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第1章 Departure for the Fantastic World
第42話 反撃宣言!(3)
しおりを挟むその後、少し離れた人気のない通路で、お互いに袋に入っていた装備を選別し合って付けた。
わたしが取られていたのはウェブリーと呼びの実包。ハルが取られていたのは〝魔法使い専用〟の杖とパラベラム・ピストーレ――通称ルガーP08だ。9mm×19パラベラム弾を使用する、作動機構が少し変わった拳銃。実包に入っている弾の弾丸は、鉛ではなく鉱物を加工したようなもの。これはハルの国で作ったものなんだろうか。
わたしのウェブリーには空になったはずのチャンバー内に新しい弾が六発装填されていた。それから、地面に転がしたはずの空薬莢。そしてリコイルシールドとシリンダの間に挟まっていた紙きれが一枚。
『一応忠告しておきます。一緒に行くのなら、彼の手綱を握って離さないように』
これは、彼女なりの気遣いなのだろう。冷たい凶器という彼女の印象が、だいぶ変わった気がした。
「はい、ルガーの実包。弾丸が鉛じゃないのね。ルガーもハル用に改造されてたりするの?」
「・・・・・・うん」
「その銃ってトグルアクションだし、部品数も多いからジャムりやすいじゃない。でも形がかっこいいっていう話も聞くし、やっぱりロマンとかで選んだの?」
「・・・・・・うん」
「薬莢も全部拾ってくれてる・・・・・・今度会った時にお礼言わなくちゃ」
「・・・・・・・・・・・・うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「・・・・・・うん」
力ない返答と、独り言に対する返答で以上に気が付く。顔を上げて相棒の方を向くと、最初にわたしが手渡した実包を握ったまま地面の小石を見つめていた。
「――――――」
「・・・・・・リーナ。ひとつだけ訊いていい?」
「ええ」
一体何を悩んでいるのだろうか。本当なら問いたださないで話してくれるまで待つのが正解なんだろう。こと心の問題に関してはきっとそっちが正解だ。急かすというのは、聴く側本位の行為なのだから。
だけど、いまそんなことをしている余裕はない。だから訊こう――そう思って口を開く直前、ハルが話し出した。
顔を上げ、真面目な表情でわたしを見つめる。
「決めてほしいんだ。ここで別れるのか、もう少しだけ協力してくれるのか――――?」
言葉が尻すぼみになったのは、決してハルが言うのを止めたからじゃない。いや、実際はそうなのだけれど、怖くなってやめたとか、何か思うところがあって辞めたということじゃないという意味だ。
怪訝な表情を浮かべたのは、わたしが大きなため息を吐き乱暴に髪をかき乱したからだ。
「はぁぁ~~~~~~っ。あーもう! どーしてそうヘタレるかな・・・・・・」
「え? は?」
周りに聞こえるかもしれないくらい、遠慮という行為を忘れた声量。そのことに気が付いたのは、少ししてからだった。
自分の髪の間に手を突っ込んでわしゃわしゃと掻く。紙がぼそぼそになるけれどそんなこと知ったことじゃない。今の今までハルがそんなことに悩んでいたのかということにイラついていた。
正確には、まだわたしが観光客として見られていたということに気が付いたからか。命を預けるという行為を頼む相手に数えることを戸惑ったことに対してか。
「あのねぇ」
孤児院にいたころ年下と子たちを諫めていた時と全く同じ口調でハルと向き合う。
「ここまで来て『はいさよなら』なんてできるわけないじゃない。ハルがそうやって訊いてくるってことは、わたしがいなくちゃこの後に支障が出るってことでしょ? そんな危ない賭け見逃せないわよ。わたしはあなたの弟子で、相棒なんだから、こういう時は無茶言ってでも頼むものでしょ? あと、変な気を使って置いて行かれるならわたしはわたしで勝手にさせてもらうけど」
「・・・・・・っ、――――。」
そう一気にまくし立てた。
言われた当人は、どういうことなのかまだ理解が追い付いていないのか唖然とした様子でフリーズしている。
数秒遅れて理解したのか、ハルはクツクツと笑いながら苦笑をうかべた。
「――ははっ。強引だなぁ」
「君が訳わからないところでヘタレるからよ。それで、どうしてほしいの?」
何か吹っ切れたような顔をしているのは、少しだけ嬉しそうに、安心したように見えるのは気のせいだろうか。一瞬だけ歳相応の純粋な笑みを浮かべた後、口元を引き絞ってわたしと対面する。
口を開く。もう迷いはなかった。
「協力してくれ。頼みたいことがあるんだ」
魔法は使えない。
それはハルとわたしの首に冷たく鎮座する枷が証明している。
助けは呼べない。
ハルの言葉と、アイラの言葉が何よりの証拠だ。
手詰まり、八方ふさがり、そう言った表現がふさわしい。
でも、万策尽きたわけではないらしい。
「あの人を止める」
それは、あきらめていない決意の表れ。
そして、明らかな反撃宣言。
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