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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。
第54話 エルフの女王リーファと教皇ローレッタ。
しおりを挟む結局荷台に座らされたまま、夕方近くまで待たされた……
ようやくゴーシュの元に指示が来たようだ。
「呼ばれたようだで、行こうか」
俺だけ対魔王連合の代表者達から、直々に取り調べがあるとのことだ。
ミケ達は、俺の調べが終わるまで別室待機という事になったらしい。
“みんな、特にミケ! 万一の時でもやり過ぎるなよ? いいな? おとなしくしてろよ”
“はい!”“は~い”
“もちろんじゃ! 知的で格好良い我がやり過ぎる訳がなかろう! のぅ、アニタ?”
“うん!”
う~ん、言葉と表情が合ってなんだけど……。不安だ。
ゴーシュがそのまま連行役になったみたいで、それはそれで良かった。
「国王の命令で縛らなければならなくなったで。……よいか?」
「ああ、別に構わないよ」
縛られていようが、俺自身の力や魔法でどうとでもなるし、ポケットにはスマホも忍ばせている。
手首を縛られて腰に縄を通された俺と、連行するゴーシュを取り囲むように王国騎士が数人付いて移動する。
使用人や下級騎士用の出入り口から城に入る。
外観だけでなく、城内も幾分掃除がいき届いていないな。
華美に飾り立てられたエントランスホールを横切り、また使用人用の狭い階段を上ったり狭い通路を通ったりしながらようやく辿り着いたようだ。
騎士が報告の為に入室する時にチラッと内部が見えた。
対魔王連合では、国の大小や強弱など関係無しに協力すると謳っているらしいが、きちんと上座が設けられていて、尚且つ一段かさ上げされていてテーブルも椅子も豪華になっている。
あれがエンデランス国王フリスの席で、鎮座しているのがフリスだろう。人間の小ささ、心の狭さが随所に垣間見えるな。
中から声が漏れ聞こえてきた。
「連れて参れ」
ゴーシュに引っ立てられる形で室内に入る。
ガタン! ガタッ! バターン!!
俺が入ったとたん、2人の女性が椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「な! なんじゃ貴様ら! 驚かせるでないわっ! す、座れ!」
2人はフリスに怒鳴られて我に返り、平静を装って着席した。
1人はバハムートの記憶にはっきりと刻まれている。スラッと伸びた耳、薄緑色の髪とまつ毛、翡翠色の瞳。
エルフ族の女王、リーファ・トゥインクルウッドだ。
もう1人は聖職者っぽいな。純白を基調とした聖衣と冠の様な刺繍が入れられた帽子を身につけている。
とても驚いた様な顔で目を見開いていたので、透き通るような青い瞳が印象的だった。
「こっちだで」
ゴーシュから導かれた部屋の中央には、さながら被告人の証言台の様なものが設けられていて椅子は無かった。
「この男が我が国の領土に現れた門から出てきた者であります。ヒト族で、名をユウトと申しております」
リーファ・トゥインクルウッドが、えっ? という表情。
「ユウトよ、こちらにおわす方々は――」
ゴーシュは、一番最初に中央に鎮座するフリスを紹介した。
ほっそりした顔立ちにギョロっとした目、薄いひげを無理に伸ばして威厳を出そうとしているようだ。この場に必要無いだろうに、派手に装飾された宝冠を被っている。
そして、左端からマッカラン大公国のキース・フォン・マッカラン大公。フリスと同年代なはずだが、フリスより若々しく覇気もある。
獣人族代表のライゼル、獅子種族。エルフ族の女王リーファ。
フリスを挟んで、宗教国家ディステの教皇ローレッタ。さっき立ち上がった女性だ。
その右にドワーフの国王ゴダン。バハムートと共に戦った時は王子だった。ゴーシュを、縮めて拡げて厚くした感じでゴツイ。
右端は、2つの農業国と1つの商業国家と傭兵国家の小国家連盟の盟主、商業国家オーサク代表のエティゴーヤ。いかにも切れ者といった感じだ。
俺はこの7人、さらにその従者達に前を囲まれる形で立たされている。
今や、エンデランス王国を凌ぐほどの国力を持つ勢力のマッカラン大公を端に追いやり、自分の両脇を美女で固める辺り、フリスの性格のいやらしさが窺える。
それと……今、複数の人間から魔法が発動された感じがする。おそらく《アナライズ》だろうな。
******エルフ族女王、リーファ・トゥインクルウッド
王国の騎士に引っ立てられて男が1人入ってきた。
――!! バハムートちゃん!?
ガタン! バターン!!
見た目は全然違うのは解ってるのよ。……でも、あの男の魔力はバハムートちゃんの魔力にそっくり!! いいえ、同じよ!
忘れたくても忘れられないないわ、私の愛しのバハムートちゃんの事は!
何? 何がどうなっているの!?
「な! なんじゃ貴様ら! 驚かせるでないわっ! す、座れ!」
はっ! いけないわ。お、落ち着かなくっちゃ。い、一旦座って、冷静にあの男を見極めるのよ。
「この男が我が国の領土に現れた門から出てきた者であります。ヒト族で、名をユウトと申しております」
えっ!? やっぱり違うの? そんな……、同じ魔力を持つなんて、本人以外有り得ないのに!
王国の騎士が私達の紹介をしてるけれど、そんなことはどうでもいいのよ!
彼の話が聞きたいのっ!
――そうだわ! 後で直接聞けばいいんだわ!
そうするわ! あ~、そうと決まれば、早く終わらないかしら? これ。
このフリスって男、話し始めると長いのよね~。勘弁して欲しいわ、全く!
******宗教国家ディステ、教皇ローレッタ
王国の騎士様に連れられて殿方がお1人入っていらっしゃいました。
――!! ディスティリーニア様!?
ガタッ!
あ、あの殿方がディスティリーニア様では無いのは明らかです。……ですが、あの殿方のお召し物? から、濃密なディスティリーニア様の気配が致します!!
私が教会に身を捧げてから、最も求めてやまなかったディスティリーニア様の気配です!
何なのです? あそこには何があるのです!?
「な! なんじゃ貴様ら! 驚かせるでないわっ! す、座れ!」
ハッ! 私とした事がはしたない。……取り乱してはいけません。座って一旦落ち着きましょう。
「この男が我が国の領土に現れた門から出てきた者であります。ヒト族で、名をユウトと申しております」
ユウト様と仰るのね。
王国の騎士様が私達をご紹介下さっているのですけれど、今はそれどころではございません!
ユウト様のお持ちの物が気になりますの!
――そうですわ! 後で直接お聞きすればよろしいんではなくて?
そう致しましょう! そ、そう致しますと、早く終わって頂きたいですわ! これ。
このフリスという方? いつもお話が長いんですの。いい加減にして頂きたいですわ、全く!
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