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第3章 カストポルクス、真の敵。
第92話 ピルムの初めての夜。
しおりを挟むいい高台を見つけたので、ここに泊まることにする。
ハイドラゴンのピルムが加わって初めてのキャンプだな。
ドッシーン!
「おお! ピルムの重量だと、高台がひくだい(低台)になるかもな?」
「「「…………」」」
[…………]
親父ギャグ、不発。
スマホが震えている気がするが、気のせいだろうか? もしかしてニアが笑っている?
「ニア、笑ってる?」
「――いいえ」
そうですか……
俺達がロックドームの中に寝床を用意したり、バーベキューコンロに火を入れたり諸々準備していると、ピルムはドラゴンの姿のままポツンと座っている。
「ピルム。こういう時こそ人化を繰り返したらいいよ。そうすると、もっと人らしくなるだろうし、人化の時間も長くなるだろ?」
[なるほど! やりますっ!]
ここで問題なのが、ピルムが裸だということ。
服を着せると、人化が解ける度に服が破れるので、バスタオルを巻いて過ごしてもらう。
我ながらいいアイデアだ。
それ以降ピルムは、離れた場所で人化しては解けてを繰り返している。
俺達は4人で夕食の準備をしていて、はたと気づいた。
「おーい! ピルム~! お前、普段は何を食べてるんだー?」
[モンスターです~。毎日じゃありませんけどねー]
「よ~し! モンスターも出してやるからなー!」
[ありがとうございまーす!]
「何を出してやろうか?」
「弱い奴から順に出してやればよかろう? 魔石も喰われてしまうじゃろうしの」
「どうやって食べてるんでしょうね?」
「見てみた~い!」
「それもそうだな」
ドラゴンに戻っているピルムの元へ行き、魔王軍のモンスターの死骸をストレージから取り出してやる。
ウルフ系やオーガを、食べられるだけ出してやる。
俺たちに出会う前にも食事していたらしく、数体で十分との事だった。
俺達はみんな、ドラゴンの食事シーンに興味があったので観察する。
ピルムは両手に1体ずつモンスターを掴み、頭の方かからガリガリゴリゴリと噛み砕いて咀嚼して食べていった。
「……ただのグロシーンじゃねえか!」
アニカもアニタも若干引いている……
そんな事もありつつ、俺達の食事も出来た。
と言っても、ストレージに取り置きする分も含めて、大量にスパゲッティーをゆでて、食べる分だけぺペロンチーノ風に仕上げただけだが……
ピルムにも味見させるべく、人化させて食卓に来させる。
「どうだ? 調理されたのなんて初めてだろ?」
[んむ! ゴクン! おいしいです! こんなに味があるんですね!]
まぁ、モンスター丸ごとよりは味はあるよな……
しかし、みんな服を着ている中、1人だけバスタオル姿なんて……いいじゃないか!
「うむ! 相変わらずうまいぞ! ユウトよ。おかわりじゃ!」
「にんにく、唐辛子を抑えめにしてくれているので、とても食べやすいです!」
「ちょっとカライけどぉ、おいし~」
その時――
バイ~ンッ! ガラガラ! ガチャーン! ゴシャーンッ!
「うおっ」「なんじゃー!」「「きゃー!」」
ピルムの人化が解け、ピルムの身体が元に戻るのに合わせて、俺達は弾き飛ばされた。
食卓周りもグシャグシャになってしまった。
[ごめんなさーい!]
「おのれ~、ピルムー! 貴様、戻るなら戻ると言ったり、離れるとか出来んのかー!」
「そうです! ビックリするじゃないですかー!」
[いつ戻るか分からないんです~]
「ピルムちゃん! 今のおもしろいね! じげんばくだんみたい!」
一番遠くに飛ばされたアニタが楽しそうに戻ってきた。いい遊びを見つけたと目を輝かせている。
料理が台無しになってしまったが、ストレージに保管してあった他の料理を少しつまんで食事を済ませる。
ミケは「せっかくのぺペロンチーノが台無しじゃ!」と、一番引きずっていたが、ケーキはしっかり食べた。
今日は戦闘もしたし、砂塵の舞う中の移動をしていたので、風呂に入ろうということになって準備をすすめる。
[ユウト様、何をなさっているのですか?]
ピルムが不思議そうに聞いてくる。
「これはな、お風呂に入る為に準備してるんだ」
[お風呂? って何ですか?]
「ん~っとな、川とか湖で水浴びするだろ? それを温かいお湯でやるんだ」
[へぇ~、そうなんですか……]
ピルムは、風呂に興味ありそうだが、さっきの件もあるから遠慮してるな。
「入る直前に人化して、ちょっとでも入ってみるか?」
[いいんですか?]
「ああ、もちろんだ」
俺達が洗髪や体洗いを済ませて湯船につかり、ピルムも呼んで人化させる。
「すぐに入るんじゃなくて、体を流して、綺麗にしてから湯船にはいるんだ」
[はい!]
ピルムは嬉しそうに掛け湯をして、体を綺麗にしてから入ってきた。
[わ~! 生まれて初めてのおふろ~、温かくて気持ちいいですね~。疲れが取れる感じがします]
バイ~ン! バシャー!
「うおっ」「またかー!」「きゃー!」「やったー!」
それぞれ弾き飛ばされた場所から戻って来て、寝る身支度を整えていると、ドラゴン姿のピルムがロックドームの中を興味深そうに、身体を折り曲げて覗いている。
「ピルム、気になるか?」
「「ユウト!」さんっ!」
「お主、何度繰り返すのじゃ!」
「そうです!」
「またやるの? やったー!」
ミケとアニカが慌てて止めてくるが、俺は止まらない。ほら、アニタもやる気だ。
結果がどうなるかわかりきっているが……やめられない止まらない! うずうずしているんだ!
結局、中の物を一旦全部ストレージに仕舞うという条件で、ミケには納得してもらった。
「入ってみな?」
[はい……うわぁ! 中はこうなっているんですね? 1人ひとりの距離が近くなっていいですね~]
ミケとアニカは、もう離れたところで俺達をただ見ているだけ。
アニタはワクワクしながら、ピルムの隣で待ち構えている。
[いいなぁ~。私も一緒に中で過ごせるようになりたいです]
バイーン! バーン! ガラガラ!
「うわー!」「きた~っ!」
……瓦礫を片付け、ロックドームを作り直して寝床を準備すると、アニタはもう夢の中。
俺とピルムがミケから呼び出しを受けた。
そして、なぜか俺も正座させられているんだが、ドラゴンと人間の大きさの違いって凄いな……
「ユウトよ! 結果の見えている事をわざわざやりおって~! いい加減にせぬかぁ!」
「わ、悪かったよ~」
「ピルムよ! 次にやってみよ! お主を食材にしてやるぞ!」
[は、はい~! ごめんなさい!]
「食材になってしょくざい(贖罪)……」
「うるさい! 親父ギャグをやめんかぁ!」
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