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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第28話 塔攻略、佳境に入る。

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「おいおい、二正面の戦闘になるじゃないか」

 塔ではダンジョンモンスターとの戦闘、下からの魔王軍との戦闘、2つの勢力への対応が必要になるな。
 3体のライノがドシンドシンと音を立てて、巨体を揺らしながらこの階層へ入ってきている。
 そして、仲間であったであろうブラックウルフやオーガの死体を食べている。

「ユウトよ、あれの相手は我がしてこよう」
「俺が行ってもいいんだぞ?」
「ほれ、アニカ達が少し攻めあぐねておるぞ。助言でもしてやるがいい」

 確かにワイバーンの体表はこれまでのモンスターとは違い、硬めの鱗に覆われていて攻撃が通りにくくなっている。
 そして、攻撃自体もワイバーンの挙動、動きの緩急に惑わされてヒットし難いようだ。

「そうだな。あっちの対応はミケに任せる。ニア、ライノの特徴は?」
「はい、角での突き上げと突進の体当たりです。ダッシュ能力があるので結構速いですが、ミケさんが戦うなら何の問題もありませんね」

 そう言って、ニアはミケにアイコンタクトを送った。

「その通りじゃ」

「念の為に《スロウ》でも掛けるか?」
「心配無用じゃ、ほれ、行ってやらんか。我も任された」

 フライに加えて《フィジカルブースト》を追加で掛けてやって、ミケを送りだした。

「さて、あの2人は? っと」

 二手に分かれて挟み込む形には出来ているが、いまいち連続攻撃に繋げられないようだな。
 有効な攻撃がなかなか出来ないが、かと言ってやられているわけではない、という感じか。
 これまでの相手は武器でのゴリ押しで通じるような敵だったが、少し考えてもらうか。

「アニカ! アニタ! 武器だけじゃなくて自分が今使える魔法を効果的に使ってみろ」
「はい!」
「は~い! 何にしよ~?」

 そういえば、この2、3日ステータスを見てないな。
 ……使える魔法も増えているはずだけどな。

 ワイバーンの正面に対峙しているアニカが《ライトシールド》を張った。
 尻尾の攻撃を防ぐためか、軌道を限定するためだろうな。

「アニタ! ピカッと光るから後ろに隠れて眩しくないようにしてね? そうしたら翼を切っちゃて!」
「わかったよ~。《センスアップ》!」

 アニタは自分の感覚を鋭くして、すぐに反応できるようにした様だ。

 「《フラッシュ》!」

 ワイバーンの目の前で薙刀を揺らめかせ、視線を誘導してからのフラッシュ。これは効いただろうな。
 そして、アニタが後方から短剣術スキル、乱切りで翼を含む背中一帯を切りつけ、ワイバーンを落とす。

「ダブルスラッシュー!」

 落ち行くワイバーンをアニカが追い、スキルをぶつける。
 それだけで終わらず、床に叩きつけられたワイバーンにアニタがトドメを狙って一撃を繰り出す。

「すくりゅ~しょっと~!」

 ワイバーンは、「ギイイイイエエエェェェェェ!」と断末魔の叫びを残して消えた。



「お! 終わったようじゃの?」
「ああ、あの2人の吸収力というか、学習能力の高さには感心するよ」
「早速じゃが、あの出口、塞いだ方が良いかもしれんぞ。塔のモンスターも、また大群かも知れぬからの。ここは代わろう」
「そうだな、行ってくる」


 階層出口を塞ぎに行くと、ライノの死体が横たわっている。
 死体には多少焦げた跡があるものの、雷の痕が無く、爪撃によって殺されている。

「そう言えば、途中で雷の音もしなかったな……」

 
 出口を塞いで皆のもとに戻ると、既に上空にワイバーンの群れが見えていた。

 バチバチバチバチッ! ボワァ~! チリチリチリ……

 ミケが39階層で見せた“電気の層”を放った。
 ワイバーンの大群は電気に打たれたようにビクッと体を硬直させ、その所為でコントロールを失って、ぶつかり合いながら落ちてくる。

「ミケ、ナイスだ。魔王軍が蓋をブチ破って来るかも知れないから、早めにやっちゃおう」

 俺が《スリープ》と《シャドウバインド》で全ての動きを封じ、全員でトドメを刺して回る。
 地面に落ちたワイバーンを俺とミケで始末していく。

「そうだ、ミケ? ライノには雷を使ってなかったな?」
「お? 気付いたかユウト。出口の方に魔人族の気配があってのぉ、姿は見えなかったがこちらを窺っておった」
「ほう?」
「上に来た馬鹿とは違って知恵も警戒心もある様であったから、念の為に隠したのじゃ。倒す頃には居なくなっておった」

 ミケがそこまで考えを巡らせてくれるとは……

「おお! 偉いぞ! 愛い愛い」
「えへへ~、もっと言ってよいぞ?」

「さ、アニカ達がトドメを刺し終わったら次が来るぞ。2、4、6、8、9、次は9階か。行くぞ!」

 念の為に《ロックウォール》を重ね掛けして、さながらピラミッドの様にしておいた。

「ユウトー! もっと言わんかー!!」


「終わったか~?」
「もうちょっとです。ぜ、全力で刺さないと効かなくて……。ぐむ~、えいっ!」
「そうだな、硬いけど頑張れ」

 アニタには出来る限り自分の《フィジカルアップ》を使わせ、アニカには《フィジカルブースト》を掛けているが、子供の筋力だから仕方ない。



「ふ~、おわった~」
「やっと終わりました~」
「よくやり切ったのじゃ、ご苦労ご苦労」

 2人はミケに頭を撫でられてご満悦の表情をしている。

 
 下の階に下りてすぐ、ミケが感づいた。

「来る! 速いぞ!」

 反射的にアニカとアニタをかばいつつ、出し慣れている《ロックウォール》を張る。ミケはすでに飛び退き、姿を隠している。

 ドッガーーーーーーン!

 プロレスラーかと言うような見事なミサイルキックの姿勢で、モンスターが岩壁を突き破ってきた。
 そいつはすぐさま地面を蹴って空へと舞い上がり、空中で静止して腕組みをしながら俺達を見下ろしている。
 そりゃ岩壁も突き破るわ。思わず納得してしまうような、見事なプロレスラー体型。

 赤らんだ肌に深紅の翼、そしてワシの様な頭。

「……ニア、あれはガルーダか?」
「はい。体長は2m程しかありませんが、鋼の様な肉体とハーピー以上の風操作、飛行速度もずば抜けて速いです」

「キィィィェェェェエエエエエーーーーーーーー!」

 甲高い鳴き声と共に、翼を俺達の方向に一振りする。
 ハーピーのそれとは比較にならない程の突風が渦を巻き襲ってくる。
 
 その時、ガルーダの遥か上から一筋の閃光が走り、ガルーダの頭に光の先端が接触した。

 ドッシャ―ーーーーーーン!

 ミケの雷だ。
 ガルーダの頭は衝撃で吹き飛び、身体は絶命したことを示すようにサラサラと消えていった。
 雷が発生した位置にはミケが腕組みをして、仁王立ちでニヤリと俺達を見下ろしている。

「「「……えっ?」」」

「どうじゃ! 我らを見下ろす不届き者にはこの位の裁きが相応しいであろう?」
「「「……えっ?」」」
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