86 / 121
第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第85話 龍人族の謎と戴冠式。
しおりを挟む昨日は美味しい夕食を食べて、客室係にお風呂を用意してもらって風呂にも入って、リフレッシュできた。
公都でも何やら王国で王の交代があるぞだの、あったぞだの噂が駆け回っていた。
俺達は公都を発つ前に、宮殿のキースのメイドさんに挨拶しておいた。そうしたら、お菓子を持たせてくれた。……いい人。
途中ダイセンのブレンダの様子を見つつ、王都に戻った。
「すまないね。午後には時間が取れるようにするから」
キース達は、まだ慌ただしく働いている。
フリスの王権返上と、アムートの国王即位を報せ、早期の登城と臣従を求める旨の書状が国内各地に送付された。
俺達も暇だったので、俺とアニタは2人で、汚い城に《クリーン》をかけて回った。
アムートの即位祝いだ。
見違えるように白く輝く城になり、城下の民衆たちも喜んでいた。
ミケが壊した壁や屋根は……見ない振りだな。
ミケとアニカは、冒険者ギルドに行って、なにやら売れ残りの依頼を処理してまわっているらしい。
俺の汚名はマッカランの公都周辺だけなんだが……。まあ、人々の役に立つのはいいことだしな。
昼近くになると、王国を包囲してくれていた各種族が続々と王都に入り、いよいよお祝いムードだ。
午後には、アニタにはミケ達に合流してもらい、王城の1室でキースと2人で話す事ができた。
「メルティナがいただって!?」
「ああ、確かにこの耳で聞いたし、姿も見た。仮面で顔は隠れていたけど、角は凄くカールしていたぞ」
「それは本物かもしれないな……。しかも鎖に繋がれていたって?」
「ああ、もう1人の女と一緒に、首輪も付けられていたぞ?」
「首輪? もしかして……、いや……」
キースが首輪に反応して考え込んでしまった。
「ユウト殿達が、ガンダーを倒した事は、まだ伝わっていないはず……。その魔王軍第2席のメルティナが鎖でつながれているなんて。それに、その2人を連れていた男とやらも不気味な存在だな」
次に、俺がずっと疑問に思っていた事をキースに聞いてみる。
「龍人について?」
「そう、バハムートの記憶だと、龍人族は対魔王連合にいたはずなんだけど?」
「……確かに40年前は、共に魔王軍と戦った同志だった。それが、いつだったか大戦士サリムドランが行方知れずになった辺りから疎遠になり、遂には魔王軍に与するようになってしまったんだ」
サリムドランか。
「サリムドランの居所は?」
「いや、掴めていない。生死も不明なんだ」
「“ドラゴンの巣”には?」
バハムートの記憶では、龍人族――ドラゴニュートは、元々魔大陸とユロレンシア大陸の間、北寄りにある“ドラゴンの巣”と呼ばれる島にいたはずだ。
ドラゴンが棲家とする山々がそびえる、マッカラン大公国ほどの大きさの島に集落を築いて、ドラゴンと共に暮らす種族だった。
龍人族は、ドラゴンの血を引く種族と言われ、どの種類のドラゴンの血を色濃く引いているかは、髪の色に表われるという。
そして、魔人族と同じように、頭には1対の角を持つという。違いは角が鹿とかのように、枝分かれしていることだ。
大戦士サリムドランは、他の龍人族が、赤(火)や水色(水)、白(風)、茶(地)といった髪色なのに対し、黒い髪色をしていた。
「う~ん? どうだろう。元々、ドラゴンの巣には近づけないからね。とにかくサリムドランがいなくなってから、ここ10数年はユロレンシア大陸北西部に進出し、私の国や獣人領と領土戦争をしているほどなんだ」
……結局、疑問の解決には至らなかったな。
それから1日挟んで、いよいよアムートの戴冠式だ。
今回の戴冠式は、城門前の広場で、王都の民達にも見える形でやるそうだ。
教皇ローレッタが立ち会い、更に各種族の長が参列する、正式かつ最も格式高い戴冠式が始まった。
「ユ・ウ・トちゃ~~ん!」
ピシッ!
「いったぁ~い! なにぃ?」
俺達は関係者ということで、それなりにいい位置から戴冠式を見ているが、リーファがいつの間にか近くにいて、俺にちょっかいを出そうするたびにミケの電撃をくらっている。
アニカは参列している女性の衣装1つ1つに興味を持って見ていて、アニタはミケとお菓子を食べながらじゃれあっている。
「リーファさんは、あっちの来賓席にいなきゃダメなんじゃないですか?」
本来リーファが座るべき椅子には、リーファの側近が苦虫を噛み潰したような表情で座り、俺の方を睨んでいる。
「いいのよ~。私本人は来てるんだし~」
ピシッ!
「痛ーい! 何なのコレ?」
そして、もう1人の要注意人物・ローレッタも式典の最中にも関わらず、時々俺に逝っちゃってる視線を送ってきている。
と言っても、ローレッタの場合は俺自身というより、俺のスマホに宿っているニアに対しての視線なんだけどね。
……でも恐い!
ピシッ!
いよいよアムートが王冠を頭上に頂き、諸侯達がひざまづいて臣下の礼をとって、戴冠式が終わった。
ローレッタが来そうだったので、俺達は一目散に公都まで退散した。
まあ、公都と王都行ったり来たりしてるんだけど……
余談だが、フリスにも妻子や側妃がいたが、女性は辺境の修道院に送られ、男性はどこぞに幽閉か小さい子は孤児院に送られたそうだ。
フリスは、アムートの温情で処刑は免れたが、ミーナに対する所業は許されるはずもなく、同じような環境に生涯閉じ込められることになった。
アムートが王都入りした日以降、王城の一角のどこかの塔から、夜な夜な「出せー」だの「余が国王だー」だのといった戯言が聞こえてくるようになったそうな、なってないそうな……
0
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
クラス転生~陰キャ男子の革命劇~
鶏カカシ
ファンタジー
昼休みも教室の端っこで一人寂しくパンを食べていたボッチ陰キャの真部雄二は、ある日の午後の授業、授業中にも関わずウトウト居眠りをしていた。静かだった教室が一変して騒がしくなる。
ある生徒が輝きだし、気が付けば担任の先生も含めてクラス全員が異世界に飛ばされてしまった。そこはまさに王道異世界ファンタジーの世界。しかも呼ばれた理由も魔王を倒すため!
剣アリ魔法アリの異世界でボッチ陰キャの真部はクラスメイトとうまくやって行けるのか、対立してしまうのかーー?
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる