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第1章 突入! エベレストダンジョン!
第7話 姉妹との出会い。
しおりを挟むネパールまでの道のりを考えて、日の出に合わせて出発する。
え~っと? ガスの元栓閉めた、ブレーカー落とした、電化製品以外の家具類は全部収納した、家の戸締りオッケーっと。
まるで夜逃げみたいだな……
「おいユウトよ、ケーキは忘れておらぬだろうな!」
「ちゃんと持ってるよ」
……売るほどな。
「もしかしたら途中で《転移魔法》が解放されるかも知れませんよ。最初は目視できる範囲でしょうが」
「おお! それはいいな。早く使えるようにならないかな」
まずは沖縄へ飛び、朝飯を食べる。
ベトナムを経由してカンボジアのアンコールワットを空から見物して、タイで昼食。
ミャンマーのなんとか寺院を見物して、ブータン経由でネパールへ降り立ったのはもう夜だった。
首都カトマンズではなく、様子見を兼ねてエベレストへの玄関口の街・ルクラに降りたが、標高2,800m超の高地だから寒い。
ミケとニアには一時姿を隠してもらい、事前に調べていた日本人が経営するホテルに飛び込みで泊めてもらう。
「よく、こんな時期に来ましたね。私もそろそろ退避を考えているところですよ」
驚かれながらも、部屋に案内してくれた。パスポート提示させられなくて良かった。……無いし。
あのオーナー、小柄で物腰は柔らかいけど締まった体つきだったな。なんか武道でもしてたのかな?
「結構軍の車も走ってるし、ものものしかったな。飯は部屋でだな」
独り言のつもりが、ミケに聞こえたみたいだ。
「ケーキでよいぞ」
姿を隠しているが、耳元で囁かれる。
「いや、沖縄でもタイでも別腹で食ってただろ……」
チェックアウトする時に、無理を言って泊めてもらった礼を言う。
すると、オーナーが情報を教えてくれた。
「エベレストの穴ですが、資源があるんじゃないかって噂になって、ネパール軍が精鋭とシェルパ総動員で乗り込もうとしてるらしいですよ。中国側も、あちらのベースキャンプにある、チョモランマ派出所の精鋭武装警察官と解放軍の部隊を集めて穴を狙っているみたいですし」
早口でまくし立てたうえで、更に付け加える。
「――なにやらインドも狙ってるらしいですし、欧米も来るでしょう。ますます物騒になりますよ。お気を付けください。私も逃げる準備してますし……」
やたらと詳しいな、この人。
「心配ありがとう、ご主人。俺もすぐネパールから離れますよ」
そう挨拶して別れ、世界一危険な空港とやらを見てからエベレストに向かおうと歩く。
「キャーーーー!」
ミケも姿を現して2人で歩いていると、どこからか女の子の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「なんだなんだ?」
「あそこじゃユウト」
ミケが教えてくれた先には2人の女の子を囲む3人組の男達がいた。
人目につかない袋小路の路地のなかほどで、一人が見張りに立ち、一人が大きい方の子の髪を引っ張り、もう一人が小さい方の子の腕を引っ張り連れて行こうとしている。
「人攫いか?」
スマホを出して《認識阻害》《トランスレーション》を発動する。
「お前の死んだ親父に金を貸してんだよ! 返してもらうぞ!」
「そんな、お父さんは人からお金なんて借りるような人じゃないわよ! うそつき!」
「お前ら、親父が死んで家からも追い出されたんだろ? じゃあ返せねえよなあ?」
「金がねえなら体で払ってもらってもいいんだぜぇ?」
男の一人が小さい女の子を下種な目で舐めるように見て、下卑た笑いをする。
「お姉ちゃん! 助けて!」
「いい加減にして、お金を借りてたのはあんたの方でしょ!」
姉らしい女の子が男の手を振りほどき、妹をかばうように抱きついた。
「ちっ! めんどくせぇ。いいから連れていくぞ、早くしろ!」
リーダー格らしき見張り役が声をかけ、2人を連れ去ろうとしている。
