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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第68話 宮殿の昼餐。そして、ミケ達の決断。
しおりを挟むアムートがエンデランス王国の王権奪還の決意を固め、俺もキースも協力をすることが決まった。
大まかな流れが定まったところで、3人だけでの昼食会が開かれた。
部屋もそのまま“女神の間”で、給仕も先程のメイド1人、扉番も同じ騎士達。
キースはこの会談をごく少数にしか関わらせず、秘匿しているようだ。
「そうだね。何処にエンデランスの耳や目があるか分からないからね。用心に越した事はないよ」
気が気でなかった今日の朝までとは違い、今回はしっかり味わう事ができる。
コンソメスープの様に黄金色で透き通っているが、味がミントに近い香草スープ。味自体は青臭さを取り除いていて美味しいが、視覚情報と味覚の違いに頭が混乱している。
次に薬草と香草、ダンジョン産の果物のスライスにカシューナッツ? みたいな豆系オイルがかけられたサラダ。これが絶妙のハーモニーで美味いの何の!
「あ、この果物、ダンジョンで食べてたやつだ!」
「何!? それはダンジョンでも20階層以降の森型ダンジョンで採れる果物だぞ? 中級以上のダンジョンだ」
「は? それはないだろう。20層なんてモンスターがヘビだの鳥だの、捉えにくい奴なだけじゃないか」
「「…………」」
キースとアムートは何故絶句しているのだろう?
「20階層って確か、連れが毒蛇に噛まれて倒れたり、ジャイアントオークに朝一で叩き起こされたりしたくらいかな? 印象に残っているのは」
「ポイズンスネークに噛まれて生きているのか? それにジャイアントオーク!」
「何言ってんだ? 解毒すればなんてことないだろ? それより、この果物だろ?」
ストレージから白いリンゴの様な果実を取り出して見せる。
「まあ! 立派だこと!」
給仕のメイドが思わず感嘆の声を上げた。
「し、失礼致しました!」
「いや、これほどの大きさには余程魔力濃度が高くなければならないはずだ……。それも極僅かな量が」
メイドもキースも何を言っているんだ? いっぱい生ってたぞ?
次の料理は魚だ。生魚のスライスに塩と香辛料、ワインビネガーみたいな酢がかかったシンプルな料理。シンプルだからこそ美味かった。
メインは肉料理。ワイバーン肉のステーキ。肉自体の味も焼き加減も抜群だ。
魚には魚に合った木の実が入ったパン、肉には肉やソースに合うパンが出された。どちらも柔らかくて美味かった。
「このワイバーンは、一昨日冒険者ギルドに持ち込まれた過去最大級のワイバーンを仕入れたらしいぞ」
「ほう! そのような物、余程の高ランクパーティーが複数であたったのでしょうな?」
今度はキースがイタズラっぽくウィンクしてきた。アムートを驚かせたいらしい。
「一昨日ってことは、確か、遠くの村にワイバーンの巣を駆除に行ったな。俺は何もやってないが」
「何パーティーで戦ったんだい?」
「パーティーも何も3人でやってたぞ? 6体かな?」
「なっ!? 3人ですと?」
「3人って、あの12歳のアニタちゃんも戦ったのかい?」
キースも驚きのあまりに発言し、手で7を作って聞いてくる。
「もちろんだ。アニタはすばしっこくて攻撃も強いぞ」
「12歳!? 登録してたての新米ではないですか?」
アムートは驚きっぱなしだ。
デザートは、こちらの世界に来て初めて、ケーキに近い物が出た。揚げパンとかではなく、スポンジ生地に生の果実とシロップ漬けの果実を交互に何層も重ねて透明な薄い飴で包んでいる。
薄い飴のパリパリと、生果実のしゃきしゃき、シロップ漬け果実のしゃりしゃりした食感がマッチして、とても美味かった。
宿の料理も美味しいが、流石宮中料理と言ったところだな。
「あ! そう言えば、お菓子とかデザートをお土産で貰って来いって言われてたんだ! 今のまだあります?」
「ああ、お土産に包ませよう。他にお菓子もね!」
キースがメイドに合図を送り、お土産の用意を頼んだ。
「その代わり、これを貰っていいかい?」
出しっ放しにしていた果実を差して聞いてくる。
「それでいいのならどうぞ?」
アムートに何もなしは可哀そうなので、同じのを取り出して渡した。
「なっ! これほど立派なのを2つもお持ちだったか! これほど貴重な物……ありがたく頂く」
だから、いっぱい生ってたって!
午後は、アムートの出自公表の時期や方法の検討や、俺を通じて各国に送付する書状の準備などに当たるそうだ。
各国には明日の朝出立する事に決まった。今日はもう俺の出番はない様なので、お土産をもらってとっとと退散する。
宿について一息つく。
今日はまだ半日しか経ってないが、気疲れしたな。
小一時間ほど昼寝をして精神も回復したので、ミケ達を待つ為に冒険者ギルドに行こうとしていたら、ミケ達が帰ってきた。
「おかえり。みんなお疲れさん」
「おお、ユウトも戻っておったか?」
「ユウトさんもお疲れ様です」
「ただいま~、おかえり~」
「ミケ達も早かったな」
「ま、まあのぅ。大した依頼が無くてのぉ~」
「……」「バーっとおわちゃった~」
嫌な予感がする。この場合、アニカの反応を信じるべきだが……、信じたくない!
夕食まではまだ時間があるので、今日宮殿であった事を伝える。
「でな? 急なんだけど明日から5~6日かけて、時計回りに獣人国・ドワーフ国・小国家連合の商業国家オーサク・真ん中のエルフ大森林・最後に南の宗教国家ディステの順で、お遣いに行くことになったんだ」
「「「ええ~!」」」
「移動しては偉い人と話して、また移動しての繰り返しだけど……、どうする?」
「「「ええ~!」」」
「ミケ達はここに残った方が、暇にならなくて済むと思うぞ?」
「う~む。……ちょっと待っておれ」
3人は部屋の端に移動して、何やらヒソヒソと話し合っている。
……10分ほどかけて話し合われた。
「仕方ないのぉ、我らは留守番じゃ。ここに残って依頼をこなしておこうかの」
アニカとアニタも頷く。
「――じゃが! するでないぞ?」
「するでない? ……何を? 浮気とか?」
「はぁ? 浮気しないなど当然の事じゃろっ! 観光じゃ、観光!」
「へ? 観光?」
「そうじゃ! そう言うのは、我と――ウヴン! 我らと揃ってするものじゃ! わき目もふらずに仕事だけして帰ってくるのじゃ!」
アニカとアニタもうんうんと頷いている。
「あ、ああ」
「――それから!」
まだあるの?
「今日は夕飯を食べたら、外に泊まるぞ!」
「そと?」
「巣じゃ“巣”! 後、風呂も作るのじゃ!」
夕食後は、ご要望通りに公都近郊の断崖を探して“巣”を設置し、みんなで風呂にも入った。
キースから貰ったお土産でお菓子パーティーを開催して、満足してから眠りにつく。
久し振りに“巣”に泊まったが、何だかいつもよりみんなが密集している気がする。
まあ、期限付きとはいえ、しばらく一緒にいられないからな。
……こんな密集もたまにはいいな。
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