捨てやがったそうだ」

 集落にも居場所なんてあるはずない。
 俺様と女は、魔大陸で隠れるように暮らすしかなかった。

「数年経ったある時、俺様にようやく角が生えてきた。角が生えて集落に戻ろうとした俺様を、女が止めやがったから、俺様は女を殺して喰らってやった。……だが!」

 くそがっ! 思い出すだけでも忌々しい!

「それでもコイツらは俺様を魔人族とは認めようとしなかった! 認められたくば、魔人族らしく力を示せとぬかしやがった」


******ユウト


 テミティズは、魔人族の中で汚い手だろうがなんだろうが、とにかく頭を使い欺瞞ぎまん・謀略・調略ちょうりゃくを巡らせてのし上がったそうだ。

「だが、それも第4席までだった」

 テミティズは、メルガンの父が魔王の時に第4席を射止めたが、その上にはメルガン・ガンダー・メルティナがいて、この3人には勝ち目が無かったらしい。

「その後、その魔王がバハムートと相討ちでおっ死んで、メルガンが魔王になってしばらくした時だ、龍人のハウラケアノスが魔大陸に現れ、俺に話を持ちかけてきた。ハウラケアノスが俺の下に就いて、2人で魔大陸を、そして世界を手に入れようと!」
「世界だと?」
「ハウラケアノスは、メルガンが探していた父王の仇バハムートの居場所をなぜか知っていてなぁ」

 テミティズが「くっくっく!」と笑った。何がおかしいのか俺には解らないが。

「その情報を利用して魔王軍の戦力を削ぎ、それを俺様が叩いて魔大陸の覇者になる。現に今そうなりつつある! 後はユロレンシア大陸など容易く手に入れられる! メルガンは見事に乗ってくれて、ガンダーを排除することができた。今や門が消えたから戻ってくる心配もない!」
「あの門はお前の野望の為の策だったのか?」
「そうだ! くっくっく! 本当に見事に俺様の手のひらの上で踊っていたぞ、メルガンの奴! くくくっハッハッハ!」

 真犯人が自分から現れた感じだな。コイツは生け捕る!
 
 ――っ!! 何かいる!
 テミティズの後ろに何かいる!

 それは、高笑いするテミティズの背後に黒い霧みたいに漂い、集まり、人の形になっていく。テミティズは気づいていない。
 徐々に輪郭がはっきりしてくる。

「べらべらと喋り過ぎだ、この雑魚が!」

 テミティズの後ろに現れたのは黒い髪の龍人で、くぐもった声でテミティズを罵った。
 コイツがハウラケアノスか?

「ああ?」

 テミティズは背後からの言葉に、不快そうに振り返る。

「なんだ、ハウラケアノスか」
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