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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第22話 消えないモンスター。

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「あのオオカミ、消えないよ~?」
「何だって?」

 一瞬言葉の意味が解らなかった。

「だ~か~ら! 死んでも消えないのっ!」
「確かに死体が転がったままじゃのぅ。……どれっ!」

 バッシャーーン!

 ミケの致死性の雷が炸裂しても消えない。……もしや不死系モンスターか? 黒いし。

「ユウトさん、以前ダンジョンの魔力から生まれたモンスターは、死ぬと魔石を残して消えるとお伝えしましたね。消えないという事は?」

――!

「ダンジョンから生み出されたモンスターではない!」
「と、言う事は?」

「魔王軍か?」
「そうですね」


「ユウトよ、今はこの階層のモンスターが先じゃ」
「そうだな。こっちを片付けてから考えよう」

 気持ちを切り換えてモンスターを狩る。角の生えた黒いウルフ、ブラックウルフは10体いた。 このウルフは、見えている分この階層のモンスターよりも対処し易かった。


「よし、終わったな。ちょっと階層間を塞いでくる。整理しよう」

 塞ぎ終えて皆の所へ行くと、ウルフの死骸が集められていた。

「ニア、こいつが魔王軍だとして、弱いこいつがよく生き残れたな?」

「このブラックウルフの事ですね。このダンジョンは魔王軍の魔力によって作られていますので、ダンジョンモンスターは魔王軍の事は敵と見做さないのです」

「素通りで来られたってことか……」

 今日でダンジョンが出来て1週間。
 俺達がダンジョンに入って5日目で37階層。ペースは決して速い訳ではなかった。

「下層になるほど広くなっている事と、魔王軍は戦闘をせずに来られるという事を考えると、……このダンジョンは70階層くらいかな?」
「そうですね。10階層刻みとは限りませんが」

「この階層のダンジョンモンスターは姿がなかなか見えないから、探知能力に頼っていて、階層を進むほどモンスターの数も増えている……」
「それに加えて、この魔王軍とやらじゃ」

「厳密にはブラックウルフは魔人族ではなく、使役されているモンスターです。足が速いので、先鋒として先陣を切っているのでしょう」
「使役?」

「魔人族は人の姿ですが、青い髪と頭部に2本の角を持つという特徴があります。そして、角を持つモンスターを使役することが出来ます」
「という事は、ブラックウルフ以外にもいるということか……」

 魔王“軍”と言う位だから少数で来るとは考えられない。

「大所帯だろうし、進軍速度はそれ程でもないだろう」
「これよりデカイ奴もおるじゃろうしの?」
「うん。だけど、この39階層までのモンスターと併せての戦闘となるとスゲェ厄介だぞ」

 ダンジョンモンスターにメインの照準を合わせて、ついでに倒す感じでやるしかないが、問題は数だ。

「今日はどうするのじゃ? ユウトよ。進むか?」
「いや、無理を重ねた先で出くわしたらアニカとアニタがもたない。万全を期してここで休んでおこう」

 明日の朝一は、結構まとまった数を相手にしないとならなそうだ。

「明日は集中してフロアボスの階層まで突き進んで、フロアボスを倒す。そうすればしっかりと準備を整えたうえで、そこである程度相手を迎え討てるはずだ」

「私達がフロアボスになるという事ですね?」
「お~アニカ! 良いこと言うじゃないか! かっこいいな! 俺達がフロアボスだ!」
「最強のフロアボスなのじゃ!」

「ねぇねぇ? これも魔石持ってるの?」

 アニタが不思議そうに聞いてくる。

 ああそうか、モンスターだもんな。

「はい、ありますよ。こちらの世界の騎士や冒険者は解体して取り出します。皮や牙なども武器や防具、道具の素材になりますし」

 そうだな、バハムートの記憶の中で、確かに解体を任されてる奴がいたな。

「でも、ダンジョンモンスターの魔石より若干小さいです。空気中の魔力を摂ったり、食事からも魔力を摂取出来ますので、魔石が大きい必要がないのでしょう」
「そうだったんだ? でも、解体はこの中の誰も出来ないぞ?」
「じゃあ、アニタが持っとくよ! ストレージで」

 おっ、使えるようになったか! ……でもまだ容量が小さいだろうな。

「そうだな。アニタのに入りきらない分は俺のに入れとくよ」
「うん!」


 何事も無ければ、もう1、2階層進んでおきたかったが、こうなった以上仕方ない……。厳重に蓋をしてしっかり休もう。


******エベレストダンジョン下層、<力>のガンダー率いる第1軍団宿営地


 ガンダーは<力>の形容に相応しい3m近い巨躯に筋骨隆々、そして大きくまっすぐ伸びた角を有している。

「ここに入って7日、一向に出口に着かんな。グンダリデよ」
「兄者、今は我らが兄弟のグンガルガが先行しております。良い報せが届けば良いのですが……」

 ガンダーの下には双子の姉弟、グンダリデとグンガルガが就いている。
 両者ともガンダーには及ばないが、第1軍団の中では欠かせぬ戦力として確固たる地位を築いていた。
 グンダリデは女傑としてガンダー譲りのパワーを、グンガルガは力こそ2人より劣るが、スピードとパワーを兼ね備えている。

「うむ。グンガルガの奴は吾輩らよりも非力なれど、必ずや魔王メルガン様のお役に立つだろう」
「はい、グンガルガの使役するオオカミ共を含め、ヒト共に遅れはとりますまい。案外1人でバハムートを討ち取るかもしませんな、兄者」
「ハッハッハッ! そうかもな。そうなれば吾輩ら一族へのメルガン様の覚えもめでたくなろうものだ。ハッハッハッ!」
「では、私も部隊と共に先行致します。兄者はごゆっくりお越し下さい」

 ガンダーの元を離れるグンダリデは一抹の不安を抱いていた。

「……副官には手綱を締めておくようには伝えてはいるものの、グンガルガのオツムの弱さが出なければ良いのですが」


******グンガルガ隊


 ガンダー達よりもかなり上層にグンガルガの姿があった。

「グンガルガ様、進み過ぎです! これでは我らもモンスター共も倒れてしまいます!」
「あ~ん? うるせぇ! 兄者やグンダリデみたいなこと言うんじゃねえ! 俺が進めって言ったら進めばいいんだよ! バハムートとかいう人間をサクッと見つけてサクッと殺して俺の手柄にするんだ!」

「ですが……」

 ドガッ!

 グンガルガの蹴りが炸裂し、手下は吹っ飛んだ。

「黙りやがれ! 俺は手柄を立ててメルガン様のつがいになって、メルガン様を俺のものにするんだよ! グヘへェ、ジュルッ」

 そこへ別の手下が困ったように報告に来た。

「グンガルガ様、オオカミ共の様子だとこの先の道が岩で塞がれていて通れないそうです」

「あ~ん! 何言ってやがる! 通れないなら通れるようにするだけだろうがっ! このボケっ! 夜通しオーガにでもやらせろ!」
「はっ、はい!」

 なぐられた部下は逃げるように去っていく。

「ったく、使えねぇ連中だぜ! ……だが、だからこそ俺が引き立つってもんだ! 馬鹿も使いようってか~?」

 そして、閃いた。

「岩がどいたら、俺が先頭切って突っ走ってやる。ついて来れなかった奴には~、何の罰にしようかな~?」
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