68 / 121
第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第67話 女神顕現と決意。
しおりを挟む「か、閣下! お止め下さい!」
キースがアムートの出自を明かし、これまで隠し続けていた事に対して深く頭を下げた。
アムートが、頭を下げるキースを慌てて制止する。
「閣下の仰られる事は、まだ現実として受け止めきれていませんが、とにかく頭をお上げ下さい」
キースは扉を開いて指示を出すと、先程のメイドが新しい紅茶を入れてきた。
アムートは部屋の隅に立ち、1人外を眺めながら考え込んでいた。
俺は、やはりアムートから目が離せないでいる。まるでバハムートがアムートの姿を目に焼き付けようとしているようだ。
再び扉が閉じられ、改めて席に着く。
「さて、これでこの場には、大公国の主である私とエンデランス王国の“正当な”王族であるアムート様がいるということだ」
「閣下、せめてその呼び方は……」
「では、アムート殿と呼ぼうか。だが、アムート殿も私を閣下などと呼ばなくてもいいのだよ?」
「……はい」
「では、ユウト殿が何故同席しているのか?」
キースは、これもディスティリーニア様に誓ってと前置きした上で、丁寧に経緯を伝えた。
当然、話の流れで俺のステータスも公開した。
名前 : バカユート
種族 : ヒト族
年齢 : 24
レベル: 13
称号 : -
系統 : 製作 武〈長剣〉
スキル: C・土属性魔法〈3〉
「「…………」」
「――あ、違った。ゴメン!」
名前 : ユウト ババ
種族 : 人族
年齢 : 24
レベル: 77
称号 : 世界を渡りし者 英雄
系統 : 武〈長剣〉 魔〈全〉 製作 商
スキル: S・聖剣技〈10〉 SS・魔法大全〈9〉
A・言語理解 A・魔力回復‐大‐ A・使用魔力低減‐大‐
B・探知〈7〉
「これだった……」
何気に探知スキルが〈7〉に上がってる!
「どうだ? アムート殿?」
「はぁ……、確かに見知らぬ称号や高ランクスキル。特に【聖剣技】はバハムート様――いや、父か? 父!?」
アムートはまだ混乱の最中のようだ。
「しかし、父が亡くなって40数年、新たな【聖剣技】保持者が誕生していてもおかしくないのでは?」
「それはそうだが、俺には記憶がある。」
俺は、キースが敢えて話さなかったバハムートの記憶について伝える。
「あなたの実の母親、ミーナとの馴れ初めや生まれたばかりのあなたとの初対面。最期の場面まで生々しく俺の中に刻まれているんだ」
「しかし……」
それでもアムートは、なかなか受け入れ難い様子をしている。
ブッ! ブッ! ブッ!
不意に、スマホのバイブ音がしたと思ったら、部屋に祀られているディスティリーニア像が輝きだした。
「なんだ?」
俺がポケットからスマホを取り出すと、ニアが姿を現した。
「ニア?」
ニア自身も光を纏い円卓の中央に浮いていた。
「――ディスティリーニア様!?」
キースもアムートも敬虔な信徒らしく、すぐさま椅子から離れて、膝をつき祈りを捧げる。
「アムートさん、この場でキースさんとユウトさんのおっしゃった事は、真実です」
いつものニアとは少し違い、威厳の様なものが感じられる。
「私は、バハムートがこの世に誕生した時に、しっかりとした意図を持って聖剣技を与えたのです。そして彼はそれを良く生かしてくれていました」
キースとアムートは祈りの手のまま、ニアを仰ぎ見て、言葉を聞いている。
「しかし彼は、一部の人間の愚かな――本当に愚かな行いによって、命を落としてしまいました」
そして、ニアは俺の説明を裏付けるように、バハムートの魂がカストポルクスから地球という星へ流され、俺の中に入った事。
俺が紛れもなく、地球から転移門をくぐってやって来た事をゆっくりと丁寧に伝えた。
“女神の間”という大公国にとって特別な部屋で、ディスティリーニアが降臨して掛けた言葉に、アムートはようやくこれが真実なのだと受け入れた。
ニアが姿を消した後、2人はしばらく放心状態だったが、気を取り直して再び円卓に戻ると、キースが口を開いた。
「これからの話だが……、自らの出自を理解した今、アムート殿はどう考える?」
「どう考えるも何も……、私が英雄バハムートの遺児だと分っても、閣下、――キース殿の御側に仕え、クラウゼンを治めるビンス伯爵であることには変わりはないと考えております」
アムートは伏し目がちになり、続ける。
「――それに、やはりビンス家の今は亡き“父と母”にも親愛の情があるのです……」
「それに関しては、なんら後ろめたく感じる必要はないよ」
俺が割って入る。
「えっ?」
「バハムートは、あなたが生きていてくれただけで良いんだと思う。生みの親であれ育ての親であれ、“親”に親愛の情を持ってくれているあなたを誇りに思っているだろう」
「……そうだろうか?」
「そうさ。俺は前伯爵夫妻の事を知らないが、彼らは自分たちの子として、愛情深くあなたを育てたのだろう。彼らを忘れたり、愛情を捨てたりする必要はないさ」
アムートの気が晴れたのを見て取ったキースが話を進める。
「その上で、エンデランス王国をどう思う?」
「エンデランスですか……」
キースもアムートも当然知っているだろうが、俺が見てきた状況も伝える。
「俺が見てきた限りでは、あのフリスは、この40年余り国を統治出来ていない。富や民をすり潰しているだけだ。王都、王城でさえ公都とは比べるまでもなく荒んでいるのは判るだろ?」
「ユウト殿の言う通りだ。フリスは、いくら王とはいえ専横が過ぎる。これではバハムート様が命を賭けてまで守った国が、自ら滅びの道を辿ってしまう。だから――」
キースは、アムートの目を見据えた。
「――アムート殿がその気であれば、私は貴殿の王権奪還を後押ししたいと考えている」
「し、しかし! 今キース殿の元を離れるのは……」
「今と言うが、今の王国の惨状はどうする? 苦しむエンデランスの民は? 年々悪政が進行しているのは知っているだろう?」
キースの言葉に、アムートが考え込んだ。
「それに、私が掴んだ情報によれば、アムート殿の母親は存命で、王城の一角に囚われたままの可能性が高いとの事だ……」
「生きておられるのですか!?」
アムートは再び考え込む。
部屋は静寂に包まれ、俺とキースはアムートの決断を待った。
「……わかりました。エンデランスの民の為に起ちましょう!」
「「おお!」」
「――ただし、このままではいけません。ユロレンシア大陸の他の国々からの承認がない中で事を起こせば、私とてフリスと同じ簒奪者の誹りを受けかねません」
「うむ! その通りだ。だが、心配には及びませんぞアムート殿」
キースも同様の事を考えていて、手は考えてある。俺もその解決に協力することになっている。
「アムート殿には、決起の承認と後援要請の書状をしたためてもらいたい。私も自らが後ろ盾になった事と協力要請の書状を用意する。それを届ける使者をユウト殿に務めてもらう」
「ああ! もちろんだ」
俺は大きく頷いて見せた。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)
くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。
滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。
二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。
そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。
「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。
過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。
優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。
しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。
自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。
完結済み。ハッピーエンドです。
※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※
※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※
※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※
※あくまで御伽話です※
※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる