俺と最強白狐娘の異世界“ながら”侵攻記~スマホの『魔法大全』アプリを持って、保護した姉妹を育成しながら異世界魔王にカウンター食らわせる!~

柳生潤兵衛

文字の大きさ
上 下
1 / 121
第1章 突入! エベレストダンジョン!

第1話 人生初のスマホを持ったら……

しおりを挟む

 西暦202X年、東北地方のとある小さな市の携帯ショップ。

「馬場様お待たせいたしました。これで各種手続きが完了いたしました。ご不明な点がございましたら、いつでもご来店ください」

 マスクをしていても美人と分かるある種の神々しさをまとったような店員さんから、挙動不審に思われないようにスマートにスマートフォンを受け取り、俺は店を後にする。

「ありがとうございました~。ご健闘をお祈り……」

自動ドアが閉まるか閉まらないかの微妙なタイミングで、なにか聞こえたぞ?

「検討を祈る? って、どういう意味だ? おっさんにはスマホは扱えまいってか? ……まぁ、いいか。それよりも早く充電でもしよう」

 俺は一瞬とまどったが、最新の、そして人生初のスマホに胸を躍らせて帰宅した。


******馬場勇人


 馬場勇人は40代のおっさん。
 ひとりっ子であるおっさんは、父親の影響で小中高と剣道をやっていて将来を嘱望されていたのだが、ワケあってやめた。

 両親ともすでに亡く、親の残した土地・家屋にひとりで暮らしている。
 ご近所さんとは挨拶や立ち話程度はするが、友人も少なく他人との付き合いはほぼ無い。

 現在無職。正社員として勤めていた工場の廃止の際、この年齢で県外に転勤し、やり直しのようなことになるよりは……と、早期退職の募集に応じた。
 
 以来、4日に一度の食料の買い出しと日課の散歩以外は「せっかく仕事のストレス、人間関係のストレスから解放されたのだ。たとえ1人であっても、面白可笑おかしく暮らしたい。就職するまでは俺だって愉快な性格だったんだ!」と心の中で叫びつつ、家でテレビやネット漬けでダラダラ過ごしている。

 そのおっさんがPHSから携帯電話に換えてから、数台の遍歴へんれきを経て20年は使ったガラケーをスマホに切り換えたのは、その長年にたまったポイントと感染性ウィルス禍の経済対策とやらで振り込まれた10万円があったからである。

 しかし、ポイントと10万円は手段にすぎない。きっかけですらない。
 実際に「今日スマホを買おう」と思い立ったのは、そうしたほうがいい、そうしなければという漠然とした思いからだった。


******


 ちょっとイラつくわぁ、コレ。
 充電は終わったものの、認証・追加認証の設定のあれやこれや、その他なんやかんや……

「ちっ、早く進ませてくれよ」

 これくらいのことでイライラするなんて、傍から見れば俺も老害か。


 2、30分は経っただろうか? 実はやってみたかったタップだのフリックだのに悪戦苦闘の末、俺は世の中の情報として聞いたことのないアプリが入っているのに気づいた。

「『魔法大全』? 何だこりゃ? 今時のスマホにはこんなのがデフォルトで入っているのか?」

なんせ俺は、20数年ガラケー持ちで3Gサービスの終了が迫ってきたからやっとスマホに機種変更するぐらいだから、そういう事にはうといのだ。

 『魔法大全』アプリをタップしてみると、スマホが震え始め、眩しいほどの光とキラキラとした爆音が発せられた。

「うぉぉおおおおお!!」

 爆音による耳鳴りもさることながら、スマホ画面を凝視していた自分を呪った。

「ふぅ、スマホは油断なんねぇな」



“ようこそ魔法の世界へ!”

“当アプリはあなただけがお使い頂ける専用アプリです”

“お使い頂く前に個人識別のため、登録をしましょう!”

 またか、と心の中で舌打ちしながら名前・顔・指紋等を登録した。
 すると、ようやくアプリの説明が始まり、スマホのバッテリー残量を使用し魔法を発動することが分かった。

 ブフゥーーーーーッ! ゲフゲフッ!

「魔法っ!?」

 再度の登録作業で荒みかけた心を癒そうと、コーヒーを口に含んでいた俺。
 驚きのあまり、全部噴き出してしまった。鼻にも入ったなコリャ……


 気を取り直して、スマホに視線を戻すと、

“アプリ開始特典①として、お使いのスマートフォンが壊れないようにする無属性魔法の《アンブレイカブル不壊》をかけます”

“この魔法の発動により、バッテリー残量はほぼなくなりますので、発動後の充電をおススメします”

 バッテリーを使って魔法発動ってどういうことだ?

“噴き出したコーヒーも、充電中に拭いておいてください”

 そう表示されると、俺はアプリを開いた時と同様、爆音と閃光に包まれた。
 耳鳴りとおぼつかない視界の中、目を細めながらキョロキョロあたりを見回すがもちろん誰もいない。

「……なんで俺がコーヒー噴いたことを知ってるんだよ? 恥ずいな」



 フル充電を確認してから改めてアプリを開いたが、今度は閃光も爆音も無く安心している自分がいる。
 よし! 新しいコーヒーも用意したし、再会だ。

“アプリ開始特典②として、【使用魔力低減‐大‐】【魔力回復‐大‐】のスキルをあなたに付与します”

 スキルってなんだ? 不安しかないんだが。

“今は、そういう体質になると思ってください”

 スキルや「今は」という言葉が引っかかるが、しょうがない。
 眩しさに備え、視線をスマホから逸らしつつ発動ボタンを押す。

 ピカーーーーーッ!

 視線を逸らした先の窓には光り輝く俺の姿が映っていた。

「……俺が光んのかよ。……しかし年取ったなぁ俺も」


 俺は窓を眺めながら発光が収まるのを確認した。体感的には変化がない。気持悪くもなってない。
 リビング――居間だけどな――で光ったため、ご近所さんに見られたのではないか思ったが大丈夫そうだ。
 念の為にレースのカーテンを閉じる。

“アプリ開始特典③として、あなたの身体を丈夫にします”

“少し若返らせて病にも強くします。20代半ばに戻るような感じと捉えてください”

 魔法・スキル・爆音に発光……。極めつきに若返り。
 なかば諦観気味に要求する。

「視力を良くしてくれ」

“わかりました。では、発動します”

 「はい、光るっと」と言った時には、俺はすでに光っていた。


「おぉ!」

 若返ったであろうことではなく、これまでとは全く違う視界に感動している。
 若返ったと言っても俺は俺だ。ご近所さんは年寄りばかりなのでそんなに怪しまれまい。
 さすがに若い別人に成り変ったのなら、ご近所さんに怪しまれるだろうが……
 
 小さい時から視力が悪く、運転や細かい字を読むときは眼鏡が必要だったのが解消された。
 その喜びがとにかく大きかった。

「――あ、髪! 生え際が前進してるっ! ラッキー!」


 アプリ開始特典は3つだったようで、スマホ画面には簡単な絵のついた7色のアイコンが並んでいる。

“魔法は様々な系統に分類され、それを属性とよびます”

“火・水・地・風・光・闇そして無属性の7つです”

“魔力を使って物質化したり、現象を引き起こすのです”

“この『魔法大全』には、人間の使える全ての魔法が網羅されています”

“論より証拠、百聞は一見にしかず。実際にやってみましょう”

 試しに火のアイコンをタップすると、ズラーっと火属性の魔法が並び、一番上のファイアとファイアボール以外は薄い文字で表示されている。

「こりゃ家の中じゃ危ないよな」

 時刻は夕方に差し掛かっている……
 
「楽しみだけど、……明日だな」



 夜が更け、風呂上がりの火照った体を夜風で冷ましていると、どこか遠くの方で犬と喧嘩する動物の鳴き声がキャンキャンコンコンと響いていた。ありゃ何の動物だ?


******カストポルクスという星の天界


「お帰りなさいませぇ。ディスティリーニア様ぁ」

 天使たちが女神の周りを飛び交いながら出迎えた。

「まさかカストポルクスに再び英雄として生まれるはずだった魂がこんなに遠い世界の星にいたとは……」

「全く違う星ですものねぇ」「おじさんになってましたねぇ」

 天使たちがクスクスと笑っている。

「わたし、女神様のお手伝いしましたですぅ」
「一生懸命探したですぅ」
「わたしもぉ~」

 キャハァ♪

「人の多い国や都市から探しっていったものだから、随分と時間がかかってしまったわ。でも――」

 本来カストポルクスという星で輪廻するはずの魂が、次元の裂け目に奪われて……。他の星を探し続けて数十年。やっと見つけた女神は瞳に力を込める。

「まだ間に合うわ。私が地球で授けた力と私の分身のサポートがあれば、カストポルクスから彼を狙って攻めゆく魔王の軍勢を返り討ちに――いえ、逆にヤツらの通り道を使ってこのカストポルクスまで攻め入ることができるわ」
「来ちゃえ~! 来ちゃえ~!」

「その後は……。馬場勇人さん、期待しているわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...