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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第11話 魂と魂。

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「私はバハムート、バハムート・ファースター・エンデランスだ」
 
 バハムート! 魔王と刺し違えて、世界を救ったという英雄……
 身長は俺と同じくらい。
 それでいてがっしりしているのが綺麗な白銀の鎧を身につけていても判る。握手をした手は相当に剣を振り込んできた手だった。

 きれいな金髪、碧眼、整った顔立ち。
 まだ20歳位じゃないか? こんなに若くして英雄になったのか。

「ん? ……ということは、俺は死んだのか? ダンジョンに入っただけだぞ?」
「いいや、死んではいないよ。君の意識がここに来ただけだよ」

「ここは?」
「君の心の中……とでもいうのかな。長いこと君の中にいるが、こうやって話ができる日が来るなんて嬉しいな。私は君が生まれた時から知っているんだよ。なんでもね」

 バハムートは、笑顔で茶目っ気たっぷりにウィンクした。
 俺の両親より付き合いが長いじゃないか? ……ウィンクも様になってるな。


「私は、地球ではなくカストポルクスという星に生まれ、多くの仲間・盟友・臣下達と共に
ユロレンシア大陸を魔族の手から守るために戦った」
「臣下?」
「ああ、言っていなかったね。私はユロレンシア大陸にあるエンデランス王国の王太子だったんだよ」

 王族じゃねえか! 今までタメぐちだったぞ、俺。

「でも、そんなことはどうでもいいんだ。生きていた時の事だし、生きた倍以上の年月君の中にいるんだしね」

 そうか、……気を悪くしてない様でよかった。

「それで地球を出て、カストポルクスの領域に入った今、俺の身体を乗っ取るつもり……、とか?」
「ハハッ! そんなことはしないよ。ただ、少しだけ影響力が持てたようだから、ひと目会ってみたくてね」
「よかった。こんな俺でも守らなければならない人が出来たからな」
「そうだったね。あっ、彼女達なら今無事だから安心してくれ。君のことを心配しているが大丈夫だよ」

 ミケ、アニカ、アニタ、ニア……

「そうか、教えてくれて助かった。……で、会いたかったってことは、何か俺に伝えたいことでもあるのか?」
「君に関係するか解らないし、伝えることに意味があるのかも解らないが……」

 何か迷っている様子だな。

「君が進軍中の魔王軍と戦い、魔大陸にも攻め込むつもりだということで、1つ伝えておきたくてね……。知っての通り私は、魔王と戦い相討ちとなり命を落としたが、魔王を倒して魂を消滅させた。……だが、本当は私が命を落とすような状況ではなかった。魔王にトドメを刺す最後の攻撃。その瞬間……私は後ろから攻撃を受け、バランスが崩れて……相討ちという結果になった」

「後ろから、ということは仲間からってことか?」

 仲間に裏切り者でもいたのか?

「いや、仲間達と盟友のエルフ・ドワーフ・獣人・龍人達は魔王を取り囲むようにいた。私の臣下達は私の近くにいた……」
「ということは、他の人間ってことか!?」

「今となってはどうでいい話だけどね。……でも、気に止めておいた方がいいよ。魔人族はある意味戦闘力が全て、強い者が覇権を握りそれに付き従うが……人間はそうではない。狡猾な者がいるし、陰謀も渦巻いている。君も気をつけるんだよ」

 人間はどこの世界でも同じってことか……


「ま、本当に今の私にはどうでもいいことさ。君の身体を通して、地球の人間、文明を感じられていたしね。本当に私のいた世界とは違っていて新鮮に感じられたし、驚くことが沢山あったよ」

 遠くを見つめ、俺を通して見て来た地球の様子を思い浮かべているようだ。

「ふふっ、君は剣術が強かったのに、辞めてしまったしね。僕は一切手を貸していなかったよ?」
「そこを今言う?」

「あっ、君が子を成せば、その子供として地球に生まれることが出来るかも知れないと期待していたんだが?」

 うっ、痛いところをついてくるな。バハムートめ!

「でも、これから子を成すチャンスは多そうじゃないか。勇人殿? 子供はいいぞ~? こう見えて私には息子が1人いたんだ。……どうしてるかなぁ」

 子供がいる? その歳で? ……まあ、王族であれば当然なのかもな。

「なら、探しに行こうか。大人になっているだろ? いつになるかわからないが、必ず」
「ありがとう。その気持ち、嬉しいよ。でも、私に残された時間は少ないようだ」

 どうしてだ?

「――私の魂と君の魂は、少しずつ、少しずつ結びついていて、もうすぐ完全に融合するだろう」
「バハムートの魂が無くなってしまうのか?」

「それは私にも解らない。……だが、君がこの世界に入ったことで最後に君と会えて、話せて良かった。君の持つ剣、刀といったかな? それは私のものとは違い、扱い方も違うかもしれないが……、君に私の剣技とスキル、それに私の記憶を贈るよ。きっと何かの役に立つだろう」

 バハムートは自分が消えてしまうかもしれないのに、俺に……

「ありがとう、バハムート。あなたの息子の件、約束は守るからな」
「ああ、頼む。でも、無理はするなよ」

 彼は、笑顔でそう言うとゆっくりと姿を消していった。

 そして、バハムートのいた辺りから優しい光が俺に近づいてきて、俺の体に入った。
 バハムートの記憶が走馬灯のように俺の頭を駆け巡る。

 エンデランス王国国王と王妃である父親と母親に愛情深く育てられたこと。
 わがままだった年の離れた異母弟、可愛い甘えん坊な実妹。

 王太子妃である彼の妻ミーナとの出会いと結婚、生まれたばかりの息子アムートとの初対面。
 剣技を磨くための過酷な特訓。
 
 エルフの女王やドワーフの王子、獣人族最強の戦士、龍人の大戦士といった仲間達。
 魔王討伐への過酷な旅、そして魔王との戦闘。背後からの攻撃。……最後の光景。

 それら全てが俺の中に流れ込んできて、全て俺の経験したことのように感じる。

「頼むぞ、馬場勇人……」

 そんな声が聞こえた気がした。
 
 ありがとう、バハムート。見守っていてくれよ……



 ここに来た時とは反対に浮かんでいく感覚。
 また少しずつ暗くなっていく……、暗くなっていくが暖かい。
 真っ暗に……だけど、その先には小さな光。
 段々と光に近づいていく……
 光も大きくなっていく。

「……ト! ユ……ト! ユウト!」

 ああ、ミケの声がする。アニカやアニタも呼んでいる……。こちらも暖かい……


******現実世界のユウト


「う、うーん……」

 どうやらちゃんと戻って来られたようだな。

「ユウト!」「ユウトさん」「お兄ちゃん!」
 3人まとめて抱きついてくる。ニアも安心した顔で見ている。暖かい。

「ただいま、いきなり倒れて心配かけたな、みんな」
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