「やめてぇ!」
一部始終見ているが、おそらく男どもの方が悪い。絶対そうだ。そうに決まっている。
「おいユウトよ。我が行こうか?」
ミケも怒っているな。
「いや、俺に行かせてくれ。あのクズども……」
男どもが女の子を無理矢理引っ張り路地から出ようとするが、俺が立ち塞がり、一番弱い風属性攻撃魔法《ウィンドボール》で3人の顔を撃った。
衝撃で女の子たちから手を離し、後ろへたじろいだ。
何も無いと思っていた所からの見えない衝撃に、わけがわかっていない様子だ。
「な、なんだ? 何があった!」
その隙に女の子を確保して、後ろのミケへ預ける。
「お主ら、もう大丈夫じゃぞ」
「さあ、これでお前らが袋の鼠だぞ。どうする?」
「おいおい、なんだこの兄ちゃん。正義の味方ですってかぁ?」
「へへへ、3対1でなにができるってんだよ、兄ちゃんよ~」
男達はそう言うと、腰に携えていたククリと言われるブーメランのような形をしたナイフを構えた。
「兄ちゃん……。何年ぶりに呼ばれたかなぁ、久しぶりだなぁ」
俺は感慨にふけり、若返りの特典の偉大さをしみじみ噛みしめる。
「おい! 聞いてるのかテメェ! そこをどきやがれ!!」
いかんいかん、俺としたことが荒事中に心ここにあらずになるとは。
空間収納から刀を取り出し、敢えて仰々しく鞘から外し、殺気をもって構える。
「な、何だあいつは……」
3人とも殺気にあてられ息をのんでいる。
このような狭い場所では、ククリナイフの方が取り回しが利くので有利だが、相手は素人のようだ。切るまでもない。身体強化も要らないだろう。
「チッ 怯むな! 行くぞ、お前ら! ついて来い!」
「あ、ああ!」
リーダーの男を先頭に一斉に襲いかかってきた。
後ろにはミケと女の子たちがいる。通すわけにはいかない。
突くように出してきたナイフを正面から打ち落とし、そのまま肩口から袈裟切りに打ちつけると、鎖骨のつぶれる鈍い音とともにリーダーが倒れた。
「ひとり」
続けて、体をずらして近い方の男の手首に振り落とす。
男は「グワァ!」と、低いうなり声をあげてナイフを落とし、痛みに悶える。
こいつも手首の骨が逝ったな……
「ふたり」
そして、すり抜けられるかもと一縷の望みにかけて駆け抜けようとする男。
逃げるという決断をしたこいつは状況判断能力がまだマシだな。――だが遅い!
背中に一撃。
衝撃にのけ反り、声にならない声を発しながら倒れ込んだ。
「さんにん」
3人目が離さなかったナイフを踏み押さえながら
「安心しろ。峰打ちだ……」
一度は言ってみたかったこのセリフを言える機会がくるなんて、なんて日だっ!
「ユウト!」
ミケが女の子たちと駆け寄って来る。
「まさか一瞬の間に3人を片付けるとは、流石じゃ!」
まるで自分のことのように喜んでくれるじゃないか。
「いや、大したことはしてない。それよりミケ、2人のことありがとな」
「我は、なにもしておらん。全てユウトの成したことじゃ。――っと、ほれ、お主ら」
姉とそれに隠れて続いて妹が、おずおずと前に来て、
「あ、あの……、アニカといいます。助けてくれてありがとうございます。ほらっ、アニタもお礼言って!」
「ありがと、お兄ちゃん」
頭の中にこだまする『お兄ちゃん』という言葉に、またも喜びに悶えそうになるのを堪える。
「どういたしまして。アニカ、アニタ、怖かっただろうによく頑張ったな」
2人の頭を撫でてやると、緊張の糸が切れたのか、泣き出してしまった。
痛みに悶えている奴らからククリナイフと有り金全部を取り上げ、脅しをかける。
「おい、お前ら。次この子たちに手を出してみろ、骨だけじゃ済まんぞ。わかってるか?」
「は、はい。わかりました」
見ているぞ! と指2本で俺の目と相手の目を交互に指すと、「ひぃっ!」と声を上げて、よたよたと逃げるように去っていった。
「空港見物どころじゃなくなったな」
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