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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第32話 グンダリデ、釣られる。

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「さて、ライノでひしめいているスロープをどうやって空にしようか?」

 魔法大全のレベルが〈9〉になって、使えるようになった強力な魔法もある。
 風で吹き飛ばすか? 重そうなライノを? 火属性の高等魔法は爆発系だからヤバいし……いや、水属性魔法だな。

「よし、決めた! ミケ、《フライ》を掛けるぞ!」
「いつでもよいぞ!」

「水属性魔法、《ローグウェーブ》!」

 スロープへ向けられた大波がライノの巨体を浮かせながら51階層へ押し流していく。
 手前にいたライノ2体は敢えて残した。

「アニカ、アニタ、こいつらをきちんと倒せよ! あと、倒した後も気を抜いているなよ! 行ってくる!」
「「はい!」」


 スロープは敢えてミケに先行してもらい、敵の注目をミケに集める。
 ミケはわざとスロープ前に群がっていた集団の中央辺りの空中で、ガルーダ戦の時の様に魔王軍を見下ろして挑発した。
 俺はミケに注目が集まった所で、ハイスピードで通り抜け、奥まで向かう。
 
 
 51階層に入った瞬間、むわっとした溶岩の熱気に包まれた。

「おいおい、ホントに多いな。普通こいつらと戦うのって軍隊並みの人数が要るはずだよな……、こっちは4人だぞ?」

 奥のスロープ前まで直行し、幾重にも蓋をする。
《インダクション》で誘導を掛けつつ戻ると、まだインダクションを掛けていない魔王軍が既にスロープに殺到していた。
 ミケがいないという事は、相手の指揮官を釣ったという事か?

「確かめようにも通れないじゃないか。……よし! さっき使わなかった風属性魔法でも使ってみるか?」

 スロープに殺到している魔王軍の横に回り込み、《トルネード》を放つ。
 手前から集団に向かって竜巻が発生し、魔人族やモンスター共を巻き上げながら奥へと進んでいった。

 
 スロープ前は空白地帯になり、俺が素早く確保して、《ロックウォール》で入り口を囲って侵入を防ぐ。
 スロープにはライノと魔人族が詰まっていて、なぜかバランスを崩して将棋倒しの様になっていた。

「何だこいつら? 殺して下さいって言ってるようなもんじゃないか」

 まぁ、チャンスタイムだと思って次々と斬りつけていく。

「ギャーッ!」「グワァ!」「ぐえっ」

 集団の前の方で、もがいている魔人が上体を起こし、振り向く。

「おい! 今度はなんっ」

 言い終わらないうちに首を飛ばす。


 スロープの敵を全て斬り倒して50階層フロアに戻ると、白狐姿のミケと魔人族が向き合っている。
 ミケのデカさは前に見せてもらった時と同じくらいか、それ以上。
 対する魔人族は2mは軽くあるが、ミケと比べると小さすぎる。それに、背中しか見えないが女みたいだ。


******グンダリデ


 獣人の幼子が現れたと聞いて、最後尾に向かったけど既に消えていた。
 急いで前方に戻ってみれば、今度は上階からの大波でライノ達が流されてきたじゃない。

「お前達! 流されるなよ! 踏ん張りなさい!」

 私まで流されたりしないないように、踏ん張って耐えて顔を前に向けたら、その獣人が宙に浮いている。
 獣人の幼子は、生意気にも我らを見下し、腕を組み、不敵に笑っている。

「おのれ~! 何のつもりだ!」

 配下を押し退け近づいていくと、その獣人は逃げた。
 だが、視線だけは私から離さず、その目は明らかに私を馬鹿にしている。

「くっ! 待て! 逃げる気か! ……邪魔だっ、お前達! どけっ」
「何しやがる! あっ! グンダリデ様、ぐわっ」

 上へ続く坂を、配下を押し退け追いかける。


 坂を登りきって中に入ると、そこは壁に囲まれた袋小路になっていた。

「……まるで狩り場ではないか」

 ライノ達は進軍出来ていたのでは無く、ここに誘い込まれて狩られていたのか!
 獣人は壁の上に立ち、また私を見下ろしている。

「くっ! コケにしおって!」

 この程度の壁など、どうという事は無いわ!
 壁に飛び乗ってみると、広い部屋が広がっている。
 出入り口は……ここだけしかない。
 そして、ここにはヤツ1人しかいない。
 くそっ! もう真ん中まで逃げている!

 すぐに追いかける。

「さぁ、貴様にはこれ以上逃げ場は無いぞ? 例えここから下へ逃げおおせても、私の後ろには3,000の軍勢がいる。通すつもりは無いがな……」

「ふん! お主相手に逃げる必要なんぞないんじゃが?」

 獣人が初めて喋った!

「お前の目的はなんだ? なぜこのタンジョンにいる? そもそもダンジョンのモンスターではないのか?」
「知ってどうなるのじゃ? お主にはここで死んでもらうのに」
「私が何者か知らないようだな。教えてやる。私は魔王様にお仕えする魔王軍筆頭<力>のガンダーの……」
「あー、よいよい。長ったらしい。死にゆく奴の名など聞いても意味無いのじゃ」
「ぶ、武人の名乗りを邪魔するなど、獣人のすることか! 獣人族も誇り高いと聞いていたが?」
「獣人? 誰の事じゃ? 我か?」

 その獣人はきょとんとして、それから笑い出した。

「はっはっは! この我が獣人とやらじゃと? 何か勘違いしておるようじゃのぉ、仕方ないのぅ、我の本来の姿を見せてやろう」

 そう言うと、奴は動物の姿になった。
 真っ白の……オオカミ? いや、キツネか?
 だが、人の姿と獣の姿を切り換えられる獣人など聞いたことが無いわよ。

 ズッズズッズ

 なっ! 大きくなっている! ど、どこまで大きくなるんだ!

「これが我の本来の姿じゃ。死にゆくものに姿を見せる我の温情に感謝するが良い」

 その大きさはライノを軽く超え、サイクロプスをも超えているわ。
 こいつの前ではサイクロプスが薄っぺらく見えちゃうだろう……。

「ほ、本当に何者なのだ、お前は……」


******ユウト


 ミケと魔人族の女の対峙、ミケには余裕が見えるが、女にはそれがない。
 ミケに《テレパシー》で念話を送る。

“ミケ、聞こえるか? 念話だ”
“ああ、聞こえておる。……アニカ達なら巣にいるぞ。飛んで行かせたから無事じゃ。こいつも気付いておらん”

“そうか、で、どーゆー事? これ”
“まぁもう少し見てるのじゃ”

 念話を終えると、ミケが魔人族の女に話しかけた。

「お主、先程3,000の軍勢と言っておったがのぉ、その軍勢とやら、いつ来るのかのぉ? 欠片も見えんが?」
「何!」

 女が慌てて振り返る。泳いでいた目の焦点が俺に合った。

「なっ! 誰だ貴様! ヒト族か!」
「どうも、はじめまして。ヒト族とやらです」
「と、いうことでユウトよ、釣れたぞ? 指揮官」
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