上 下
80 / 121
第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第79話 王権奪還計画、始動。

しおりを挟む

******正午

 エンデランス王国の主要都市。
 各地に派遣された騎士や上級冒険者によって、前王太子バハムートの遺児アムートの生存が公表された。
 同時に、フリスの王権の不当性の提起、フリスの悪政が民の窮状を生み、国を衰退させている事への糾弾を唱え上げる。
 そして、アムートの名において、フリスへの退位要求が高らかに宣言された。


******エンデランス王国王都、正午


 教会前にある広場には、食べ物屋の露店がならび、昼食を求める人々がごった返していた。
そこにフードを目深にかぶった男が、広場やその周辺の喧噪の中にいる人々に届くほどの大きな声を発した。

「王都の民よ、傾注せよ!!」

 ゴーシュである。
 教会を背にして立つ男のその一言に、周辺の人々は何事かと、声のした方向へ注意を向けた。喧噪も静まる。

「今をさかのぼること40有余年、我らが王太子殿下バハムート様がお亡くなりになり、国王陛下も程なくご落命なされた」

 俺とミケ・アニカ・アニタは教会の屋根上にいて、ゴーシュを見守っている。

「結果、第2王子であったフリスが王位を継承したが、それで良かったのであろうか? 否! 断じて否である! 前国王陛下の正当なる後継者はバハムート王太子殿下ただお1人であり、その後継者もただお1人である!」

 人々の中から「何を言ってるんだ? こいつは」「40年前の事を今更か?」などとつぶやきがポツポツ漏れ出し、ざわざわし始めた。

「我は、バハムート殿下の遺児であらせられるアムート殿下から、ありがたくもお役目を賜り、今この場で宣言する! 『バハムートの遺児アムートこそがエンデランス王国の正当なる王である』と!!」

 まだざわめきもあるが、人々の目はゴーシュに釘づけになっている。

「現国王のフリスは、配下にバハムート殿下の邪魔立てをさせて落命せしめ、前国王に毒を盛って御命を奪い王位に就いたのである! これが正当な後継者と言えようか? 否! これは王権の簒奪さんだつである。フリスは姑息な手段で王位を掠め取ったのだ!」

 人々は、ゴーシュの弁舌に聞き入り、つばを飲み込む。

「そのフリスの治世はどうか? 皆は今の世に満足か? 否! 簒奪者さんだつしゃフリスは善政を敷くならまだしも、その治世においても自らの利益のみを追い求め、我々民衆の生活は苦しくなる一方である!」

 人々の中から「そうだ」「そうよ」と賛同の声が上がる。

「だが、安心せよ! 我らがアムート殿下が、雌伏しふくの時を終えてお立ちになられる! 我らがアムート殿下が、我らを今の窮状からお救い下さるのだ」

 人々の賛同の声が、大きなうねりとなって、広場を埋め尽くしていく。

「よって、アムート殿下は、その御名においてフリスに要求する! お前は即刻王位を退くのだ! 退位し、正当なる王位継承者アムートに王権を返還せよ!」

「おーー! アムート殿下に王権を!」
「フリスー! とっとと辞めろー!」「辞めろ!」「辞めろ!」

 王都を巡回している騎士達が、人々をかきわけて止めに来るが、止められるわけがない。
 ゴーシュは俺のロックウォール先生の上にいるのだから騎士達の手は届かない。
 民衆の熱は高まっていく。
 騎士達は、ゴーシュを引きづり下ろすのをあきらめて、民衆の排除に切り替えた。
 そんな事はさせない。

「ほれほれ」――ボワァ! ボワァ!
「たぁー!」
「てや~」

 俺達は4人で散って、民衆を脅している騎士達を蹴散らして回る。
 民衆たちの熱狂の声は、王城にも届く程に広がっていった。


******王城


 ゴーシュが読み上げた檄文げきぶんは、ほぼ同じ内容の物がフリスの王城にも届けられていた。

「ぐぎぎぎぎぃ! アムートだとぉ~? 生きておったのかぁああああ!」

 フリスは、自分の元に届けられた檄文をぐしゃりと握りしめて、怒りに震えている。
 
「40年も経って、今頃ノコノコ出て来おってェええええええ!」

 城内にも民衆の「辞めろ」「辞めろ」の大合唱が響いている。

「え~~~~いうるさい!! 五月蝿い煩い! はやく愚民共を黙らせて来い! 殺してもかまわん! 黙らせろ~~~!」

 フリスは、檄文を切り裂き切り裂き、辺りに撒き散らしながら、側近たちに事態の収拾を命令した。
 その時、取り巻きの1人が、息を切らしながら別の書状を持って走ってきた。

「へっ、陛下! こ、こちらを、ご覧ください」
「次はなんじゃ!」


******5日前、大公国キースの執務室


「そして、第2段階は、王国の包囲とフリスへの再びの退位勧告と諸侯への降伏勧告だ」

 獣人族には、マッカラン大公国を通過して、魔人族が撤退して手薄になった王国北西部から北部一帯を包囲してもらう
 同じくドワーフ族とエルフ族にもマッカランとエンデランスの国境を包囲してもらう。
 ディステとエンデランス王国の国境はディステの宗教騎士団と、傭兵国キタクルスの傭兵が包囲。

「そして、第1段階実行後、足並みをそろえてエンデランス国内に進軍。この時に、各主要都市に潜入した者達が、その都市を治める領主に対して、降伏勧告をするまでが第2段階だ」

 この作戦は足並みをそろえ、同時に行う事が肝なんだ。国内各地から、一度に大量の緊急事態の報を流させる事によって、フリス側の思考を停止させ、無駄な抵抗をさせない為でもある。……漫画の知識だけどな。


******現在


 キースの計画通り、各都市に潜入した騎士や冒険者は、檄文の発布後、熱狂する民衆を引きつれて各領主屋敷へ向かい、降伏勧告の書状を叩きつけた。

 王都のゴーシュもまた、俺達が騎士を蹴散らしている内に、岩壁から下りて民衆を引きつれて王城へ向かい、フリスへの退位勧告の書状を門兵に叩きつけた。


******王城、謁見の間


「包囲してるだ~? 退位しろ~? ふざけおって! 包囲など蹴散らせ! 何のための騎士団だ!」

「陛下! 北部や東部の領主から救援要請の鳥文がきております! のろしも上がっております!」
「同じく南東部からもです!」
「何!? 王都だけではないのか!」

「陛下! 王城が取り囲まれていて、早馬が出せません!」
「そんなもの、城内の騎士団で愚民共を押し潰せばよかろうがっ!」
「それでは民がいなくなってしまいますぞ?」
「国なんぞ、王がいれば、余がいればなんとでも再建できる! 煩い愚民なんぞ踏み潰してしまえ!」

「陛下! 北東部、ダイセンの領主が降伏ののろしを上げています!」
「くっ! ダイセンめ~! 余の為に戦わないばかりか、降伏など~~~! 許せん!」

「お、終わりだ……」
「これ以上何をしろと……」

 次々に舞い込む救援要請や降伏の情報、そして、城外の民衆の異様な雰囲気にのまれ、王城は徐々に思考停止して行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...